第8話 カフェ

 カフェに移動してきた。

 店員さんに案内されて席につく。


「柏くんは何食べる?」


 そう言って響は俺にメニュー表を渡してきた。


「九条さんは?」

「私はね〜。タコライスにしようかな〜」

「タコライスか。美味しそうだね」


 俺はメニュー表をめくっていく。

 こういうのって何を選べばいいか悩むんだよな。

 とりあえず、無難に当店のオススメメニューとかにしておこうかな。


「俺はこの当店オススメハヤシライスっていうのにするよ」

「それも美味しそうだね」


 響が手を挙げて店員さんを呼ぶと二人分の注文をした。


「さて、料理が来るまでラブコメ話でもしようじゃない。お兄さん」

「だから、そのラブコメ話ってなんだよ」

「普通に自分の好きなラブコメを語り合うだけだよ

!」

「あ、そう。そういうこと」

「ということでまずは私からね!」


 響は自分の好きなラブコメ設定をいくつか言っていった。


「やっぱり私はハーレム設定で主人公を取り合うのが好きだな〜」

「俺は一人のヒロインと確実に距離を詰めていく系が好きかな」

「うわぁ〜。そっちも捨てがたいね〜」

「結局、九条さんはどんなジャンルでも好きなんでしょ」

「まぁね!あ、でもエッチなのはちょっと苦手かも」

「あー。それは俺も苦手かも」

「だよね〜。あ、ご飯がきたよー」


 店員さんが俺たちの前に料理を置いた。

 俺の前にハヤシライス。

 響の前にはタコライス。

 匂いだけで涎が出てきそうなほど美味しそうなハヤシライスだった。


「これは絶対に美味しいやつだね」

「そっちも美味しそうだな」

「一口食べる?」

「え、いいの?」

「うん。その代わりハヤシライスも一口頂戴!」

「それは、もちろん」

 

 俺はスプーンで一口ハヤシライスを掬って響のタコライスの入った器に入れようとした。


「何しようとしてるの?」

「何って、ハヤシライスをあげようと思って・・・・・・」

「え〜。そんなのつまんないじゃん!男女が二人向かい合って座ってたら、ラブコメで起こることといえば、やっぱりこれでしょ!」


 そう言って響は宙ぶらりんになっていたハヤシライスをパクッと食べた。

 これは、ラブコメでいうところの『あ〜ん』だ。

 俺が意図してやったわけではないけど『あ〜ん』をしてしまった。


「く、九条さん!?」


 目を丸くして驚いた俺を見て、ハヤシライスを飲み込んだ響は言った。

 

「あはは、ラブコメのテンプレの驚き方だ〜!」


 俺の驚く姿を見て響はお腹を抱えて笑っていた。


「ラブコメって・・・・・・」

「ありがちな展開じゃない?」

「まぁ、そうだけど・・・・・・」


 確かにラブコメでは恋人同士で行われる神イベントだが・・・・・・。

 俺たちは恋人ないし、今のところ恋人になる予定もない。ましてや、響の告白を俺は一度断っている。 

 こんな展開をするには俺たちは不釣り合いな関係だ。 

 しかし、そんなことはどうでもいいといった感じに響は妖艶な笑みを浮かべて言った。


「ということはこの後の展開も分かってるよね?」

「一応・・・・・・」


 流石に数々のラブコメを読んできたから、なんとなく響が何をやらろうとしてるのかは察しがついている。

 響はあれをするためにタコライスをスプーンで掬っていた。


「はい、あ〜ん」


 やっぱりな・・・・・・。

 だから、俺たちにはそれは不釣り合いなんだって・・・・・・。

 

「ほら早く食べてよ〜」

「いや、九条さんは俺の彼女か!?」

「え、違うの?」

「ち、違うだろ!?」

「残念。どさくさに紛れて彼女になろうと思ったのに〜」

「どこのラブコメだよ!?」

「まぁまぁ、それはさておいて早く食べてよ。腕が疲れるんだけど」


 そう言った響の腕は確かにプルプルと震えていた。

 結局、俺が食べないと響はその手を引っ込めることはないだろう。

 

「分かったよ。食べるよ」


 不釣り合いと思いつつ俺は神イベントをこなすことにした。

 俺は響の差し出したタコライスを食べた。

 そんな気持ちとは裏腹にタコライスは美味しかった。


「これで私たちは恋人同士だね!」

「だから、そうはならないから!」

「ちぇ〜」


 響は頬を膨らませて俺がさっき食べたスプーンを使ってタコライスを食べた。

 普通に間接キスしてるし・・・・・・。

 しかし、響は何も気にしていない様子だった。

 俺は響が食べたスプーンで食べるのを躊躇っているというのに。


「ほんと、柏君って強情だよね。こんなに好きって伝えてるのに、私と付き合ってくれないなんて」

「どっちがだよ。九条さんの方がよっぽど強情だろ。てか、なんでそんなに俺のことが好きなんだ?」

「それ、聞いちゃうの?」


 そのなんだか含みのある響の言い方に、なんだか開けてはいけないばパンドラの箱を開けたような気がした。


「もう一回聞くけど、本当に聞きたい?」

「いや、やめとく・・・・・・」

「な〜んだ。せっかく、柏君への愛を語ろうかと思ってたのに」

「やめといて正解だったみたいだったな・・・・・・」

「私としては言いたかったけどね〜」


 そう言って笑いながら響はタコライスを口に運んだ。

 本当になんで響は俺のことが好きなんだろうか。

 中学ではそんなに接点があったわけではないのに好かれている理由が全く見当がつかなかった。

 

「ん〜。美味しい〜」


 俺の悩みなど知らないかのように響はしあわせそうにタコライスを食べ進めていった。

 

 ☆☆☆

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