第15話・すてーき・いん・ざ・すかいすくれいぱぁ

 「あのね、しのちゃん。いきなりお金にものいわせて答え出すのってあんまりよくないと思うの」

 「知ってます?神戸や松阪ほど有名じゃないですけど、仙台牛って最高級品なんですよ?」

 「わーい、おねえさんなんでもしゃべっちゃう」


 アペリティフの注文をとりにきたウェイターに「ドンペリニヨン!」と、ずーずーしいことを言って、仁麻は篠を呆れさせていた。

 ちなみに、年齢確認のために提示された仁麻の運転免許証はあからさまに疑われてたよーにも見えたが、そこは仁麻も慣れてるのかしれっと「ごくろーさま」と応じてウェイターを恐縮させていたものだ。


 「…で、こぉんなお高そうなステーキハウスに呼びつけて、おねえさんに何を喋らせようってつもりなの?麻季ちゃんの大事なご主人さまは」

 「わたしが仁麻さんに聞きたいことなんて決まってると思いますけど。あとステーキハウスって言うのやめてください。これでも結構思い切って予約した店なんですから」

 「そーねー、東京の夜景眺めながら高級和牛のステーキなんて、わたしのお給料じゃ無理だものねえ」


 都心の高層ビル。その最上階に近い階層のレストラン街の専門店。確かに公務員の給料ではそうそう立ち入り出来るものでもあるまいが、あまりにも恐れ入れられては篠も悪いことをしてるような気分になる。

 だから好奇心と物珍しさにあかせて落ち着き無い様子でいるくらいが気も咎めなくてちょうどいいのかも、と八つも年上の女性が届いた食前酒を口にして感激してる様子にホッとする篠だった。


 そんな感じで篠も、食前酒代わりのアップルサイダー(もちろんシードルではなくただのジュースである)のグラスを半分ほど空け、篠が手際良くオーダーを終えた頃。


 「ところで麻季ちゃんはどしたの?」


 この場にいない共通の関係者の話を、仁麻は早速始める。


 「今日は外で友だちとご飯行ってくる、って言ってきました。失礼なことに心配されましたけど。わたしだって外で一緒に出かける知り合いくらいいますよ」

 「そっちの心配じゃなくて、普通に夜遊びでもしてないかどうかの心配じゃないかしら。夜は何時に帰ってくるか確認されたでしょ?」

 「業務終了時間までには帰ってくるようにとは言われましたけどね。別に残業させるつもりなんかないってのに、もう…って、なんです?」

 「あー、うん。麻季ちゃんも大概ひねてるけど、しのちゃんもなかなか素直じゃないな、って」

 「割り勘にしていいですか?」

 「あ、うそうそ。そーしてぶんむくれしてるとこなんか、年相応のかわいい女の子だわよ、うん」


 そう言われて更に機嫌を悪くすることもなく、微苦笑で取り繕うくらいにはこの子もひねくれてるのね、と口にはしない仁麻だった。代わりに麻季がいつぞや言ってた「ツンデレ」なる単語をうっかり口にして、篠に「なんのことです?」と不審がられて焦りはしたけれど。


 「つん…でれ?でしたっけ。後で調べるからいいですよ、別に。それで麻季のことですけど」

 「調べないでね?ぜっっっったいに、調べたりしないでねっ?!」

 「え、えっと…そこまで言うなら調べませんけど…それより本題に入ってもいいですか?」


 コクコク頷きながら、仁麻はドンペリニヨンのグラスを空にする。空というか雫しか舌に零れなかったので、お代わりを頼もうかどうか思案中のように篠には見えた。


 「こんな美味しいお酒おごってもらったんだから、聞きたいことはなんでも聞いてちょうだい。でもなるべくお料理来る前に済ませてね?二度とないだろう体験をここにいないコの話で妨げたくないしぃ」

 「アペリティフの一杯だけで売り渡されるんじゃさすがに麻季が気の毒なような…ああいえ、そうですね、美味しいお料理を前にしてする話じゃないでしょうし」

 「…てことは、ごはんが不味くなるよーなお話なのね?」

 「……仁麻さんがそう言うんでしたら、あんまりいい話じゃないんでしょうけど」


 話せる内容か話せない内容かは仁麻さんが判断してください、と篠は前置きしてから話を、始めた。

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