第四話 いきなりラスボス三匹の内二匹に絡まれた件について

 みうみうの後を追ったあたしちゃんが目にしたのは、変わり果てた狐石町の姿だった。

 大鳥居を抜けると、T字路に出る。左に進むと狐石駅、右に進めばあたしちゃん家と町役場と、高身長白髪ロン毛でめちゃんこ渋いヒゲのお爺さんがやってる喫茶店がある。このお爺さんマスター、麦野さんはウチの道場の門下生でもある。大鳥居から真っ直ぐ進むと、広い道路を挟んで商店街があって、左右に伸びるアーケード街が二つ伸びている。神社に近い方が本通アーケード、遠い方が狐石通アーケードだ。

 実はこの街の人々のほとんどが人間と妖怪の子孫で、数%は妖怪の血が流れている。しかも中には人間社会に溶け込んでいるヒャクパー妖怪な人もいるんだよね。あいちーはご先祖さまは狸の妖怪だって言ってた。人と妖怪がアゲアゲハッピッピで暮らす街こそが、狐石町の本当の姿だ。

 その街が、妖怪によって破壊されている。破壊って言うより、なんだコレ。なんか全体的に狐石神社みたいな鳥居と狐の象がバグったゲーム画面みたいにぐちゃぐちゃになって乱立している。


「何が起きてんのコレ。荒国さん、わかる?」

「カオティック出現の第一段階・・・・・・と、三代目が言っていた。奴らは文明を喰い、宇宙を喰う化け物だ。お前達人間がジャガイモからコロッケを作るように、カオティックは街や土地を食べやすい姿に変えるらしい」


 って事は、狐石神社がヒナピにとって食べやすい文明の姿なのか。それだけこの街を、五百年前のこの土地を愛していたのかな。

 愛していた街の未来の姿を、愛していた時の姿にしてサクモグゴクンする突然変異型生命体カオティック・・・・・・そんな悲しい妖怪でも、あたしちゃん達十三段流は斬らなきゃいけない。

 ヒナピが本当にこの土地を愛してたかどうかは知らんけど。


 あちこちから悲鳴が聞こえる。狐のお面を被ったヒナピの眷属が商店街だった場所で暴れ回っている。

 この眷属を倒していけば、どこかでみうみうのお姉さんや妹と鉢合わせするはずだ。まだまだずっと先の話だろうけどね。だから、まずはこの商店街周辺にいる奴らを全員叩っ斬る☆


 四ちゃんの光は左右に伸びるアーケード街だった場所に向かっている。飛ぶように走って、目的地へ向かう。アーケード街は鳥居が続くちょいエモ通路になっていた。


 最初に見た狐モンキーと、狐のお面を被ったイカの頭をしたゴリラみたいな奴らが一箇所に集まっているのが見える。こんなん普通の人が見続けたら、頭おかしなるで。頭おかしなるで!

 井戸の水飲むと心が軽くなるのって、こういうグロキショモンスターに遭遇してもなんとも思わなくなるように・・・・・・なのかなって思う。前のあたしちゃんならこんなん見たら気絶してるわ。

 眷属達は誰かと戦っているようで、噴水かよってくらいにボンボンぶっ飛ばされている。


 あの動きは維だ。街には何人か門下生がいるから、その内の誰かかな。助けにいかなくちゃ。


「そこの人! ウチの門下生だよね! 助けに来たよ!」


 叫んで、眷属の群れに突撃する。維は元々一人で多数の敵を倒す技術だ。そこに妖怪だけを斬る荒国さんが合わさって、さいつよ無双剣術となる。しかもあたしちゃんは井戸の水、三代目の血を飲んでいるので、さいつよ無双一億万パーセントなのである。

 四十匹はいたのかな。なんか五秒くらいで全員虹色の光になった。ドサドサと取り憑かれていた人が倒れていく。こうして元に戻れる人はいいけど、イカ頭はもう人間の身体は残ってないみたいだから、みんな光になった。

