第5話 突入
『由芽故町と○○町、○○町において、○○日と××日と相次いで起こった連続殺人事件ですが、未だに犯人の行方が解っておりません。当時現場に居合わせた人に寄りますと、“空から光の矢のような物が降ってきていた”との目撃情報が入っております。警察は無差別なテロだとしており、現在も捜査中です』
僕と俊也、ウサムービットはテレビを見ながら食事をしていた。相変わらず外出規制が敷かれていて思うように外に出ることが出来ない。幸いあの光の矢の雨が軒下には届かないことが解ってからはだいぶ緩和されている。
「それにしても、須川って奴の目的は何だろうね?」
「さっぱり解らん。俺たちじゃ調べようにも、あまりにも手がかりがなさ過ぎる」
「それにまたあんなことがあったら、一巻の終わりだもの。うかつに外にも出られないわ!」
憤りながらウサムービットは窓の外を見上げている。外はうんざりするほどの晴天だ。これで降ってくるのが太陽の光では無く、あの死の雨でなかったらどれほど嬉しいことか。
するとふと、テレビの音声が耳に入った。
『この事件の犠牲者は5,864人にのぼり、今後も増加していくとみられております。これ以上の拡大を防ぐためにも、一時の余談も許さぬ状況で————————』
「なあ、この数字って———————」
「あの建物のパネルにあった数字と同じだよね?」
異世界で魔王城と思しき建物の城門に備え付けられていたパネルの数字が、この被害者の数と一致していた。トーヤの推測通りだ。
「だけど、これが解ったからってどうしろっていうんだよ・・・・・」
俊也は頭を抱えていた。あのパネルの数字の意味がわかったとして、結局状況は何一つ好転していない。
するとそこに、ピンポーン、とチャイムが鳴った。
「はーい!」
一人キッチンで支度をしていた海香姉さんが返事をして出て行く。そしてしばし立ち話していると、海香姉さんは怪訝な顔をして戻ってきた。
「カルマ。なんか、こんごうどう・・・・ってところからお客さんが来ているんだけど、顔なじみ?危ないから入れちゃったんだけど」
「金剛堂・・・・・って、華!?」
僕らはそろって玄関へ向かう。するとそこには予想通り華が居た。
「心配しなくて大丈夫です。車でここに来ましたので・・・・・・異世界のトーヤさんから連絡があって、可能であればすぐに来て欲しいと言われました」
「トーヤ?あの人ってこっちの世界に来ていたの?」
ウサムービットは怪訝な顔をしていた。トーヤと僕らは、互いに別の世界に住んでいる者同士だ。だから連絡を取る手段なんて無いんだけど・・・・・
「トーヤさんから“通信端末”を預かっておりました。“同じ事件に関わっている以上、情報は共有できた方がいい”とのことだそうで・・・・・」
「あいつ、いつの間に・・・・・・・」
「あたしたちのことは信用しないって言っていたくせに・・・・」
華は表面に紋章が描かれて、その上からガラスが貼り付けられた金属板を見せた。そう言えば、華はトーヤさんと度々話し込んでいたっけ。多分向こうの世界とこっちの世界の技術的な部分で話が合ったんだろう。だったら華にスマホみたいなものを預けておくのもうなずける。
「でも、肝心のカセットはどうなんだ?いつまた須川が襲ってくるかわからないぞ?」
「たしかあの機体を回さないと出てこないんですよね?この状況で外に出るのも・・・・・・」
と華が言って居る間に、僕は服のポケットを探ってみる。するとやっぱり、カセットテープも一緒に入っていた。前回異世界に行ったときとは違う番号が刻まれていたことから、また新しいテープが入っていたことになる。
「やっぱりだ。コロポンを回していないのにもう持っている」
「一体何なんだ?」
「わかんないけど・・・・・とりあえずすぐにでも向かっていきましょう!!」
元気よく提案するウサムービット。こうなったらすぐにでも向かおう。僕はすぐさまカセットテープをテープレコーダーにセットして、「再生」ボタンを押す。
「・・・・・・て、またお前!!」
「か、カルマさん!まだ準備が————————」
辺りがまばゆい光に包まれていく中、僕は俊也と華の叫び声を聞いていた。
「お前、お前の姉貴になにも言ってないだろうが!!」
「護衛の皆さんに、お話をしなければ—————!!」
後日、僕らがいなくなったことに気付いた海香姉さんと華を送り届けてきた黒服達が大騒ぎして、別の事件が勃発していたのはまた別のお話。
「はぁ・・・・・・・なんでお前はいつもいつも、勝手に押すんだ?準備ってのがあるだろう?」
