第4話 ガスバーナー
確か冬に使っていた灯油が残っているはずだ。穴の中に撒いて火をつければ……。いや、庭の木に燃え広がって火事になったら大変だ。
それにダンジョンでそんなことして大丈夫なのか? 心配すればキリがない。
だったら――
悠真は台所へ行き、戸棚を物色する。
「確か家族でバーベキューをした時に使ったやつが……あった!」
見つけたのはトーチガスバーナー。家庭用ガスボンベにトーチを装着し、スプレー缶のように炎を噴射できるものだ。
もう一度庭に下り、穴まで歩いてゆく。金属スライムは穴の中で
近づくのは危険だ。片足だけを穴の中に入れ、腕を伸ばしてガスバーナーのノズルを向ける。相手が金属である以上、熱には耐えられないだろう。
点火レバーを引いて炎を噴射する。バーナーの火が金属スライムの体表に届く。
スライムは異変に気づき、すぐに飛び退いて穴の中を動き回った。
「あ! くそ、動くんじゃねーよ!」
悠真もなんとか火を当てようとガスバーナーを動かすが、炎を避けピョンピョンと跳ね回る金属スライムが、悠真の足に体当たりしてきた。
「痛っ!!」
激痛が走る。悠真は穴から這い出て悶絶した。足首を押さえ、ゴロゴロと地面を転がる。
「あーーーーーー! もう嫌だ。こんな奴、倒せない!!」
この穴は板かなにかで塞いで、見なかったことにしよう。悠真はそう思い、足を引きずりながら家に入る。
とんでもない目にあった。あんなもの見つけなければ痛い思いをすることもなかったのに。悠真は心の中で愚痴りながら、ソファーで寝転がり不貞腐れる。
どうして俺がこんな目に……。そう思いつつも、穴のことが気になってしょうがない。
やり方が悪かったのか……? もっと他に、例えば穴に水を入れてスライムを窒息させるとか。
悠真は
じゃあ、どうすれば……。悠真は必死に考える。ダンジョンに潜ったことのない人間からすれば、なにをすればいいのか全然分からない。
「あいつの動きを止めることができれば……」
その時、悠真の頭の中で何かが閃く。止める? 動きを止める?
『動きを止めてから、やっつければいい』そのフレーズに聞き覚えがあった。確かテレビCMでやっていた、殺虫スプレーのキャッチコピーだ。
動き回るゴキ〇リを、-85℃の冷却スプレーを使って瞬間的に動けなくする。
動きさえ止めてしまえば、その後の駆除は簡単だ。
この方法は金属スライムでも効くんじゃないか? 金属なのに伸縮して動き回れるってことは、液体金属に近いのかもしれない。
だとすれば冷却には弱いはず。
悠真は立ち上がり、二階にある自分の部屋に行き押入れを開けた。雑多な物を放り込んだダンボールを取り出し、中をまさぐる。
「あった! これだ、これ」
手に取ったのは冷却スプレー。昔サッカー部に入った時、親に買ってもらった物だ。
部活は三日で辞めてしまったため、実際に使うことは無かったが、まさかこんな所で出番がくるとは。
意気揚々と一階に下り、テーブルの上に置いてあるガスバーナーも手に取る。
二つのスプレー缶を持った悠真は、もう一度庭へ向かった。
冷却スプレーで動きを止めても、それだけでは金属スライムを倒せない。だがその後ガスバーナーで熱したらどうなるだろう?
なにかで聞いた記憶がある。金属は急激に冷やされた後、一転して熱を加えると
熱膨張がどうたらこうたらとテレビで言っていたが、まあ詳しいことはいい。
悠真は穴の前に立ち、大きく息を吸う。
「これでダメなら諦める。最後のチャレンジだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます