第26話 アイネクライネ☆

 今日は執事のナルミは付き人独自の勉強会へと行っている。それは一日かかるみたいだ。

 誰もいない間取り。

 気晴らしに館内でも回ることにした。

 ひっそりとした建物の中。靴の音だけが響いていく。静かさを楽しんでいく。

 三階から外テラスへと出る。

 白を基調としたテラスに一人立ち、支えの板に肘をついた。

 爽やかな風を受けていく。

 未だに迷走中な俺には神々しいような風だ。


「アサヒじゃないか。奇遇だな。丁度会いたかった所だ」


 熱血の声が風に揺れる。

 彼はディスクを持ちながら近づいてきた。


「どうしたんですか?」

「アサヒに勧めたいスポーツがあってな。一緒にやってみないか?」

 そうやって彼はディスクを離した。

 ディスクは風に吹かれて飛んでいく。

「''ドッザー''というこの学園ではポピュラースポーツだ」

 ディスクは風をきって吹く方向とは逆の方へと進んだ。それをヨネヅは綺麗にキャッチした。

「どんなスポーツなんですか?」

「ドッザーっていうのは、ディスクを相手に当てれば得点、当てられれば相手の得点となるスポーツだ」


 そのスポーツは天使二名、付き人二名で行う。つまり二ペアで一チームとなる。

 フィールドは主に四つに分かれる。長方形のコートを半分にして内野コート、自陣と敵陣。内野の周りを囲むようにある外野。自陣の周りの外野は敵陣。逆は自陣となる。

 天使は内野、付き人は外野で戦う。ディスクを飛ばして内野の天使に当てるゲーム。外野に当たっても点数にはならない。


「最近組んでたペアとコンビ解消してな。ちょうど誰かと組みたかったんだよな」


 ハイスポーツ。子どもにはできない難しいスポーツ。だからこそ、俺らには馴染みがなかった。それでも思い返せばよく耳にしていたような気がする。


「すぐには決められないだろう。また、後日改めて返事を聞きに行くよ」


 騒がしい風が止んだ。

 いつしか爽やかな風に変わっていた。


 またもや、館内を周る。

 日も落ちていく。

 人の少ない道なり。三階から下の階を見下ろした。そこにたまたまナルミがいた。

 迎えに行こうか。

 俺はゆっくりと階段を降り始めた。

 ナルミに誰かが近づく。

 背高の男だった。

 邪険そうな雰囲気が漂う。強襲かナンパか、いずれにしろナルミはピンチなのには変わりないだろう。覚束無い足取りが俺の足を動かした。

 急いで階段を落ちていく。

 が、俺の足は途中で止まった。

 そこに一人の天使が割って入った。

 その天使によって助けられたナルミはその天使とともに帰路をともにする。

 その天使は間違えなく──ホシノだった。

 俺の足はいつの間にか動かなくなっていた。

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