第5話 持続可能な脱炭素多様性社会


 またまたアスカがネットで仕入れた情報を俺に開陳し始めた。


「ネットで知ったんですけど、この環境活動家のグレチャッタさん。地球温暖化の為に頑張ってるんですよね」


「グレチャッタさんねえ。何だか目つきの悪い17歳の女子だったよな。アスカ、それがどうかしたか?」


「マスター、グレチャッタさんはどうでも良いんですが、地球が温暖化すると何か問題があるんですか? 灼熱化とか白熱化なら大変でしょうが、今氷河期の地球が温暖化することは良いことじゃないんですか?」


 グレチャッタさんはどうでも良かったんかい!


「さあ、寒いところに住んでいると暖かい方がいいと思うんだろうけど、暖かいところに住んでると、暑くなってしまって住みにくくなるんじゃないか」


「要するに、温かくて住みよい土地に住んでいる多数派の人が、寒くて住みにくい土地に住んでいる少数派の人達のことを気に掛ける訳でもなく自分の主張を声高こわだかに叫んでるということですね」


「地球の気温が上がっていくと南極の氷が融けて海の水位が上がって低い地面は水没するって話だし、気候の変動も激しくなって災害も起きやすくなるって聞くから、一概に決めつけられないけど、そういう面が大きいんじゃないか?

 地球温暖化がどうのこうのと環境活動家と称する連中がいろんなところから湧いて出てきてるだろ。

 それらしいことを言って環境活動してますと言ってればお金になるんだよ。お金にならないなら生きていけないものな。それでそいつらは、世の中の多数派の為に頑張ってますよアピールをしてるんだ。いい商売なんじゃないか? だけど分別の付かないような未成年者を使ってまですることじゃないだろ、とは思うぞ」


「環境活動家はお金のために地球温暖化を利用してるんですね」


「温暖化ビジネスって言葉もあるくらいだし、自分から環境活動家だと言ってるようじゃそうなんだろ。地道に道端のゴミを拾ったり、節電したりしている人は自分のことを環境活動家とは言わんだろ」


「まさに、持続可能な脱炭素多様性社会ですね」


「持続可能な脱炭素多様性社会がどういうものなのかはいまいちだが、声がデカいとそれが民意だと錯覚する人が大勢いるんだ。今の世の中一番声がデカいのはテレビに代表されるメディアだな。どんなデタラメを言ってもお咎めがない。それが民主主義の弊害だ」



 翔太たちのいる居間のテレビではいま国会中継をやっていた。


「……テレビの中であの人たちは何をしてるんですか? いま重要な会議をしてるんですよね?」


「なんかの特別委員会の中継だ」


「武器を振り上げて会議ですか」


「あれはプラカードっていっていわば持ち歩きの看板だな。テレビの放送があると、あの連中はあれを振り上げて、テレビを見てる人にアピールするんだよ。頑張って政治活動してますよって。あんなことするくらいなら、サンドイッチマンにでもなればいいのにな。そっちの方が目立つしあの連中には似合ってると思うぞ」


「マスター、サンドイッチマンって何ですか? ヒプチャカメチャチャみたいな感じのモンスターですか?」


「アスカの創作モンスター、幻獣ヒプチャカメチャチャか、懐かしいな。サンドイッチマンは俺も最近知ったことばだから、アスカも知らなかったか。

 それで、サンドイッチマンてのは、体の前後に大きな看板をぶら下げたおっさんのことだ。看板に挟まれてサンドイッチにされてるからサンドイッチマン。なんとなくわかるだろ?」


「サンドイッチマンになれば前後からの攻撃には強いかもしれませんね。あの人たちは政治家なんですよね、政治家は前後ろから攻撃を受けるんですか?」


「よく、味方と思ってたやつから後ろから攻撃されることがあるそうだぞ」


「素人が政治家になるには、けっこう危険な職業なんですね。そんな危険を冒して政治活動をしてますよアピールですか」


「世の中、中身がなくてもアピールだけのヤツって多いだろ。アピールしてりゃお金になるんだよ」


「マスターの話を聞くと、政治家というのはさっきの話の環境活動家みたいですね」


「ある種の活動家だな。ああいうのは政治家というより政治屋って言うんだ。まともな政治家があんなことするわけないからな。そうい意味ならアスカの言う通り環境活動家と同じだ」


「環境活動家と同じということは、どこかの誰かの為に頑張って、その人たちからお金を貰ってるってことですね」


「そうなんだろ。どこかの誰かが日本国民ならまだ救いはあるけどな。

 そう言えば日本のアニメなんかに出てくるのはたいていは日本人だが、海外に輸出しているようなアニメにそのうち『黒人が出ていないからおかしい』とか言い出す連中がきっと現れるぞ」


「アニメに黒人がでなければ問題があるんですか?」


「黒人がでなければならない必然性があれば当然出ているわけだから、必然性なんてどこにもないんだ。だけど黒人がでないことは『差別』だ、などと言い始めるんだよ」


「どうして『差別』になるんですか?」


「日本じゃ考えられないけれど、黒人っていうのは昔から差別の象徴だったからじゃないか。これも環境活動家と一緒で『差別』と叫ぶとお金になるんだよ」


「なるほど。全てはお金のため。まさに持続可能な脱炭素多様性社会ビジネスなんですね」

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