ハードな異世界転生 バケモノ揃いの世界を生き抜け

柳澤

プロローグ

「えー、この度はご愁傷さまだったね」

「・・・は?」


 目の前で、真っ白な人型のなにかが動いている。

 誰だこいつは。ここは、どこだ? 俺は何してた? 駄目だ、思い出せない。


「君、死んだから。特例で10歳くらいに肉体を戻して転生させてあげる。喜びなよ、第二の人生を」

「ちょちょちょ、待ってくれ! し、死んだって?」

「ああ、君は不慮の事故で死んだんだよ、タナカ カズヒロ君」

「ふ、ふざけんな! そんな事言われても・・・」


 掴みかかろうとして、異常に気がついた。腕がない。足もない。いや、視界が動かせない。俺の顔はどんな顔だった?


「今、君魂だけだから。あと、嫌なら輪廻に戻すから君の存在は跡形も無くなるだけだよ。拒否権はあってないようなものだ。こんな美味しい話断るなんて、普通ありえないよ」

「んなこと言われたって整理が出来ねえよ・・・」

「じゃあ黙って聞いてりゃいいさ。説明してもらえるだけ親切だと思った方がいい。全く、最近の人間は傲慢だよね」


 怖い。何が起きてる? 俺は一体どうなっちまうんだ。


「いいかい、君は今から転生する。10歳くらいの肉体でだ。転生先の世界は剣に魔術に魔物にと、ファンタジー盛りだくさんの世界だよ。楽しそうだろう?」

「そこで、俺は、何をすればいいんだ?」

「魔王を倒せー! とか、言われると思ったかい? ただ強くなるんだ。それだけでいい。ノルマとか、目標とかは無いよ。ただ強くなれ。それだけさ」


 人型がずいっと顔を近付かせてくる。顔はないが、雰囲気で笑っているのが分かる。

 強くなるだけ? どういう事だ? 意味が分からない。


「なにか意味があるのか? それって」

「いや、無いよ。ただ第二の人生を楽しんで欲しいだけさ!」


 めちゃくちゃ怪しい。絶対に裏がある。

 だが・・・断れない。断ったって死ぬだけなら、いいさ。話に乗ってやる。


「どうせはいとしか言えないんだろ」

「話が早くて助かるよ! じゃあ君は今日からカズヒロ・タナカだ!」

「外国かよ」

「聞き分けがいいと助かるよ。前のは騒がしかったからね」

「前の?」


 俺以外にもこんなことになった奴がいるのか?

 人型は、おどけたように口を塞ぐ仕草をした。失言したのか、わざと俺に疑問を抱かせたのかは分からない。


「おっと、忘れて。さて、君は話が早かったから、一つ二つ、質問に答えてあげよう。なにかあるかい?」


 ふざけんな。質問も何も、今の状況だってよく分かってないんだぞ。

 よくある異世界転生ってやつか。いや、よくあるっても創作の中だけだと思ってた。


「・・・チートとか、なんか特殊な力がもらえたりするのか?」

「ないよそんなの。ああ、まあ、君の頑張りに応じたボーナスくらいはあるよ」

「レベルとか、そういうのは?」

「ないない! ゲームじゃないんだから」

「神様とかいるか?」


 ピタッと人型の動きが止まった。


「それ、僕に聞くの? なんとなく察したりできない?」

「不器用でな」

「・・・ノーコメント」

「じゃあ、最後だ。いつかテメーをぶちのめせるか?」

「ふっ、あっはっはっは! すごいね君!」


 腹を抱えてゲラゲラと笑い出した。何言ってるんだコイツは、って動きで言われてるみたいだ。

 俺は大真面目だ。こんな訳わかんねー状況にされて、ムカつかねーやつは居ねえだろ。


「めちゃくちゃにうーんと頑張れば、一発ぐらい殴れるかもね!」

「ああ、そうかよ。じゃあ、俺はテメーをぶん殴るために強くなってやるよ」

「楽しみにしとくよ!」


 そんなことありえない、と言外に伝えられたのがはっきり分かった。いつか、俺の目の前で地に伏せさせて思いっきりバカにしてやる。

 覚えてろこの野郎。俺はお前のオモチャになるつもりはねえぞ。


「じゃあもういいかな? 頑張って強くなりなよ」

「ああ、またな」


 目の前が暗くなっていく。まだ頭の中はぐるぐると回っている。だが1つだけはっきりと決めた。

 コイツをぶん殴る。やってやる。

 意識が、深く沈んでいった。

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