第29話 アイディスマイル☆

 階段の上から傍観する景色。

 男に立ち塞がるリンクウ。その間にナルミはホシノに連れられて逃げていく。

 思わず足が止まってしまった。

 蚊帳の外の現実に頭が追いつかない。

 階段を降りきった頃にはもう男もリンクウもいなかった。


 騒がしい訳じゃないのに、喧騒の雰囲気に酔いそうになる。気分が悪い。

 何も無い渡り廊下。

 本当に何にもない。

 隙間風に当たっている。

 気持ち悪い酔いがさめていく。

 風が強くなっていく。目の前には白い羽で埋め尽くされていく。

「ここにいたのか。探したよ」

「何かようか?」

「一つ提案があるんだ」

「提案?」

「今週の休日に、僕らで遊びに行かないかい。ここにきてまだまだ日も浅い。そこで僕からオススメの場所を紹介したいんだ」

 何とも言えないぐらいの笑顔が美しい。白い景色が余計に輝かせている。

 俺はうんともすんとも言う気力が湧かなかった。。

 俺はいつの間にか首を縦に振っていたみたいだ。

 白い羽の霧が止んだ。

 再び歩き始める。

 ふと、思いがけない言葉が外へと落ちてしまった。「俺、情けねぇな──」

 俺の付き人を助けるのは俺なのに。すぐに助けにいけなかった。ホシノに助けられている時に、俺は動けなかった。挙句の果てに呆然としていて、いつしか事は全て終わっていた。

 本当に情けないな。

 今の俺は中途半端だ。

 後悔ばかりが積もっていく。


 部屋に戻った。

 ナルミは既に戻っていた。

「おかえりなさいませ」

 今の俺に、この時に、できることはきっと何も無い。俺は単なる傍観者にしか過ぎない。

「ナルミ。話がある──」

「何ですか?」

「今週の休日にホシノとともに遊びに行くことになった。それと──」

 彼女は既に分かったように頷いていたが、すぐに「それと?」と首を傾げた。

「これからこれを御守りとして持っていて欲しい」

 そう言って、俺は一枚の羽を渡した。

「何ですか。これは……」

「御守りだ。もし身の危険があればその羽をビリビリに破れ。俺が絶対に助ける」

 羽一枚に対する精密度。その一枚に懇親を捧げる。

 距離が離れすぎていると意味は持たないが、多少離れているぐらいならすぐに気づける。気づいたら俺はすぐに飛んでいく。もう情けない自分ではいられない。

 渡したということが俺へのケジメだった。

「聞いたんですか。ホシノさんから」

「さあ」

 ホシノからは何にも聞いていない。ただ、俺は上から見ていただけ。だからこそ、俺は言葉を濁すことにしていた。

「ただ、もう怪我一つさせねぇ。何があっても守り抜く。もう不甲斐ない俺はやめるんだ」

 心の底から感じる熱い意思。

 羽が彼女の懐へと仕舞われた。

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