ぼくらはみんな配信者っ!~Streaming (future) stories~

東北本線

偶像編

Legend1, 『お約束』

 これは、ちょっと未来のお話。

 バーチャル配信の歌手が連日ビルボードの上位にランクインし、オアシス兄弟のどちらかだか忘れたけれど、SNSで彼女たちをFワードまじりに批判して、いつも通りファンから顰蹙ひんしゅくを買っていた頃。投げ銭依存症という言葉が流行し、ギャンブル依存症と同じように、意味があるのかよく分からないサポートプログラムが登場した、今より少し先のお話。



 この物語はインターネットバーチャルアイドルグループ『orion JP』の0期生である私、霹靂へきれき霧霧むむの独白から始まる。

 いや、物語自体はもっとずっと前から始まっていたんだけれど、私が本格的に関わるようになったのはあの配信からだった。


「ヤーナ、今日はありがとー!視聴者のみんなも、どうもねー!じゃ、終わりまーすっ!」


 『orion NN』のバーチャル魔法使い配信者、ヤーナ・クルスちゃんとコラボ動画を終えて、私は配信のエンディング画面を閉じる。


:今日も楽しかった。人生の救いです。ありがとう!

:海外ニキもよう見とる。また海外のオリオンメンバーとコラボする予定ある?

:yana and mm was greatest pair!

:今日も初心者ムーブかわいかったね!www

:mmchan,awesame!nice stream!:)

:ムム鳥、また飼いたくなったわー

:終わりませんよ。切り抜きを見るまでが配信ですからw


 配信を閉じる段階になっても、リスナーからのコメントが絶えない。同時接続数、つまり配信を観た視聴者の数が一番多かった時の人数は、最高で9万人だった。きっとコラボ相手のヤーナをいつも視聴してる海外の人も、見てくれていたんだろう。読めないけどコメントに英語が多かったし。


 思えば『orion』も、会社も大きくなった。正直、いまだに実感が湧かない。


 最初は、鳥の獣人の私と、エルフのアルルちゃんと、人魚の葵ちゃんだけだった。会社も小さくて、最終面接の時は社長が自ら私たちを見て、合格したあとは、目標とか配信者の心得を話してくれたりして。


 それが今は後輩も増えて、海外にまでメンバーがいて。

 ビルの一室だった『株式会社ラフィング』の事務所も大きくなって、都内のビル丸ごとひとつが事務所になった。スタジオもいっぱいあって、案内がないと迷ってしまうくらいっていうか、ちょっと前に配信でも話したんだけど、こないだ迷って泣きそうになった。


 もう3年目になるけど、去年から今年にかけては特にニュースが多かった。ライブ配信者の投げ銭ランキングで世界上位五人を『orion』のメンバーが独占したり、英語圏を中心に活動している『orion unite』のメンバーの一人が海外の音楽ランキングで1位を獲ったり、海外大手アニメ会社の映画の英語版と日本語版の声優に、それぞれメンバーが抜擢されたり。飛ぶ鳥を落とす勢い、というやつだ。


 そんなことわざを使う私、霹靂へきれき霧霧むむの配信の姿は、幻の鳥ケツァールの獣人という設定だ。緑と黄色と赤い髪。かわいい大きな瞳。細い体躯とそれなりにある胸。服装は今のところ七種類あって、私のお気に入りは胸に黒いリボンが付いたフリフリの白いドレス姿のやつ。赤いイヤーカフスも好き。


「いかんいかん。ぼーっとしてる場合じゃない。ヤーナにお礼のメールを……って、あぁあっ!?まだ配信切れてないじゃんっ」


:おや、鳥がなにかに気付いたみたいだ

:ムムちー、またやったな?もう何回目だよー?

:もう慣れた。安定のポン。

:continueeee!pleeeeeeease!!!

:お礼のメール?また好感度あがるで。

:わざとまである。いや、断言しよう。ない。

:流石はプロの配信初心者。こういうのがあるからヤメられねえんだよなw


 パソコン画面を慌てて操作して「終わり終わりっ」と悲鳴のように叫びながらクリックして画面を閉じた。あー、絶対また切り抜き動画になる。最悪だよ……。


 もう三年目で、後輩もいっぱいいるってのにこれだ。ポンっていうのは、アンポンタンとかポンコツのポンって意味。プロの初心者、は私に付けられたアダ名のこと。ゲーム配信をすればいつまでも操作に慣れないし、歌配信ではオケに違う曲を流して、コラボ動画では急に機材が調子悪くなったり、またある時は五時間くらい配信開始時刻に寝坊しちゃったりする。


 よく見捨てられないものだと思う。リスナーにも、メンバーにも、会社にも。


「やっちゃったぁー……」


 頭を抱えながら、なんとかマウスをクリックしてボイスチャットアプリを開く。ヤーナから文字チャットで「Live streamがきれてないですー!」と届いていた。同期のアルルちゃんと、1期生の夕方ゆうがたちゃん、めめちゃんからも。


 みんなもよう見とる。


 教えてくれてありがとう、って『orion JP』のメンバーに返信してから、私は再度、今日ゲームのコラボをした『orion NN』のヤーナに感謝のチャットを送った。


霹靂霧霧(orionJP):今日はありがとう。すごく楽しかったっ!またコラボしてくれたら嬉しいです


YaraCruz@oriNN:こちらこそ、ありがとうございました。またコラボレーションします。ゼッタイですね。ネジャンナにも、着てください。センパイ、ダイスキですー


霹靂霧霧(orionJP):来てください、かな?ありがと。ちゅ。ヤーナの家に泊めてくれるならいいよ!


YaraCruz@oriNN:え、ホントウですか!?来てくれるんです!?配信で話してもいいですか!?ヤクソク!!プロミスですよー!!!オモテナシですね!!!!

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