・100万回と1000万回の転生を重ねても――
「ん、んん……?」
「目が覚めたか?」
「おお、そのでけぇおっぱいは、女神ちゃんか! 会いたかったぜ!」
「くっ……なぜ貴様は人の顔を見ず、乳を見ながら会話をしようとするのじゃ!! 顔を見ろっ、わらわの美しい顔を!!」
「なんだよ、ごぶさたな上にご機嫌斜めじゃねーか」
「当たり前じゃ! これは、どういうことじゃ、バーニィ・リトー!!」
セクハラ目線以外にも不満があるらしい。
俺は女神エスリンちゃんのふわふわとした白い巻き毛を長めて、その姿に元の世界の匂いを少し感じてホッとした。
性格はともかく俺は女神ちゃんの見た目が好きだ。美人で、乳がでかくて、おまけにふわふわだ。
「どうって、次でジャパンダービーってところまで駒を進めただろ? 褒めてくれよ」
「わらわは、人気のない馬で勝てと、そう注文したはずだぞ……? なのに、これはどういうことじゃ……?」
「言ってたっけか?」
「言ってたのじゃ! なんで肝心な部分を忘れてるのじゃっ! まさか、目的まで忘れていないじゃろうなっ!?」
「あー……そりゃ、あれだ。ダービーに勝てばいいんだろ、勝てば?」
「ぁぁ……なんて大ざっぱなオヤジじゃ……。はぁ、まあいい……。勇者がそなたの馬に賭けたら、負ければいいだけのことじゃな……」
「そうだな」
いくらエスリンちゃんの頼みでも、それだけは絶対に嫌なこった。
もし直前でそういった展開になったら、俺は報酬を投げ捨ててでもオニっ子を勝たせよう。
勇者とやらの運命を変えるのは結構だが、俺は八百長に加わる契約なんてしていないからな。
「本当に大丈夫なんじゃろうな……? 神に逆らうと恐ろしいのじゃぞ……? こっちは100万回ダンゴムシに転生させることも出来るのじゃからな……?」
「まあ任せとけ」
100万回ダンゴムシされようとも、俺は八百長だけはしない。
「返事が軽薄じゃ! いいか、あの世界の正史では、勇者はアルデバラン号に全財産の半分を突っ込む! そして大当たり。当たった馬券で向こう5年間、自堕落の限りを尽くすのじゃ。必ずはずれ馬券にしてくれ!」
「そんなやつを抜擢にするのが、そもそもの間違いだろ……?」
「いいからこちらの指示に従え……。わかったな?」
「わかったわかった」
俺はゴロンと神々の園に寝そべって、女神様の前で目を閉じた。
八百長だけは絶対に嫌だという本心を、こりゃ見抜かれているだろうな。
「くれぐれも、くれぐれも頼むぞ……。逆らったら、1000万回ナメクジ転生じゃぞ……?」
「ナメクジは嫌だな……」
嫌だがどうしても勝ちたい。
俺はこれ以上交渉する気はないと目を閉じて、寝直した。
・
神様の小言から目を覚ますと、飛行機は長いフライトを終えてホッカイドー州に着陸しようとしていた。
「なんだよ、姉ちゃん。夜這いか?」
「ツーアウトです。それも次やったら訴えますから」
「なんでだよ……」
ベルトを締めてくれている従業員さん。いや、フライト――フライトポテトさんに軽い冗談を言ったら、冷たい目で睨まれた。
「その顔、覚えましたから」
「悪かったって……。ベルトありがとよ、フライトポテトさん」
「……本当に変なおじさんですね、あなた」
そこはポテトではなくアテンダントだと、後でシノさんから教わった。
かくして俺は長くて短い戦いを終えて、涼しいを通り越して肌寒いホッカイドーの大地へと帰ったのだった。
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