 その中心で、木刀を両手に二本持って立っていたのは、喫茶店のマスター麦野さんだった。


「おや、誰かと思えば、澪ちゃんじゃないか」


 麦野さんは息一つ切らしていない。ガチイケシルバーは、ホワイトロン毛の乱れをファサっと直して、木刀を両手に持ったままシャツをピンっとした。

 全ての動作がガチイケシルバー過ぎて少しキュンとしてしまった。


「麦野さん、つよつよジジィすぎじゃん」

「そうでもないよ。澪ちゃんと荒国さんの助けが無かったら、僕はダメだったかもしれない」

「麦野、何を言う。全盛期と変わらぬ維、見事だったぞ」


 三人で笑い合うも、すぐに麦野さんは真面目な顔になった。こうしてる間にも何処かで誰かが襲われている。その事実を忘れそうになったあたしちゃんとは大違いだ。


「澪ちゃん、成人の儀を無理矢理したんだね。昔からおてんばなんだから。でもお陰で奴らに勝てる道が見えた」

「麦野ら門下生は水を飲んでも力は得られない。だが、みんな破邪の木刀で奴らを止める事くらいは出来るからな」


 え、この木刀そんなカッコいい名前ついてんのか。


「僕らは街の人を助けながら、奴らを食い止めつつ、一箇所に集める。永鉠郎くん達はどうしてる? 無事なら一網打尽に出来るかもだけど」

「パパ達はやられちゃって封印されちゃった。今はあたしちゃん一人だよ」

「そっか。手強い奴らだな」


 麦野さんもあたしちゃん達一家が不死身なのは知ってるんだろう。特に心配している様子は無い。ここまでじゃないけど、このイケジジィはお爺ちゃん達と一緒にヤバイ戦いを経験してきたんだろうな。だから、こんな時でも冷静なんだろう。

 その時だ。四ちゃんの声がして、アーケード街の入り口から気配を感じた。


「たぁぁぁすぅぅぅぅけぇぇぇぇてぇぇぇぇぇ!!!!!」


 ド派手な服を着た金髪の日焼けギャルお姉さんが叫びながらこちらに走ってくる。その後ろを、でかいボールが転がりながら追っている。なんだアレ。

 よく見ると、それは狐面を被ったたくさんの人で出来たボールだ。なんか派手な服を着てる。

 んー。ギャルお姉さんも、あのボールの人達が着てる派手な服も、どっちも見た事あるなぁ・・・・・・。

 麦野さんの方が先に思い出したようだ。


「あれは、フォックスネストのホスト達では?」

「第二アーケードの細い通りにある面白イケメンパラダイスの人ら? 門下生のリオン兄ちゃんが働いてるとこ?」

「間違いない。あの真ん中から少し右の所のどこかにリオンくんがいる。あの手の形、間違いなくリオンくんだ。荒国さん、わかるか?」

「たしかにあの手はリオンだ。あの状況で維を使っている。大した奴だ」


 なんでわかるんだよ。麦野さんもチート級のバケモンじゃん。

 でも、よく見ればあたしちゃんにもわかる。手の形がどうとかはわかんねーけど、あの人間ボールの中で一人だけ、あそこから出ようと頑張ってる人がいる。

 アニキの友達で、背が高くてイケメンでトークも面白いリオン兄ちゃんは、フォックスネストって言うホストクラブで働いていて、裏方兼用心棒みたいな事してるって言ってたな。あんなに顔が良くてトークも面白いんだけど、あたしちゃん達みたいな子供じゃない、大人の女の人の前だと緊張してアガっちゃう童貞だからホストはやらないんだそうだ。

 あの顔と身長と体格とトーク術を持ってて童貞って、神様はやっぱり運命と書いてイジワルと呼ぶ事をやらかす存在だって事を再確認した。


「ぎゃあああああ! 潰れる! 潰される! そこの人ー! たーすーけーてー!」


 金髪ギャルは、こちらに向かって走ってくる。ようやく思い出した。あの人、態度も口も悪いけど接客サービスが良くて人気のコンビニ店員、古都楽ことらさんじゃん。名物店員ってテレビに出てた有名人じゃんよ。


 四ちゃんの声と光に従って飛び込み、ホストボールの中心に、荒国さんで突くような絶を打つ。タイミングは完璧だった。ホストボールはバラバラになり、零れ落ちた人達の中からリオン兄ちゃんを拾って、飛んで距離を取り、狐面の人達から古都楽さんを守るようにして立つ。


「おっ。オメー、狐高きっこーの仲良し五人組の一人じゃねーか。みおみおだっけ。その髪の色ヤベーな。昨日まで染めてなかったじゃねーか」

「えー! なんで名前? なんで? は?」

「いつもガッコ帰りの時間に来てオメーらギャーギャーうるさかったからなー。後輩連中の中でも特にウルセェから嫌でもおぼえるわ」


 す、すげぇ! なんだこのコンビニ店員!

