第1話 失恋したんだが
僕は大なり小なりショックを受けた。まず失恋したのは言うまでもないけれど、希望がそんな事実を今まで一番身近にいた僕に教えてくれなかったのが何よりショックだった。
僕が思っていたよりも、希望はずっと遠くにいたんだと気付かされた。いや、そもそも男として見られてすらいなかったのかもしれない。ただその事実が受け止められなかった。
「おい、そんな落ち込むなって」
「落ち込んでねぇよ......」
昼休み。
野郎達と食べる弁当。こんなに虚しいものはあるだろうか。今頃、新島先輩は希望の作ったうまい弁当を頬張っていると言うのに。
「ほら、俺の唐揚げやるから」
「じゃあ俺冷凍ひじき」
「じゃあトマト」
「どさくさに紛れて嫌いなもん渡すなよ!」
親にも先生にも友人にも。ほとんど知り合いから慰められた。こうしてみると僕の気持ちは周りにはバレバレだったんだな。
希望ただひとりだけを除いて。
「......はぁ」
次の日は学校にも行く気が無くなって、サボった。担任はなにも言わないで体調不良にしてくれた。
野郎どもからは『放課後新しい女探しに行こうぜ!』とメッセージが届いていた。
ただ、ありがたかった。
*
放課後、僕の部屋に希望がやってきた。正直会いたくなかったけれど、久し振りに会えた気がして素直に嬉しいと思ってしまった。
もう好意を持ったとして、どうしようも無いと言うのに。
「えっと、さ。体調大丈夫?」
「別に、平気だけど」
「あ、そう?じゃあちょっとお邪魔しまーす!」
「だからって病人の部屋に入るのはどうかと思うけどな」
「でも平気なんでしょ?」
「まぁ......」
そう言って僕の部屋の漫画を適当に数冊取ってベットを占領する。
こういうズカズカと入ってくるところが。遠慮のない図太さというか。僕がいるのに部屋着で寝転ぶこの無防備さが。
そういうところが本当に。
本当に......大っ嫌いだ。
「なぁ、希望。付き合ってるって本当なのか?」
「え、新島先輩のこと?」
「そう」
「う、うん......」
彼女の顔を赤らめた顔。初めてみた、希望の女々しい表情。その全てにどうしようもなくドキドキする自分が嫌だった。
「い、いつから」
「6月ぐらいかな、球技大会の時に」
「どっちが告白したんだよ」
「せ、先輩から」
気恥ずかしそうに顔を赤らめ、そっぽを向く希望。
胸にナイフが刺さった。僕の恋心が完全に砕けちった。きっと、希望も先輩の事が好きなんだろうな。
ああ最悪だ。
今すぐにでも泣き叫びたい気分だ。
本当に聞かなければよかった。
「そ、っか。じゃあ、俺と一緒に居るのは良くないんじゃないのか?」
「んー?別にいいでしょ、蓮の家だし」
ああ、やっぱり本当に男として見られてないのか。
「嫉妬するかもだろ?」
「そんなわけ......」
「出て行けよ」
「......なんでそんな事いうの?」
「言えねぇよ」
「?今日の蓮なんか変だよ」
「いいから出てってくれよ!!!」
「ッ!?」
「ぁ」
叫んでしまった。もう俺も限界だった。ここまで嫌な現実を直視したくなかった。
「ご、ごめん」
希望を部屋から追い出した。落ち込んだ顔を見せた彼女に気を使うことも出来ない。いいや、したくもなかった。今日は間違いなく人生最大最悪な日だ。もういい、寝よう。
これで俺の好意ももうバレたわけだ。
ああ、もう何もかも忘れてしまいたい。
*
希望はメンタルが強いのか、何なのか。その日うちにまた僕の部屋にやってきた。
今度はどこで覚えたのか気合の入ったメイクに普段は面倒くさがって絶対履かないプリーツスカートも身につけて。これからデートにでも行くのか、という格好をして部屋に上がり込んできた。
「話ってなんだよ、改まって」
「ねぇ、蓮ってもしかして私のこと好きだった?」
「......だったらなんだよ」
「だとしたら悪いことしたなって、思っちゃって」
希望はずっと泣きそうな顔をしていた。それでも可哀想という感情はなぜか湧いてこない。むしろ僕は心底苛立っていた。
目の前にいるものが憎たらしいとまで思えてしまった。
「ねぇ、蓮。キス、してみる?」
「は?」
「わかってる。おかしいのは分かってるけど、さ。付き合ってはあげれないけど、キスぐらいなら、してあげてもいかなって」
「は?だから全然わかんねぇよ」
「私に謝らせてよ!なんなら胸揉んでもいいから!また前の蓮に戻ってよ!どうしたら元通りに一緒にいられるの?」
「無理だよ」
「え?」
「元どおりになんか出来ない。俺はもうお前と一緒に居たくない。朝部屋にも来ないでくれ。放っておいてくれよ」
「でも......」
「お前さぁ!頭おかしいのか?なんだよ、胸揉ませてあげるから仲直りしよう、だ。付き合えないけど身体を触らせてあげる、とか。
俺がお前を好きだったのは身体目当てじゃねぇんだよ!俺はお前の一番が良かったんだよ!だからお前と一緒に居たのに、居たのに......」
自分で怒鳴っておいて自己嫌悪に押し潰されそうだった。ここで怒りで殴ってもなにも解決しないのに。
「下心で私と一緒に居たの?」
「......ッ」
ちがう。
ちがう、本当はそこにいるだけで嬉しかった。希望を見てるだけで元気が出る。だから好きだった。
「ああ、そうだよ。だから今のお前が大っ嫌いなんだよ」
「ぁ......」
大嫌いと言った時、希望はついに大粒の涙を流した。
「俺は最悪な人間なんだよ、だから早く出て行けよ。邪魔なんだよ!」
ーーパシッ。
俺の頬が赤く染まる。
「最ッ低!!」
僕の幼なじみは目の前から消え、僕は独りになった。最後に見た幼なじみの鋭い目がいつまでも胸に突き刺さっていた。
「これでいいんだよ」
ただ、今は自分を正当化するので精一杯。これから僕はあの幼なじみと距離をおいた方が彼氏のためにもなるし、僕もまた彼女を傷つけつけることもなくなる。
これでいい。
このままでいい。
「じゃあ、なんで俺は泣いてんだよ」
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