カワイイデモンスレイヤー 〜チートご先祖様に恵まれたあたしちゃん、何やっても無双過ぎてパーティー追い出されたりしてもなんとも思わないどころかパーティーとかクソ喰らえですが何か?〜

ScarecrowHealer

第一話 無敵のあたしちゃんが爆誕した件について

 ちっちゃい頃からずっと、この井戸はなんなんだろって思ってた。ウチの道場と隣のボロボロ神社に挟まれて、七芒星って言えばいいんかな、なんか星みたいな形の屋根がついてて、いつもパパとママが掃除してるから五百年くらい昔のものとは思えないくらいピカピカしてるんだ。

 あたしちゃんは、学校終わって友達の家で髪を激ピンクに染めて、ウチに帰ったら捨てようと思ってたメガロイヤルタピオカミルクティーのプラスチックコップに、井戸から掬った水を注いで、飲んだ。そこに荒国さんが飛んできて、コップを叩き落としたのね。それがついさっきの話。

 パパと荒国さんは、これは十三段トミタ家に伝わる儀式の水だから大人になるまで近づいちゃダメってよく言ってたっけ。アニキは成人式の日にこの水を飲んだ。そんで、パパや荒国さんと一緒に仕事をするようになったっけ。

 水を飲んだ今、それがどういう事かだいたいわかった。かも? あたしちゃんはもうさっきまでのあたしちゃんでは無いんだと思う。

 とにかくあたしちゃんは、荒国さん以外の誰かの視線をはっきりと感じるようになった。めっちゃ見られてるのを心で理解してる。あとさっきから身体がめちゃめちゃうにうにする。うにうにとしか言えない。

ミオ、飲んだのか、井戸の・・・・・・水を」

 荒国さんは、なんか泣きそうな声で言う。こんな時でも渋いイケオジボイスで言うもんだから、少し笑ってしまう。ふわふわ浮かんでイケオジボイスでしゃべる日本刀の荒国さんは、きっと人間の姿をしていたら泣いているんだろうな。

 荒国さんが泣いているのを見るのは、刀擬人化スマホゲームに自分が出てない事を知ってわんわん泣いた時以来だ。同じ一族の刀が出てたのが相当悔しかったんだろうな。仕方なくね? だって荒国さんともう一振りの影国さんってば、本来は存在しないはずの刀なんだし。浮かんで喋る日本刀ブラザーズとか、歴史に残ってたらそれはそれは大変な事だよ。あ、影国さんは時々しかしゃべらないんだっけ。

 さっきまで絶望していたのに、水を飲んでからなんか知らんけど心が軽い。

「飲んだよ。それしかないじゃんか」

 そうなんだよ。ともかくあたしちゃんは飲むなって言われてたあの水を飲むしか無かった。それ以外に選択肢は無かったんだ。あったとしても、選べなかったよ。

 十六歳の誕生日。ゆにっぺ、あいちー、れりりん、みうみう達と別れて、なんか荒国さんが飛んできたから慌てて家に帰ったら家族全員殺されてるとか思うわけないじゃん。お気に入りのゴリラのぬいぐるみゴリ太郎もぐっちゃぐちゃだった。なんなんだよそれ。妖怪退治の一族だし、ただの家じゃねーからいつかそんな時が来るかもとかは思ってたけど、マジでなるなんて思いもしなかった。

 パパとママとアニキと弟のケン坊は何かと戦って死んでた。何かってのは、多分パパとアニキがいつも倒してる妖怪とか化け物とかだと思う。

「男の堅慈郎ならまだしも、女のお前にはまだ早すぎるんだ!」

 荒国さんは、自称フェミニストのおばさんが聞いたら発狂しそうな事を言った。

「お説教なら後で聞くよ。今はあいつらっしょ」

 神社の方から声がしている。あと、あっちにみんなを殺した奴がいるって教えてくれる声みたいな何かも聞こえる。

 足が自然と動く。めちゃくそ速い。前はジャンプしても届かなかった神社の塀を簡単に越えられる。ここで跳べっていう声に従えば、いい感じに飛び越えられる。

 飛び越えた先に、狐のお面をつけたお猿さんが首から生えている人達が見えた。あいつらだ。あの狐モンキーがみんなを殺した奴だ。数は、十人? 十匹なのかな?