 つーか狐石高校のパイセンなんか、この姉ちゃん。


 古都楽パイセンは、いつものガラの悪いコンビニ店員みたいに話してるけど、その手はよく見ると震えている。

 そりゃあんなホスト肉団子に追いかけられたら怖いよな。


「古都楽のお嬢ちゃん、僕の後ろに」

「麦野のじいさんだったのか。オメー、すげぇジジィだったんだな」

「君ほどではないよ」


 パイセン、知り合い多いなー。そして誰に対しても態度が悪過ぎる。でも、こんな状況でも態度を変えない。この人はわかってる。いつも通りがどれだけ人に安心を与えるのかを。この人も麦野さんくらいスゲー人だ。


 だからこそ、あたしちゃんも前を向ける。ホストボールが元に戻ろうとしている。眷属・・・・・・妖怪の本体がこのホストボールを作ってるはず。


 四ちゃんの光が本体を示す。リオン兄ちゃんを含め、狐面ホスト十四人全員が光った。全員が本体と言う事だ。

 うん。無理ゲーじゃん。無理ゲーだけど、十三段流の前に無理ゲーは存在しない。

 まずリオン兄ちゃんの狐面を荒国さんで剥がす。リオン兄ちゃんから光が消えて、狐面が虹色の光と共に消えた。なるほど。とにかく全員の狐面を剥がせばホストボールは消滅して優勝って事だ。

 んじゃ、圧勝優勝あたしちゃん劇場、始めちゃうとしますか☆


 中段の構えを取ろうとした時、うずくまっていたリオン兄ちゃんがあたしちゃんの右腕を掴んだ。


「み、澪ちゃん!」

「あっ! 澪!」


 リオン兄ちゃんと荒国さんがあたしちゃんの名前を呼んだ。


「そいつ! 妖怪!」


 二人は声を揃えて、確かにそう言った。

 は? どいつ?

 って、待て待て。この状況でそれを言うって事はもしかして。

 荒国さんの動きの方が早かった。後ろを振り返って、麦野さんに向かって突撃する。あたしちゃんから手を離したリオン兄ちゃんの指も、四ちゃんの光もソイツを指している。


 そいつは、長い爪で、麦野さんの胸を後ろから突き刺して、こちらを見て笑っていた。麦野さんを刺したまま爪で荒国さんを受け止める。

 麦野さんは口から血を吐きながらも、型の構えを解かない。何かを企んでる・・・・・・そんな目で、あたしちゃんとソイツを交互に見ている。


 ってか、なんで気付かなかったんだ。制服着たJKと、ただのじいさんに、なんでこの人は助けを求めたんだろうって、どうして思いつかなかったんだ。

 どう考えても一緒に逃げた方が良かったよね。でも、この人は、確かに助けを求めてきたんだ。まるで、それが出来る事が初めから知っていたかのように。

 そしてきっと、この人があたしちゃんの名前を知っていたのは、別の理由だ。


「気付くの早過ぎだろ。あー、でも遅過ぎでもあるかな」

「みうみうが狐雲こぐも狐蜘蛛きつねぐもだった。今ならあたしちゃんにもわかる。狐虎きつねとらハク・・・・・・で合ってる?」


 古都楽さん・・・・・・爆の姿がみうみうの時みたいに変化かわって行く。今度は目を逸らさない。絶対に逸らさない。

 狐の獣人って言うのかな。こういうのが好きなれりりんが見たら鼻血出して「ケモ!」以外の単語を失いそうな気がする。みうみうとはまた違った力強いセクシーさを持つ、ムッキムキでオッパイがデッカくて、虎みたいな模様を全身に纏っている、狐で虎な獣人だ。


「それはさかい子の能力だな。アイツにもウチの正体バラされそうになったからな」


 こいつは知っている。十三段流の歴史を知っている。

 爆は麦野さんを突き刺したまま、平然と立っている。あたしちゃんは距離を取って様子を見る。


「そうさ。ウチが爆だよ」

「あんたがあたしちゃんの親友をクソデケルベロスにしたんだな」

「クソデ? オメー、ウチの可愛い可愛い散牙ちゃんになんて名前つけてんだよ」

「あたしちゃんがクソデケルベロスって名付けたら、そいつはもうクソデケルベロスなんよ」


 軽口叩いてっけど、この状況、けっこーヤバヤバ。後ろにはまだホストボールだった人達がいる。そんで、目の前にはみうみうの姉、爆がいる。いきなりラスボスクラスに出会うとか無いわ。

 難易度一気に上がりすぎじゃね?


