第11話 ご利用は計画的に。。。

「ポイントって、こうやって見ればよかったのか」「……難しいですね。やはり取材をしない限りは、描写にも限度が……」


 そう呟くと、


「海斗さん、釣り竿の詳しい情報を教えてください。特に形状とか、材質とか、できるだけイメージに近いものを」


「え、うん。いいけど……」


 急にはきはきと話し始めた睦美に、海斗はどうしても戸惑ってしまう。どうやらこの少女、文章のことになるとスイッチが切り替わるらしい。その口調はさながら一丁前のビジネスマンのようだ。


「えっと、長さはこれくらいで──」


 語彙力の乏しい海斗は身振り手振りを駆使しながら、なんとかイメージを伝えていく。


「はぁ、結局釣り竿を出すのね」


 弥生はそう呟くが、海斗の熱い要望に負け、許可を出したのだった。


 その前に「三人が洞窟を脱出する」という内容のものを試してみたが、「not allowed」と表示され、なにも起きなかった。できることとできないことがあるらしい。


 だったら、できることをする──そう、釣り竿を出すことになったのだ。


 睦美は海斗からの情報を頼りに、正確な文を記していく。どんな解釈をされてもいいようにしなければならないため、文字数も必然的に多くなる。


 ただこの作業をすれば、普通に購入するのと違い、ポイントの消費はない。どんどん有効活用していこう。


「……こんな感じ、ですかね」


 睦美は書き上がった原稿を手渡し、海斗がそれに目を通す。


 ……うん、問題ない。これぞ自分の欲している竿だ。


「じゃあ破るよ」


 ここまで丹精込めて書き上げたものを紙屑にしてしまうのは少し抵抗があるけど、仕方ない。


《ビリィッ!》


「……おぉ!」


 海斗の手元に現れたのは、スカイブルーの竿。持ち手を握ってみても、好感触だ。自分に合っている竿なんだろう。


 付属しているリールにも手を掛ける。巻き心地も最高だ。


「釣り竿って思ったよりも長いのね」


 弥生は今まで釣り竿をまじまじと見たことがないのか、感想を口にした。


 今、海斗が持っている竿は伸ばした状態で4メートルほどだ。確かに長い。


「……今気が付いたんですが……その竿、洞窟内で使えますかね? 長すぎて壁にぶつかったりとか……」


「うーん、ぶつかるんじゃね?」


「ぶつかるんじゃねじゃないでしょ! もっと短い竿にすればよかったじゃない!」


「だって長い方が遠投できるし」


「煙突だかなんだか知らないけど、そんなものかさばるだけよ!」


「遠投な。遠くに投げること。あと、かさばることもないよ」


 海斗の竿がシュルシュルと縮んでいく。本当なら手でちまちまと縮めるものなのだが、それが一瞬にして一メートルくらいまでになった。


「凄いなこれ。念じただけで縮んでる」


「な、なによこれ!」


「か、海斗さんの希望で、普通はありえない機能も付けてみました。えと、他には『絶対に竿が折れない』とか、そういうものを……」


「うん、だから壁にぶつかっても竿は折れない」


「あ、そういうことだったんですね」


「なんだろう。こいつがちゃんと色々考えてるなんて、ちょっとムカつくわ……」


 弥生は散々海斗のフォローをしてきたため、急に海斗が自分より思いを巡らすと、苛立ってしまうようだ。


「……ただ、まあ短い竿もあっていいかな」


《ウィン》


「あ、2メートルの【エギングロッド】だって。こういうのも出しとくか……」


「なに言ってんのか分かんないけど、とにかくあんたがまた竿を出そうとしてることは分かったわ。やめときなさい」


 もう怒り疲れた弥生は一定のトーンでそう告げる。でも、確かに二本も持ち歩くのは大変かもしれない。両手が塞がってしまう。


「うーん、ロッドケースに入れるのもいいけど、一つのケースに二本以上入れると竿に失礼だよなぁ。やっぱりケース一つにつき竿一本だよなぁ……」


「竿に失礼って……本当にイミフすぎて草」


 全然ニコリともせず、弥生はそう言った。


「あ、あの……これ、なんでしょうか?」


 唐突に、睦美が声を上げる。二人はそれに反応して、睦美の指さすものを見た。


「【エギングロッド】の画面に、『ⓘ』のボタンがついてるんですけど……」


 本当だ。小さくて気がつかなかった。


「あ、これ詳しい説明が書いてあるやつじゃない! くっ、私としたことが、こんなものを見落としてたなんて……」


 『ⓘ』はゲームでもよく見られるボタンであるため、弥生は気が付けなかったことに一種の悔しさを感じているらしい。ここは彼女の見せ場になるはずだったのだが、睦美に取られてしまったのだ。


「ま、まあいいわ。とりあえず押してみましょう。なにか有益な情報があるかもしれないわ」


 ポチっ。睦美は弥生の承諾を得て、『ⓘ』を押した。



『【エギングロッド】 1000p

 購入後のポイント 3005 → 2005』



「そうみたいね。他のものも見れるのかしら?」


《ウィン》《ウィン》《ウィン》


 三者はそれぞれ画面を開き、アイテムのポイントを確認していった。


 まずは海斗のものを纏めるとこうなる。



【水(淡水)】 10p

【ブリ】 500p

【投げ釣り用ロッド】 1000p



「うわっ、【投げ釣り用ロッド】ってこんな高かったのか。……基準分からんけど」


 まぁいずれにせよ、無料でものが手に入る【魔法の執筆セット】さえあれば、この辺はもう気にしなくてもいいかも知れないが。


 次に弥生だが、彼女の【3Dシューティング】は、なんと3000000p。金銭感覚がおかしくなりそうだ。


「こ、こんなの買う勇気ないわよ……」


 この弱音ももっともである。


「で、睦美さんはどうだった?」


 その質問に応じようと顔を向けた睦美は──しかし、顔面蒼白だった。


「ど、どうしたのよ。そんな顔して」


「あ、あのあのあの……ここ、これ、これ……!」


 必死に声帯を震わせ、言葉を絞り出す睦美。一体なにがあったんだ……?



『【魔法の執筆セット】 0p

 購入後のポイント 3005 → 3005


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