第9話 帰還

 目が覚めた。


「サトル!」


僕は思いっきり抱きしめられた。


僕はある匂いを感じた。


太陽の匂いだ。


僕は全て思い出した。


僕は交通事故に遭った。


「ア、アユム」


僕は嬉しさのあまり、震えが止まらなかった。


「やった!最高!」


アユムは嬉しさで涙が止まらなかった。


僕は辺りを見回すとそこには父さんと母さんがいた。


父さんも母さんも溢れんばかりの涙を流して、嬉しそうに僕を見ていた。


僕は嬉しかった。


「父さん、母さん」


この世界はハッキリしている。


この世界は生き生きとしている。


この世界は溢れんばかりの心で溢れている。


この世界は溢れんばかりの愛で満ち溢れている。


この世界と出会えた、それは奇跡だ!


アユムは僕が植物状態になっても、諦めずにそばでずっと支えてくれた。


父さんも母さんも見返りを求めずにどんな時も僕に寄り添ってくれた。


ありがとう!


「おっ、お兄ちゃん!」


妹も駆け寄ってきた。


妹もとても可愛くて、とても優しい!


最高だ!


本当にありがとう!



 アユムから聞いた話によると、僕はDR(Dream Reality)という装置によって創られた世界にいたらしい。


DRは脳内で思い描いた夢を現実のように映し出し、現実のような感覚を体感させることができるという驚くべきものだった。


「僕が眠っている間にそんなに科学技術が進んでいたとは」


「ところでさ、どんな夢見てたの?」


僕は夢の中での出来事を全て話した。


「なんかとてつもなく物騒だね。そのムーマとかいうのがいろんな人間を仮想世界に閉じ込めてるわけでしょ」


「うん」


「夢魔(ムーマ)や迷夢(メイム)がいろんな人間の魂を仮想世界の一部として利用しているのか。そういうのって本当にあるんだ」


「こんなこと言うのもなんだけどさ、こんなアホみたいな話を信じるの?」


「うん、当たり前だろ」


アユムとはこれからも共に歩み続けることができる。


父さんは僕にこう言っていた。


僕は父さんになぜ、人に足があるのか?と聞かれたことを思い出した。


僕は立つためじゃないの?と答えた。


父さんはその通りだ!人は自分で立たないといけない。自分の力で立つために誰よりも一生懸命、何事にも向き合い、誰よりも一生懸命、学ばないといけないと言った。


僕はその言葉に見合うほど成長していない。


でも、僕は歩み続けることができる。



 仮想世界では迷夢(メイム)がサトルのことを想っていた。


「もったいないことしちゃって、サトルのことが好きなんだろ?」


「良いの。それにすぐここの世界に戻ってくると思う」


「うん。そうだね」


仮想空間と一体化している迷夢(メイム)とことあるごとにペチャクチャ喋る鳥ワンダーバードが優しく微笑んでいた。


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