 でも、突破口が無いかと言えば、あるっちゃある。出来れば選びたく無い選択肢だけど、井戸の水を飲んだ時のように、それを選ぶしかないんだ。

 そのカギを握りまくってる人物、麦野さんは、リオン兄ちゃんに目配せをした。


「リオンくん。ドキュメントボックスに僕の店のコーヒーのレシピがある。あると思うんだ。今、確認してくれないか。IDは店の名前、パスワードは電話番号だ」

「マスター、こんな時に何言ってんスか!」

「こんな時だからだよ。僕はもう死ぬ。君にレシピ預けるから、全部終わったら店は君に任せるよ。だから、レシピがちゃんとあるか確認を・・・・・・」


 麦野さんは苦しそうに血を吐きながらも、ニッコリと笑っている。

 リオン兄ちゃんが慌ててスマホでドキュメントボックスにIDとパスワードを入れる。

 リオン兄ちゃんは、麦野さんに向けて頷いた。レシピ、ちゃんとあったんだな。


「ジジィ、そんな事する必要ねーんだわ。コイツらもここで死ぬんだからな」


 爆は余裕の表情で、麦野さんに突き刺した爪を抜こうとした。でも、様子がおかしい。それは当事者の爆が一番に気付いていた。


「抜けねぇぞ。どうなってんだ」


 多分、これがサインなんだって思う。四ちゃんも気付いた。麦野さんが持っている二本の破邪の木刀の内、左手に持っている方が光る。あたしちゃんは躊躇なく飛び込む。


「澪ちゃん、受け取りなさい!」


 言いながら、麦野さんは爆の鳩尾あたりに右手に持っている破邪の木刀を思い切り突き刺した。


「げぇっ!」


 爆が怯んだ隙にもう一本の破邪の木刀をあたしちゃんに投げつける。受け取って、二刀式維の下段の型を構える。

 四ちゃんの光は爆に攻撃した後、後ろのホスト達に攻撃するように示している。


 爆は突き刺した爪と、突き刺された木刀を抜こうとするも、麦野さんの位置だとか木刀の向きとかのせいで、まるで知恵の輪のように抜けそうで抜けないようだ。


「あっ、ジジィ! テメーの血、なんかケチャップの匂いがほんのりするんだけど!」

「いつも含んでるんですよ。君のようなお馬鹿さんに会った時の為にね」


 いつも含んでる?

 気になるけど、まずは爆に一発お見舞いしなきゃ。


「させるかよ! ジジィがどうなってもいいのか!」

「麦野さんを盾にしても無駄だよ。知ってるでしょ? 荒国さんは妖怪しか斬れない。人間はすり抜ける感じになるんだよ」

「いや、麦野は四分の一が妖怪だから、フツーに斬れるぞ」


 いや、それ先に言えや。荒国さん、時々抜けてるんだよな。抜けるのは鞘だけにしてて欲しい。


「澪ちゃん、問題ない。僕に構わず斬りなさい。斬ればわかる」

「って、もう維に入ってるんですけど!」


 爆は麦野さんを盾にして、あたしちゃんの維に応じる。このままじゃ、麦野さんは肩から腰にかけて真っ二つ・・・・・・にはならなかった。

 爆の右腕だけが斜めに裂かれ、同時くらいのタイミングで麦野さんは灰色の石みたいになった。


 斬ればわかるってこう言うコト?