「いや、すぐ来てって言われたらすぐ行かなきゃかなと思って」
「カルマさん・・・・・・」
呆れたような俊也に冷たい視線を投げかけてくる華。ウサムービットは若干ぎこちない空気をどうにかしたいのか、声を張り上げる。
「ま、まあ来ちゃったものは来ちゃったんだから、次のことに集中しましょ!!ほら、アソコにトーヤさんがいるわ!!」
ウサムービットの指さす先には、白衣を着た集団とマフラーを巻いた集団、そして何やらメカメカしい鎧を着た人たちが集まっていた。鎧の人はともかく、共通しているのは黒いスーツを着ているって事だ。
そしてその中心に、トーヤがいた。
「来てくれたのか。・・・・・・・・・・済まなかったな、金剛堂。協力感謝する」
「いいえ。それよりも———————」
「ああ。今、この城門のロックを解除しようとしているところだ」
よく見ると白衣を着た人たちは、魔王城の城門のパネルに向き合って、何かを操作している。なんだか、すごいな。
「まだ解除には時間が掛かりそうだから、先に情報共有からだ。・・・・・・・・こっちで色々解析した結果、解ったことがある。須川はどうも、お前達が“バイラス”に見えているらしい」
「バイラス?って、その機械みたいな奴の事?」
「ああ。今ここにあるのはその模造品だが」
そう言って、トーヤは近くに鎮座して居るロボットに手を触れた。
「このタイプは基本モデルに当たるらしいが、須川の奴はコイツを10,000体討伐することを目標としていることはほぼ確定している。で、そのコアを解析したところ、どうもこのコアが別世界の生命体と連動しているようだ」
「別世界の生命体ってことは、私達の世界の人間達・・・・・・?」
「金剛堂、なにか知っているのか?」
トーヤは華の口にした単語が気になったらしく、彼女に話しかける。
「ええ。私達が戻った後、向こうの世界での事件について報道していたのですが・・・・・外の時の数字が“5,864人”となっていたのです」
「ちょうど俺たちもそれ気付いたんだ。そのパネルに表示されている数字と全く同じってのは、偶然って考えるにはあまりにも不自然だろ?」
「そうか・・・・・・これは思った以上に厄介な問題だな」
「ええと、どういうことなの?」
僕は頭がこんがらかってきたので、トーヤに聞いてみた。でも彼女?は僕を鬱陶しそうなに見ている。
「・・・・・・・簡単に言えば、お前達の世界の人間を殺すとこっちのバイラスも勝手に壊れ、逆にバイラスを破壊するとお前達の世界の人間も死ぬって事だ。更に言えば俺の世界の方にも連動しているから、そっちでも死人が出るって事だ。—————————まあ、こっちの場合は原生生物だから人間には被害が出なかったがな」
「そうなんだ・・・・・・・でも、だったらおかしいよね?そのパネルの数字もこっちの世界の犠牲者の人数も、変わっているはずだと思うんだけど」
「確かに・・・・・・・・・」
華はその事実にゾッとしていた。もしかしたら、僕らの手で無関係な人を殺して仕舞ったかもしれない。だけど、それをトーヤは否定した。
「恐らく、奴自身が手を下さないと行けないんだろう。奴も“討伐数”と気にしていたことだ。このパネルも奴自身と連動していると推測できる」
「よかった・・・・・危うく人殺しになっちゃうところだったよ」
ほっと一安心した僕。やがてピーッと言う音が鳴ると、群がっていた白衣の人たちがにわかにざわめき始めた。ゴゴゴゴゴ・・・・・・・と城門が開く。
「トーヤ君。無事解錠出来たみたいだよ」
「そうか。手を患わせたな」
城門が完全に開いたのを確認すると、トーヤは自分の部下達に指示を出していた。
「ここから、この“魔王城”の調査を行う!!各班最低1名ずつ各部署・部隊の人員を入れる事!!少しでも危険だと思ったら、深入りはするなよ!!」
「「「「オオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」
そしてトーヤの号令に答えた部下達は、一斉に城門をくぐって中へ駆けていく。本物の軍隊って、こんな感じだろうな・・・・・・・・・・
「そうしたら、俺も内部の操作を行う。協力しろ」
「わかったよ」
「あの野郎、絶対にぶん殴ってやる」
「あの人のしたことを、私は許せません!!」
「それじゃ、張り切っていくわよー!!」
こうして、僕らは「魔王城」の中に脚を踏み入れた。
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