異界キタセンジュダンジョン~北千住とは名ばかりの魔窟で有象無象が大暴れ、凡人の俺はどうするよ!?~

亜未田久志

第1話 北千住喧嘩トーナメント


 時は現代、場所は東京足立区北千住駅前。ペデストリアンデッキにて行われる喧嘩トーナメント、「せまっ」と思われるかもしれないが、タイマンの喧嘩ならそれで充分だ。


「お、やっぱり今日は人が少ない、ラッキー」


 政府公認だとか、ヤーさんがバックに付いてるだとか、きな臭い香りがプンプンするが、実際に賞金一千万円を受け取る優勝者の姿を見た者が居たとなっては信じるしかない。それが自分自身なら尚更だ。俺は黒づくめの男が、傷だらけの優勝者にそれを手渡すのを確かに見た。ちなみにその優勝者の傷だらけの男って言うのは空手の段位持ち、優勝予想一位だった男だ。見事、予想的中した訳だ。俺は感動したね。それまで近づこうとも思わなかった喧嘩トーナメントに気まぐれで近づいて、適当に賭けたチップは倍になって戻って来た。

 俺は、参加してみたいと思ったね。俺みたいな喧嘩馬鹿でも勝てる可能性がワンチャンあるなら、そこにも賭けてみたくなった。

 そんなある日の深夜、丑三つ時。

 交番に警官はいない。

 ペデストリアンデッキに集まる人々。

 しかしトーナメント参加者は俺を含めてたった五人。

 それ以外は観客だ。ペデストリアンデッキはぎゅうぎゅうだった。


「これなら勝てそうだな」

「ああん?」

「なんだこいつ」

「新顔か」

「やっちまうか」


 なんか物騒だがこういうのには慣れてる。こいつらいつもの常連の雑魚だ。

 勝てる、それに五人トーナメントだと一人シードが出る。黒づくめの男が現れ、俺を指さし、「お前がシード枠だ」と宣言して去って行った。

 俺はとことんツイてると思った。

 

 第一回戦、大男と優男の勝負、ここでのルールはステゴロタイマン。

 大男のストレートが空を切る。優男の一撃が大男の鳩尾みぞおちを捉える。

 見た目に反して喧嘩慣れしているのは優男のほうらしい。

 かと思いきや。

 鳩尾へのダメージを気にも介さない大男は、そのまま両手を絡めて大きな拳骨を作って振り下ろす。優男に脳天から衝撃が走った事だろう。泡を吐いて気絶している。

 

「うわっ、いたそー」


 俺はお道化てみせる。周りからは顰蹙ひんしゅくを買う。知った事か。どうせ此処に居る連中とは今夜限りでおさらばだ。

 一千万円を手にして、俺は旅に出る!

 そんな事を夢想していたら、小男が、長身の男にやられていた。あっさり蹴り飛ばされたのだ。

 

「リーチの差は偉大だねぇ」


 俺はどこまでも飄々ひょうひょうとしたキャラで行く。特に意味はない。相手を油断させられたら上出来だという考えだ。

 大男と長身の男の勝負。これだと紛らわしいな。太い男と長い男……なんかこれも嫌だな。

 まあいいや、消化試合の描写なんて俺飽きたね。

 いよいよ決勝、シードで悠々と勝ち上がった俺とボロボロの大男。おお勝ったのはタフなお前か。いいね、りがいがある。


 喧嘩が始まった。


 俺は間合いを取る。飛び道具も何も使えないこの場で一番使うのは「頭」だ。

 むやみやたらに殴り合いをしても賢くない。俺は一度距離を取って相手を観察する。既に上がっている息、長身の男との戦いで負ったであろう傷。狙い目はそこ、それは分かってる。問題はどう、その間合いまで詰めるかだ。

 いつも俺は普段、目つぶしとかいうこすい手を使っているのだが、平場のここじゃそんなもん使えねぇ。だから……。


「あっ! あんなところに一千万円が!」

「はぁ!?」


 馬鹿め、目線を反らしたな。俺は走り込み大男の傷を抉るような蹴りを放つ。大男が呻き声を上げる。そのまま金的を狙う俺。卑怯? 褒め言葉だね。

 そんな時だった。


「ひょーひょっひょひょっ!」


 そんな怪しげな爺の笑い声が聞こえたのは。

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