 石化する妖怪は石になったら妖怪ではない。だから、荒国さんがすり抜ける。爆の足元に潜り込んで、破邪の木刀でもふぷに肉球の足を払う。

 そう。石化は別の意図もあった。だからこそ、あたしちゃんは足を狙って、爆を転ばせたのだ。


「おっも! ジジィ重過ぎなんだけど! しかも木刀抜けないし! クソが!」


 爆の動きを完全に封じた。

 麦野さんの犠牲を無駄にしない為にも、あたしちゃんは麦野さんごと爆を蹴り飛ばし、反動でホストボールに向かう。再び球状になったホストボールを示す四ちゃん光は赤から青色になった。

 球状に戻る間は近付いてはいけないという四ちゃんからのメッセージだ。


 だったら作戦は簡単だ。突いて、剥がして、狐面を斬る。これを十三回繰り返すだけだ。ちょっとめんどくせーな。

 その時、あたしちゃんの脳裏にさいつよ作戦が浮かんだ。リオン兄ちゃんを使う。


「リオン兄ちゃん、あたしちゃんと荒国さんキャッチボールしてくれない?」


 リオン兄ちゃんはアニキのダチで時々サポートとしてアニキと仕事をしていた。だから、多分、あたしちゃんがしたい事を理解してくれてると思う。


「そうか。わかった」

「澪、リオン。何を言っているのかさっぱりわからんぞおおおおお!?」


 荒国さんが言い終わるか終わらないかのタイミングでリオン兄ちゃんに荒国さんと破邪の木刀を投げる。

 リオン兄ちゃんがキャッチすると信じて、ホストボールに飛び込んで、無手式維をチョップで打つ。

 井戸の水の力で、あたしちゃんチョップのパンチ力は爆アゲになっている。それを打ち込まれれば、ホストボールがバラバラになるのも当然だ。


 ホストボールがバラバラになったタイミングで、リオン兄ちゃんが破邪の木刀と荒国さんを別々の方向に投げる。

 蹴りでまず目の前のホストの狐面を蹴り飛ばす。荒国さんが手の中に入ってくる。その勢いのまま蹴り飛ばして良い感じの位置に来た狐面を荒国さんで斬って剥がす。木刀で剥がれた狐面を破壊してから地面に落下・・・・・・で、光が赤くなる前に近くにいる狐面ホストの狐面を剥がして壊す。光が赤くなったら距離を取って、ホストボールになった時、その距離が近くて木刀の突きが使えないなら木刀をリオン兄ちゃんにパス。木刀が突けるならそのままバラして狐面を剥がす。ちょっと距離が遠くて飛び込んで荒国さんで狐面だけを狙える隙が無ければ荒国さんもパス。狐面を狙えたなら斬った後にパスして無手式で剥がして投げる。

 で、これを繰り返した結果が・・・・・・こちらになります☆


「な、なんだ? 何が起きた?」


 爆が困惑しながら立ち上がった。そりゃそうでしょ。だって気付いたら味方のホストボールが消滅してるんだもん。誰だってそうなるよ。あたしちゃんもそうなると思う。


 爆はあたしちゃんが六十代目の力、時間吹っ飛ばしを使った事に気付いていない。が、時間を吹っ飛ばしたと言う事は、爆の時間も吹っ飛ばしたという事である。

 爆の腕は引きちぎられて、木刀もお腹から抜け落ちて、立てるようになっていた。


「なんだコレ・・・・・・って思ったら、?」


 射程距離内で不確定要素が無くなり次第発動出来る六十っちゃんパワーは、そうそう使える技ではない。戦闘中に使うと結構疲れるって事がわかった。完全に終わった時にしか使えないんだな。

 でも、これのお陰で爆という妖怪が、どんな妖怪なのか。知る事が出来た。


 このタイガーお姉さん、やる時は絶対にやるタイプの奴だ。爆がそういうタイプの妖怪じゃなかったら、六十っちゃんパワーは発動しなかった。少しでも躊躇するような人が近くにいれば、不確定要素が生まれ、時間を吹っ飛ばす事が出来ない。これがキングクリムゾンと六十っちゃんパワーの最大の違いだ。


