第13話


「で、攻略の決行日はいつ?」


 ところ変わってランイハート家の執務室である。レオナへソラの実力の一旦を見せたところで、三人の会議は再開となった。


「三日後、私は冒険者として依頼を受け、王都の商人へ手紙を届けに向かうということになっている。その滞在中に、決行する」

「猶予は商人からの返事の手紙を待つ間、ということだが、まぁ気にしなくても大丈夫だ。彼らに渡す手紙には、レオナに言われるまで返事を悩む振りをしてもらうよう書いてあるからな」

「名目は冒険者の依頼ね、慎重なんだね」


 ジャガーとレオナは頷く。


「こちらの動きが勘付かれれば、帝国と結びついた第一王子は間違いなく手段を選ばず妨害してくるだろう」

「それを防ぐために、口約束での婚約や互いに目のあるところで会わないなど、レオナとアダン殿下との間に繋がりが見えないよう工作をしてきたのだ。アダン殿下の外出は隠せないだろうが、レオナと密会するなどとは誰も思わないだろう」

「なるほど、そういうことなら当然だね」


 帝国の裏に人類の敵として存在する魔族があることを知っているソラは、その説明で納得する。


 SIOでも、魔族側と人族側での競争型イベントがあった時、ありとあらゆる手が尽くされたものだ。もちろんお互い様だが、魔族という闇の側のプレイヤーたちはロールプレイも兼ねていたのか、悪どい手が多かったように感じる。


 まさかそういうところもこの世界を参考にして作ったのだろうか……?


『いやそれは偶然じゃ』


 どうやら偶然らしい。だが、を使うというのは一致しているというのが今わかった。有益な情報だ。


 会議はダンジョン攻略のメンバーが第二王子アダン、レオナ、盾役を務める一人、メンバーで最大の攻撃力を持つ大剣使いが一人、遠距離で戦う攻撃魔法使いが一人、回復とサポートをこなす聖魔法使いが一人という構成であることがソラへ告げられ、解散となった。


 ソラの仕事はメンバーを失うことなくダンジョン攻略を完了させることのみ。そのため会議というよりかは報告会という様相であり、簡潔に終わった。


 とりあえず、これで王都へ出発するまでの三日間と半日、ソラには時間ができたことになる。ジャガーたちにはその間も屋敷へ泊まるよう勧められたのだが、断った。

 【霧化】という移動手段とマジックハウスもあり、せっかくなのでその間に前世では出来なかった戦闘スタイルを少し遠くへ行き試してみることにしたのだ。


 この辺りの地理情報をレオナから仕入れた後、また三日後戻ってくると約束し、ソラはラインハート家を出発する。


 まず向かった先は街の武器屋。ジャガーに貰った街の地図のお陰で変な輩に絡まれたり、迷ったりすることなく真っ直ぐにたどり着く。


 ラインハート家お勧めの武器屋は、意外とこじんまりとした店だった。商品と思しき武具は数点しか並べられていない。どうやらオーダーメイドの店らしい。


 オーダーメイドでは時間が掛かってしまう。並べてあるうちからお目当ての武器を探すが……見つけた。


「おじさん、これ引いてみてもいい?」

「ん? あぁいいよ」


 今は仕事が無い時期ではないと思うのだが、店主はソラがやってきてからずっと視線を送ってきていた。そんな彼は、イメージ通り頑固者の職人……とは違う人あたりのいい笑みを浮かべ快諾してくれた。


「ありがとう」


 商人の顔である。店先に立つ人間と、製作者は違うのかもしれないとソラは勝手に思った。


 さて、今ソラが手にした武器は弓だ。

 狩りに使うようなショートボウと、何を射るのかわからないほど大きな強弓の二種類があったが、ソラはもちろんショートボウを選ぶ。


「怪我しないよう気をつけるんだよ」

「……うん」


 どうやらソラをじろじろと見ていたのは子どもが危ないことをしないようにという意味があったらしい。まぁしょうがないかとソラは諦める。

 ソラの小さな体格では、手にしたショートボウが大きく見えるのだ。


 まだ生まれたばかりなのだし別に子どもに見られてもいいし、これから成長するし、とソラは自分に言い聞かせた。


 改めてショートボウをぐっと引き絞ってみる。ほぼ本気に近いほど強い力を込めなければ矢は撃ち込めそうにない。歯を食いしばって、ぷるぷると震え出した腕をゆっくり戻す。


「コレいくら?」

「ん? お嬢ちゃん買うつもりなんだ?」

「そんな驚かなくても。ほら、お金も持ってるから」


 まさか買い物に来たとは思っていなかったようで、驚いた表情をした店主。ソラは苦笑いをしながらポーチから金貨を一枚取り出し掲げてみせた。


「うちの商品は少し割高だけど大丈夫かな? その弓一本で金貨一枚貰うよ? もちろんその分品質は保証するけどさ」

「大丈夫大丈夫、はい」

「まいどあり。だけどもうちょっと大きくなってからこれは使いなよ?」

「わかってるよ」

「いい子だ。お嬢ちゃんには矢筒と、矢を一束おまけで付けてやろう」

「おぉー、ありがとう!」

「どういたしまして。また来なよ!」

「多分ね」


 こりゃ手厳しいと笑い声を上げる店主に手を振り、ソラは店を後にした。


 これからいく先々でこのような子ども扱いをされるのかと思い辟易し始めていたが、どうやら得することもありそうである。金貨はあと二枚。収入はしばらく無さそうなので、節約出来るに越したことはないのだ。


 ソラはホクホク顔で裏路地へ消えていった。


 建物の影に隠れると、誰にも見られないように【霧化】し、上空へ。目指す先は獲物のいる草原である。


 今のソラの魔素量では、バテるほど飛んで五キロが限界だ。なのでまずは狩りやすい突撃イノシシやゴブリンがいる草原で経験値血液を稼ぎ、体力を伸ばすのだ。弓を扱うためにもう少し腕力が欲しいということもある。


 スタミナとも相談しつつ街と点在する他の冒険者たちから離れていく。三十分ほど高速で飛んだところでちょうどいい木陰を見つけ、そこに降り立った。


 ソラが最初の獲物として選んだのは、絶対に食べたくないゴブリンではなく、呑気に一匹でぶらぶらしていた突撃イノシシだ。


 森と街から外れた場所であり、しばらく襲われることがなかったのかかなり油断している様子である。


 ぶるぶると鼻歌のように大きな鼻を鳴らしていて、ソラは思わず苦笑いしてしまった。


 




 __________


今日は2話書き進められました! 持ち堪えた!


……合わせると5000字超えるから分割2話にしたのは内緒です(´・_・`)

因みに次話大変なことになります。

20210804


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