「荒国さんっ!」

 呼べば荒国さんが手の中に入ってくる。昔は抜けなかった荒国さんが自然と抜ける。

 あたしちゃんから見て一番右の奴の首がほんのり青白く光って見えた。木の枝を蹴って首に向かって荒国さんを振るう。すぐに隣の奴の首が光る。リズムゲームのように荒国さんを降れば、身体が勝手にいい感じの攻撃をしてくれる。荒国さんが手伝ってくれてるってゆっても、あまりにもすらすらと身体が動き過ぎでしょコレ。いきなり達人になった気分。ずっとサボってたけど、身体は覚えてたのかな。それとも、これが水の力なのかな。

 最後の狐モンキーの右腕が光って見えた。今度はオレンジ色の光だ。荒国さんの鞘を使って右腕を弾いて、声と光を頼りに狐モンキーの首を斬る。狐モンキー達は七色に光る爆発と共に消えて、取り憑かれていただろう人達が残った。

 これこそウチの流派、十三段流戦闘術の基本型、ユイ。体力の続く限り、相手の動きに応じた攻撃を繰り返す。基本とか言いながら、ぶっちゃけ必殺技に近い。体力さえ続けば、周りから敵がいなくなるまで繰り返すんだから、最初の一発さえ決まればずっと無敵モードなんだよ。さらに妖怪や化物だけを斬る荒国さんの力も合わせればさいつよ武術なのだ。

「綺麗な維だったな」

「一刀式しか使ってないし、あたしちゃんは声と光に従っただけだよ。これがあの水の力なん?」

「そうだ。それは四代目十三段 宗慈そうじと六代目 悠嗣ゆうしの力。二人の魂は無数の欠片となって次元も時空も超えて異世界へ散らばった。四代目の魂の欠片を六代目が探し出してお前達と結ぶ。異世界に住む何者かが四代目と六代目の力を通じてお前達に道を示してくれてるんだ。堅慈郎が好きなゲームで、狼と呼ばれる隻腕の侍がおはぎ食って戦うゲームあっただろ。四代目はあのゲームをやってる感覚でお前に指示を出している」

 めちゃくちゃ便利やん。あたしちゃん、誰かがやってるゲームのキャラみたいな感じになってんのね。これならあたしちゃんでもすぐに戦える。

 それにしても、あの視線は四代目の力を得た異世界の誰かのものだったのか。パンツ見られた気がする。見られないようにしないと。あ、助けてくれたお礼って事でちょっとくらいなら良いかも。ってことで、見れるなら見てもいいよ。見れるならね。

 荒国さんは鞘に戻って、イケオジボイスでヒソヒソと言う。

「まだ近くに奴らがいる。あの狐面は、鬼狐ヒナコの眷属だ。五百年前、三代目が封印し、あの井戸が作られた原因にもなった奴だ。澪、四代目の声に集中しろ」

「うん。四ちゃん、次どこ行ったらいい?」

「四ちゃん」

「そう、四代目だから四ちゃん」

 せっかくだから可愛く行きたいよね。よろしくね、四ちゃん。あと、水を飲んだ瞬間から六ちゃんにも見られてるって事になるのか。六ちゃんもよろしくね。

 君だよ、君。多分これあたしちゃんの心って今はまだ小説みたいな感じで君に届いてると思うんよ。ってわけで、どう読んでるかわかんないけど、今あたしちゃんに視線をぶつけてる君が六ちゃんなんだよ。頑張って可愛くしていくから、今後ともヨロピでお願い。

 ボロボロ神社、ちゃんとした名前は狐石神社だ。狐石町はもともと陰陽師と狐の妖怪が住む村で、初めは仲良く暮らしてたんだって。でも五百年前、狐の中から悪い鬼狐ってのが産まれて、陰陽師やりながら十三段流を始めたご先祖様達が悪い鬼狐を石に封印したって伝説があるのね。

 狐石神社には七つの鳥居を組み合わせたようなヘンテコな鳥居があって、その真ん中にそれっぽい石がある。そこに向かえっていう声と、光の道が見える。見えるんだけど、この神社、迷路みたいに鳥居が建てられてるから、なかなか石の所まで行けない。でもおかしいな。子供の頃ゆにっぺ達と遊んだ時はサクッと奥まで行けたはずなのに。

「そうか。水を飲んで人から少し離れた存在になったせいで、澪は結界の中に入れなくなっているんだな」

 荒国さんが先にヒミツに気付いた。あたしちゃん、もう人じゃないんかー。

「それでこんなハードモードになってんのね。どうしよう」

 そんなこんなで迷ってたら、四ちゃんから「避けろ」って声がした。何語かはわからない。でも避けろと言っている事だけは理解できた。あたしちゃんは四ちゃんと六ちゃんに見られている事を意識して、緑色に光る道筋に従って出来るだけ可愛く飛んだ。スローモーションで見て欲しい奴だ。あ、六ちゃんは文字でしかあたしちゃんを認識出来ないから、可愛いジャンプを見れないのか。そこは妄想で補完オナシャス☆

 そのすぐ後だった。めちゃんこでけぇ犬があたしちゃんのすぐ横を通り過ぎた。こっわ。クソデカいし、なんか頭三つあったし、なんかお面みたいなのつけてたし。そんで、クソデカ犬の向かう先に四ちゃんが指し示す光が見える。石は多分あそこだ。

「おかしい。この鳥居に妖怪は近づけない。破壊しながら進む事すら出来ぬはず」

「先っちょに何かお面みたいなのついてた。きっとそれのせいじゃね?」

「かもしれないな。それにしてもどうやって・・・・・・」

 その時カタカタと音がして、壊れた鳥居の破片がゆっくりと浮き上がり始めた。えっえっどういう事? 壊れた鳥居が・・・・・・元に戻って行くよ?

「ここの鳥居は十三代目の陰陽術でしばらくすると元通りになる。今のうちに奥へ行こう」

 ご先祖様達、凄いな・・・・・・。異世界に散らばったり、異世界にいながら子孫のあたしちゃん達と繋がったり、鳥居を元通りにしたり、なんでもありだ。チートだチート。『チートご先祖様に恵まれたあたしちゃん、何やっても無双過ぎてパーティー追い出されたりしてもなんとも思わないどころかパーティーとかクソ喰らえですが何か?』みたいなタイトルでネット小説を投稿サイトに投げかねないレベルのチートだ。まあ、パーティーとか多分この先出てこないから詐欺タイトルだけどね☆

 ともかく走ってクソデカ犬の後を追いかける。


 光の先に着くとクソデカ犬はいなかった。代わりにいたのは、あたしちゃんと同じ制服を着た三人の女の子・・・・・・って、ちょっと待って。

「ゆにっぺ! あいちー! れりりん!」

 そこにいたのは少し前まで遊んでた、あたしちゃんの親友達だった。

「待て、様子がおかしい」

 荒国さんがあたしちゃんの足を止める。四ちゃんも行くなと言っている。

 ゆにっぺ達はあたしちゃんに笑顔を向ける。何かを言っているようだけど、よく聞こえない。嫌な予感しかしない。

 傘を忘れた雨の日にみんなで校庭をダッシュで走った時みたいな音がして、ゆにっぺ達の背中から何かが飛び出した。何かはどんどん大きくなって、ゆにっぺ達の顔を覆った。そしてそれは、さっき見たお面をつけた三つの頭のクソデカ犬の姿になった。

 お前マジでふざけんなよって思う。お面のように見えたのは、ゆにっぺ達の身体だ。真ん中の奴はゆにっぺ、あたしちゃんから見て左の奴があいちー、右の奴がれりりんだ。腕と脚の間からは目が、両足の間からは鋭い牙が生えた口が伸びている。月明かりに照らされた身体の色は、黒い絵の具が入ったバケツに赤と紫の絵の具を少し入れて雑に混ぜた奴みたいな色をしている。

「今助けるからね!」

 荒国さんを抜こうとする。でも、光はまだ見えなくて、様子を見ろって四ちゃんの声がする。

 その声に従う他はないみたい。

「あの獣は三人の背中から出てきた。中から生えたのなら俺はゆにっぺ達を斬ってしまうかもしれん。頭以外を狙うんだ。奴は鳥居を破壊してここまで来た。恐らく彼女達の身体を使ったのだ。だとすればゆにっぺ達はまだ人間の部分が残っている」

「助けられるって事?」

「ああ、そうだ。必ず助けよう。澪の親友達は刀なのにしゃべって浮かぶ俺を受け入れてくれた。ゆにっぺは俺にいつも挨拶をしてくれた。あいちーは俺の擬人化イラストを描いてくれた。れりりんは鞘を綺麗にしてくれた。俺をいつもカッコいいと言ってくれたみうみうも巻き込まれているかもしれない。早くこいつを倒して探しに行こう」

「うん!」

 クソデカ犬は唸り声をあげて六つの目でこちらを睨んでいる。

 頭以外って、三つの頭が胸と肩から生えてるから、正面と横からは攻撃が出来ないって事だ。なんとかして回り込まなきゃ。

 クソデカ犬の真下に光が見える。気付かなかった。ここから攻撃すれば、頭に攻撃は当たらない。そして、光が見えたという事は、あたしちゃんはそこに行けるって事だ。潜り込んで抜刀して、その時に光が見えた所を攻撃だ。

 クソデカ犬は左右の頭の口から紫色の炎を吐き出した。吐き出す直前、少しだけ上を向いてた。光はあたしちゃんの前に見える。これまでの四ちゃんの声と光の雰囲気でどの光がどういう意味を持つのかわかりかけてきた。これはそこに避けろっていう緑色の光だ。飛び込んで炎を避ける。見上げれば、真ん中の奴が上を向くのが見えた。そして、クソデカ犬の真下には青い光、行けって奴だ。

「澪、今だ!」

「オラァ!」

 飛び込んで荒国さんの柄を握り、クソデカ犬の腹を見る。飛び込んで来たのは、今まで見た事のない赤い光と、驚いたような四ちゃんの声。

 腹が口みたいに開いて、中から尖った触手みたいなのが飛び出して、あたしちゃんの身体がバラバラになるくらいに突き刺さるのがわかった。

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