 爆から千切れた腕は砂みたいになって消えた。で、切れた腕の付け根から新しい腕が生えてくる。

 他人の事言えるかって思うけど、このお姉さんも大概チートだな。

 爆は悔しそうに言う。


「まだ十三段流には謎が多いって事だな。こりゃ退散するしかねーわ」

「逃がすか! 一刀式絶、荒国さん投げ!」

「爆よ、俺の必殺の一撃を喰らえ!」


 荒国さんが投げられたのにも関わらず、爆は避けもしない。笑っている。

 思い出した。いかにも脳筋っぽい見た目で忘れてたけど、このお姉さんは、人を騙して後ろから刺す事を平気でやる妖怪だ。


「んじゃ、朔、あとは任せるよ」


 その言葉を残して、爆は荒国さんが当たる直前に煙になって消えた。

 直後、あたしちゃんの視界が真っ赤に染まった。四ちゃんの光だ。あたしちゃんが赤く光ってる? 違う。みうみうの言葉を思い出せ。

 朔は異次元に人を飛ばせる奴だ。その方法はどうやって? 

 ヒナピは狐と人と虎と蜘蛛と魚の姿になった。みうみうのパパピは麦野さんみたいなクォーターだったんだろう。それでみうみうは蜘蛛になった。で、爆は虎だ。って事は、朔ちゃんは魚と言う事になる。異次元、魚・・・・・・。


 あっ!!

 この赤い光はあたしちゃんじゃなくて、あたしちゃんが立っているこの空閑を照らしている。

 つまり・・・・・・。


・・・・・・ってコト!?」


 直ぐに左に向かって飛んだ。右腕と右脚だけ赤いままだ。いや、右腕と右脚が、赤く光る空間に残った。ヤッベ!


 ばくん。


 あたしちゃんの右腕と右脚が消えて無くなった。そして、それらがあった場所から、狐とサメを足して二で割ったような顔をした奴がこんにちはしていた。

 当然だけど、鮫肌ではなくやっぱモフモフしてそうな奴だ。


「惜しかったなァ。でもおねーちゃんの肉おいち過ぎ〜」


 油断も隙もあったもんじゃない。あたしちゃんの腕と脚は再生する。でも、最初に死んだ時に比べて再生のスピードが遅い。六十っちゃんパワー使ったからかな。生えたての腕と脚はまるで赤ちゃんみたいな感じになっている。憧れのデップー様と同じ再生の仕方なのはちょっと嬉しい。

 その場に転びながら朔ちゃんを見上げる。


「あんたが末っこの朔ちゃんなんだね」

「そーだよー。朔ちんだよ。よろぴっぴ〜♪」


 この短期間でいきなりラスボス三匹の内二匹に遭遇するとかある? しかも結構ガチバトルじゃん。無いだろ普通に考えて。なんかこういうのって顔見せで出てきてシュッと消えるじゃん。

 こんなんデルムリン島に初めてハドラーが来た時にハドラーの代わりに大魔王バーン様がミストバーン連れて来たような奴だぞコレ。

 ここは一言文句を言いたいけど、あたしちゃんはどうしてもこの子に言いたい事が他にあるんだ。


「朔ちゃん! なんか例のサメのぬいぐるみみたいでカワイイ!」

「膿姉ちゃんが友達からもらった奴の話?」

「そうそう。それあげたのあたしちゃん」

「マジで!? おねーちゃんセンス良過ぎ〜」


 朔ちゃんはサメ歯を見せながらニコニコと笑って、両方のヒレであたしちゃんを挿した。

 こっちはホッコリ行けそうな気がする。いずれ殺さなきゃ行けないけど、今は体力がヤバい。再生もまだ十歳くらいの状態だ。あと少しで完全に再生されるんだろうけど、なんとかごまかして時間稼いで逃げなきゃ。

 荒国さんが左手に戻って来た。そうだ。リオン兄ちゃんは大丈夫かな?


 ん? どんだけ見回してもリオン兄ちゃんがいない? さっきいた場所にもスマホしか落ちてない。どゆこと?


「あっ、さっきのイケメンおにーさん探してる? それなら、もう朔ちんのお腹の中だよ」


 朔はケタケタと笑った。

 ウッソだろお前。


「イケメンだから食べたくなっちったの。おねーちゃん、膿姉ちゃんの友達の十三段澪さんだよね。朔ちんね、おねーちゃんも食べなきゃだから、食べるね。今、ここで!」


 朔ちゃんが、ドボンと何処かに消えた。異次元から来るし、四ちゃんデンジャラスレッドアラートが無いと来てるかどうかもわからない。


 無双とか言って調子乗ってたけどさ、あたしちゃん、今コレ割とピンチじゃね?

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