第35話 未来への約束

「助かった、どうやら間に合いそうだ」


 深夜の空を飛ぶジェットヘリ、時速400キロ以上の速度を出している。


「もうすぐ指定の地点へ到着します。戦闘の準備は大丈夫ですか?」

「ああ、これがあれば大丈夫だ」


「あなたにはいらぬ心配だと思いますが、そのバンプー材で出来た剣では、相手を倒せないのでは? 我が社の近接用武器もお貸しできますが」


「いや、これで十分だ。ところで朧はマリの手に届いているか?」

「ええ、マルチブレインから要請があって、お渡しています」

 白髪で長身の男はパイロットの言葉に少し安心して外を見る。


「おや?」

「どうした?」


 長身の男がパイロットに聞いた。

「どうやら、あなたの教え子は、既に到着しているみたいですね」

「アイツら、ヘリをチャーターするなんて、なんて中学生だ」

「フフ、そうですね。あのヘリとは、まんざら知らない仲でもない。危険はなさそうですね」

「じゃあ、あのヘリの横に並んでつけてくれ」

「わかりました」


 ユウ達が乗ってきたヘリの横に着陸した直後に扉が開き、地上に降り立った長身の男。深夜の静かな空間をかき乱す、その闘気。その手には一振りの竹刀が握られていた。



 明莉が進入した部屋から、廊下の様子を伺う。

「三人いるわね。見張り。さて、どうするかな?」

 ユウの言葉に頷いて、マリが提言する。

「ぶっ飛ばすか?」

 それを右手で止めてアカリが気配を探る。

「扉を開けて三人か。ちょっと離れすぎているなあ。騒がれたら面倒ね。何か良い方法は……うん? 何か下が騒がしい」


 明莉の言葉に廊下のスキャンを始めたユウ。

「見張りの三人も、一階に移動したみたいね」

 ユウの言葉に、明莉が決断した。

「よし行くわよ。目標は二つ奥の部屋」


 頷いた三人は、扉を開けて一気に走り出す。


「浅井君、無事でいてね」


 三人は祈りながら、目標の部屋の扉の前に立つ。

 明莉がドアノブに手をかける。


「あれ? 鍵が開いている……」


 いい? 開けるよと、二人に目線を送った明莉。

 扉を開くと同時に、マリが部屋に飛び込み、朧を構えて臨戦態勢に入る。

 続けてユウ、明莉が部屋に入る。

 三人の目に、信じられない状況が映し出された。


「バカなこんな事が……なんで!?」

 ユウが床に膝を落とす。

「浅井君が……」

 目の前に血だらけで倒れている僕。その側には、見知らぬ男と九條が倒れていた。


「いやぁあ~~浅井君!」

 ユウが半狂乱になって、倒れている僕の所へ走る。

「浅井君ごめん。また私あなたを守れなかった……」

 僕を抱えて泣きじゃくるユウ。明莉が僕の身体の状態を確認する。


「ユウ、ねえ、ユウ」

 ユウに話かけた明莉。まったく聞いてない。

「うぁーん、浅井君ごめんね」

 ユウは泣き続ける。

「寝ているだけみたいよ」

「うぁあん。浅井君が~死んじゃった……え? 寝てるって?いったいどうゆう事?」

 冷静そのもののアカリ。

「出血してないし、心拍も脈拍も安定している。この血はこの男のものね。呼吸も深くてゆっくりとしている。そしてこの顔は……楽しい夢を見ているわね」


 顔を緩まして寝息を立てる僕が寝言を言った。

「マリ、お腹いっぱいよ……もう食べられないよ……明莉怒っちゃ駄目だよ……ユウまだ帰りたくないよ……」

 浅井君をギユウッと抱きしめ、その頬に顔をすり寄せる。

「バカ、心配させて、浅井君なんか嫌い」


 大粒の涙が僕の顔に落ちた。ユウの髪を撫でる小さな手。

「僕の事が嫌いなの?」

 目を覚ました僕が、泣き続けるユウの髪をなで続ける。


「嫌い。心配かけるから」

「じゃあ、どうしたら好きになってくれるの?」


 ユウは自分の髪を撫でる、僕の手を優しく掴んだ。

 そして語りだす僕への想い。


「ずっと、私と一緒にいる事。浅井君は、私や明莉やマリと一緒に年を経るの。中学を卒業して高校へ通い、その後、短大か大学へ行く。勉強は明莉が教えてくれるわ。学校を卒業したら、どこかの会社に勤めて、二十歳を過ぎたら四人で朝まで飲みながらカラオケするの。年を経たら、四人で温泉行こう。旦那と子供の愚姉と惚気をみんなで話すの。そして私達の子供にも子が生まれる。私たちはお婆ちゃんになるのよ。窓際の小さなひだまりの中で椅子に座り居眠りをしながら、静かに時を過すの。そして百歳になったら、四人で世界一周をして、その後に私は海の見える場所で、三人に見取られて息を引き取るの。明莉とマリも同じくらいに逝くから、浅井君はみんなを見送るのよ。いい? 一杯泣くのよ? 私達のためにね。だから私達より先に死んじゃいけないの。絶対浅井君は長生きしなさい。百五十歳まで生きるのよ」


 ユウの長い長い要望に微かに笑みを見せる僕。


「浅井君は独りぼっちだ。寂しいよ」

「もし浅井君が寂しかったら、わたしが迎えに行くわ」

「うん、なら、三人を送ったらすぐに迎えに来て欲しいよ。一人でいたくない」

「駄目だよ、浅井君は百五十歳まで生きて、私達の子供や孫に見送ってもらうんだから」


「ユウ達の子供。会うのが楽しみ!」

 ギュウっと、ユウは力一杯浅井君を抱きしめた。

「そんなに力をいれたら痛いよ」

 明莉とマリが左右から、浅井君の頭を撫でる。

「それくらい我慢しろ。ユウが終わったら次は、私と明莉がギュウッとするからな!」

「えー僕、壊れちゃうよ」

 三人に囲まれて、浅井君は嬉しそうに笑った。

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