第39話 銀色のひだまり
「なにこれ」
「わかんないよ」
すっからかんの教室で、しばらくの間立ち尽くす私たち。そのままの状態で数分間経過した時、微かに外からか声が聞こえてきた。
アリサが窓に駆け寄り、下を覗き込む。
丁度グラウンドの向こうにある体育館が見える。
「なんだ、みんな体育館じゃん」
アリサの言葉に、私は思わず笑い出した。
「みんないなくなっちゃたぁ、とか一瞬でも思ったし!」
「バカじゃん、マンガの見すぎなんだよ」
「それはアリサの方でしょ」
お互いに言い争いをしながら、体育館シューズを持って再び階段を下りる。
アリサはちゃっかり、牛乳ビンをターゲットの机に置いてきた。
移動している途中にチャイムが鳴ったが、そんなことは気にせずじゃれ合いながら体育館へ向かった。
「今日全校集会でもあったっけ?」
ボロイ下駄箱で靴を履き替えながら、呟く。
「んなこと私に聞くな」
「知るワケがなかったか」
アリサが体育館の扉に手をかけ、「あれ?」と眉をよせる。
「ちょっと、今度はなに?」
「開かないよ。カギかかってんじゃん」
大きな扉を必死で引っ張ったり押したりしているのに、びくともしない。
「カギかかってないよ?」
私はカギ穴の向きを確認し、そう言った。
「でも開かない」
アリサに変わり、私が開けようとする。
けれど、やはりびくともしない。
アリサはすでにやる気をなくしてサボる気満々だ。
「おかしいなぁ。何か向こう側でつっかえてるとか? 誰も気付かないのかな?」
何度も何度もやっているのに全く開く気配がなく、私もとうとう力つきた。
まぁ、別に全校集会くらい出なくてもどうってことないし。
と、簡単に開き直る。
そして振り返り……アリサがいない。
「アリサぁ?」
すぐに飽きるからどこかへ行ってしまったのだろうか?
そう思い、私は広いグラウンドの方へ出た。
けれど、そこには誰もいない。今度は体育館の裏手へ回ってみる。
古い倉庫が寂しく建っているその場所にアリサがいた。
「ちょっと、何してるの?」
声をかけて、近づこうとしたとき、アリサの前に誰かが立っているのが見えた。
真っ白なマントのような服を頭から着ていて、顔はよく見えない。
「アリサ、誰それ?」
少し大きな声で言うと、その白い男は私に気付き、その場から逃げ出した。
え?
まさか、本当のチカン?
慌ててアリサに駆け寄る。けれど、アリサは半分の口を開けたまま、目はうつろに宙を彷徨っている。
「アリサ? どした?」
強いくらいにアリサの肩をつかみ、揺さ振る。アリサの目が私を見た。
「本当だ……」
「へ?」
「体育館から、誰の声も聞こえてこない」
その言葉に、私は体育館の方へ耳をすませた。
確かに、誰の声も、物音一つ聞こえてこない。
でも、確かにみんなここにいたよね、体育館シューズ、みんなのがあったもん。
「きっと、真剣に話聞いてるんだよ」
少々無理をしてアリサと自分に言い聞かせる。
それよりもさっきの白い男はいったい何者?
すると、アリサは強く身震いをすると、私の手をつかんで走り出した。
突然のことで私はこけそうになる。
なんとかバランスを保ち、必死について走る。
アリサの手から微かな振るえとにじみ出る汗が、痛いほどに伝わってきた。
無言のまま走り続けるアリサに、私は付いていくので精一杯だった。
呼吸がくるしく、喉が渇く。
「アリサ、止まってよ。どうしたの」
とうとう限界が来て、前を走るアリサへ叫ぶ。
それと同時に足のスピードをゆるめ、もう走れない、とアピールした。
ちょうど小さな公園が目の前に見えて、そこでアリサも足を止めた。
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