第4話 この先どうしよう



 すがすがしいほど、悪の組織だなぁ。


 これ、検体をこの研究施設に入れる時は、マーカーをつけるのが義務らしい。


 やるのを忘れると、罰則があるとか。


 どっ、どんな罰則になってしまうのだろう。


 ちょっと怖い。


 まっ、まあマーカーをつけるだけつけて、お仕置しなければ良い事だし。


 ここは安全を考えるなら。


「しょうがないよね」

「う?」


 純真無垢な瞳がこちらに向いて、こてっと首を傾げられる。


「しょうが、ない……よね?」

「う?」


 うぁぁぁぁ!


 だぁぁぁ、めだぁぁぁぁ!


 こんないたいけな少女に、そんな非道なまねできるわないだろぉぉぉぉ!


「うぁ……うぅ……」


 って言った傍から、何やってるんだ!


 気が付いたらいつの間にかイマ先生がやってきて、シロンの診察をしていた。


 マーカーつけてる。


 注射器みたいなのでぶっとい針を、シロンの柔肌にぶっ刺してる!


 シロン涙目になってる!


「ちょ、イマ先生。その子俺の担当なんですけどっ!」


 けど、イマ先生は気にしてない。


 データーとれれば後はどうでもいいんか、この人は。


「可愛い女の子を泣かせるなんて、万死! 万死に値しますよっ! そこに正座! 正座して反省して! シロンに謝ってください!」


 俺は精いっぱい怒って見せるんだけれど、イマ先生、無視!


 ぐぁぁぁぁl!

 コミュニケーション取ろうって気がないんか。この人は


 近いうちに、イマ先生対策を考えとかないといけないな。


 目を話したら、勝ってに何やらかすか分かったもんじゃない!






 とりあえず、それからはシロンにお近づきになるために、お話をたくさんすることにした。


 えっ、仕事?

 ちゃんとやってるやってる。


 実験が必要になるところを後回しにしてるだけで、レポートとか観察とかはやってるし。


「シロン、これはねこだよ。ねーこ」

「こ?」

「そうそうよくできました!」


 部屋の隅から「できてない」というつぶやきが聞こえた。


 イマ先生は黙っててください。


「シロン、これはいぬだよ。いーぬ」

「ぬ?」

「はなまるー! えらいえらい」


 部屋の隅から「できてない」というつぶやきがまた聞こえてきたが無視。


 若干呆れているように見える。


 イマ先生は、「何やってるんだ」みたいな顔をずっと継続中。


 ちょっと前までは「何考えてるんだかよく分からん」人だと思ってたけど、意外に表情あるんだな。


「シロン、これはたぬきだよ。たーぬーき!」

「たぬ?」

「せいかーい。よくできたね!」


 イマ先生はもう何も言わなくなったようだ。


 無言の姿勢を貫いている。


 楽しいお話という名の教育兼情報収取をした後。


 判明したのはシロンの家族だった。


 シロンにはお母さんとお友達がいるようだ。


「毒姫」という名前の母親と、黒カラスの「ウィズ」というお友達。


 毒姫って、それ名前なのか?


 しかも黒カラスって、カラスはたいてい黒いんじゃ?


 まあ、異世界だし白い奴がいてもおかしくはないか。

 アルビノ個体ってやつも元の世界にはいたし。


 何とか会わせてあげたいな。


 けど。


 生憎と俺はこの施設の中では、どうやらありふれた身分らしいから。

 それは、当分先になりそうだ。


 はぁ、そろそろ誤魔化しがきかなくなってくるぞ。


 これからどうするか、考えないといけないな。


 このままこの研究施設の人間として働くか、何とか逃げ出して別の場所でやってくか。


 生憎にも、俺には家族とかいないから、誰かに迷惑かけるなんてことないしな。


 イマ先生?


 まあ、別に迷惑かけても良いんじゃないかな。


 先生、めっちゃ優秀らしいから、俺が逃げたくらいで処分される事はないだろうし。


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