第三章 メスガキフェンリル、最後の戦い

教授とトレーニング

 それ以来、ジョシュアは仕事が終わると、教授のもとでトレーニングを開始した。


 教授自身は、何も教えてはくれない。


 が、教授の持ち物で役に立ちそうなことは全て試した。

 彼の読み終えた本を解読したり、独自で魔法を開発したり。


 ミラも、実戦形式の魔法合戦に付き合ってくれている。


 魔法による実戦は、ミラの方が優れていた。

 

 デスクワークがメインだと言っていたが、訓練は怠っていなかったようだ。

 いや、実際に魔物とも戦ってきたような慣れを感じる。


 頭しか使ってこなかったジョシュアとは、大違いだ。


「はあはあ、ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 涼しい顔で、ミラはジョシュアに礼をする。


「熱心やな。そこまでその召喚獣は、憎たらしいんか?」


 ジョシュアの頼みに、教授は首をかしげた。


「いえ。追い出したいんじゃないです。ただ、御せないのです。抑え込めなくて」


 これまでリヨにされた仕打ちを、教授に話す。


「ほな、その家に居座ってるフェンリルを、手懐けたいと?」

「そうしないと、一人前といえません」


 ペットであるリヨを越えること。

 それがジョシュアの悲願である。


 そうでなければ、リヨは自分から離れてくれないだろう。


 ジョシュア自身も、リヨの手助けを必要としない男にならなければ。


「せやろか? もっと大事な問題があると思うけどな?」


 ゴードン教授は、ミラと視線を合わせる。

 ミラは、首を振るだけ。


「意味ないと思うで。実害は被ってないんやろ?」

「ありますよ。ずっとそばにいます」

「ないやんけ」


 一緒に暮らしすぎて、自分があの家の主だと感覚がマヒしているのだ。

 この間も、メイドと必要以上にイチャついていたし。

 もしメイドにリヨの血筋が混じったら、どうするつもりなのか。


「リヨは基本、無害。気にすることはない」


 ミラも言ってくれるが、彼女のストッパーもいないのも事実なのだ。


「今は、そうかもしれない。でも、あいつを止める力を得ないと、リヨはずっと増長する。更に力をつけて手に負えなくなる前に、止める手段を考えないと」

「そんなに、ザコ呼ばわりされるのはイヤ?」


 ミラが、悲しげな顔をする。


「ワタシは、ジョシュアのいいところをいっぱい知っている。ジョシュアは自分が思っているほど、弱い人間じゃない。親切なところもある」

「せやんけ。ミラはんもそう言ってくれてるんやし、気にせんでええんとちゃうか?」


 ジョシュアは一瞬、心が揺らいだ。

 自分がこんなに慕われているとは、思っていなかった。


「ありがとうミラ。ありがとうございます教授。でも、これでいいんでしょうか?」

「ええねんええねん。同じ土俵で戦おうとするから、アカンねん。あんたの得意なスタイルに持ち込んだらええ。あんたがそのフェンリルより高度なことは何や?」

「そうですね……あいつよりは、漫画を読むのが早いです」


 すぐに飽きてしまうリヨと違い、理解も深い。それは、自負できる。


「お、おう……」


 さすがに、教授でもお手上げだったらしい。


「だったら、彼らを実際に発動させればいい」


 ミラが、アドバイスをくれた。


「ああ、幻想の具現化か。資料があったなぁ。どれやったか。あ、これや」


 机の奥で足置きになっていた本を、教授が出す。


「おもちゃかなにかに仮初の命を吹き込んで、操ると。その能力は、作中の設定に依存する……なるほど」


 イメージは、実体化できる。

 化け物には、化け物をぶつけろ、か。

 これは、使えるかもしれない。


「参考になりました。ありがとうございます」


 教授に続き、ミラにも礼を言う。


「ありがとうミラ。仕事の邪魔をして悪かったね」

「いい。また来て」

「そうだね。リヨに勝ったらまた」

「関係ない。いつでも来て」


 ありがたい。そこまで慕ってくれるなんて。


「いい報告を期待していてくれ。それじゃあ」



 これは、戒めだ。ミラの行為に甘えてはいけない。

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