第17話 プライド革命★

 天使の学園の初日は波乱万丈な一日だった。

 私の仕える天使様と上手くいかなかった。その亀裂は埋まることのないまま夜となり、ホシノに踊りを誘われ、肝試しでは突然恨まれ死にかける。その後、天使様との亀裂を埋めた。本当に濃い一日だったと思う。

 目覚めるとそこはベッドの上だった。

 横ではアサヒがベッドから立ち上がっていた。

 彼は初日の亀裂に決別するため手を差し伸べた。私もまた手を出し握手を交わした。

「終わったー?」

 どこか無気力そうな声。

 保健室の担当する天使が眠そうな声で尋ねている。と思いきや、すぐに眠ってしまった。

 帰っていいのか分からなかった。けれども、結局帰ることにした。


 これから私達の住まうことになる部屋はシンプルでとても住み心地の良さそうなオーラが漂っている。まさにシンプルイズベストだ。

 サクリの施設ではこんなにも良い場所なんか用意されなかった。大人数での布団が当然と思ってた私には、たった二人で各自部屋のあるこの室はとても格式高いものだった。

 アサヒはなんでもこなす天才肌。執事である私よりも執事に向いていると思わざるをえない。

 提供された食事をテーブルへと持っていく。

 それでも私は執事だ。執事としての対応を心がける。言葉遣いもしっかりしなきゃ。

 テーブルに備えられた一人分の食事。その近くで私は直立し頭を下げた。アサヒはフォークで作られた目玉焼きの赤みがかった黄身を中から溢れ出した。

「なあ、ナルミ……」

「何でしょうか」

「この部屋じゃ執事っぽくしなくていい。ノナミとかヨネヅとか見てても付き人との関わり方は自由だと思うんだ。それぞれ侍女や召使いの立場だけど執事も変わらないと思う」

 静けさが漂う部屋の中。

 仮面を被って余計に静かにさせていた。

「だからさ、俺は俺らしく生きるんだから。ナルミはナルミらしく過ごして欲しいんだ。これから長いこと共に過ごす仲だ。自由でいいんじゃないか」

 アサヒは完璧というプライドを捨てた。

 今度は私が執事というプライドを捨てる番だ。

「分かりました。じゃあ、私も一緒に食べていいですか?」

「勿論だ。一緒に食べた方が美味しいしな」

 自分用の食事を用意した。

 執事用の食事は天使様のものとは違って、簡単に作られたおにぎりなどの軽食のみだった。

 美味しさ的にはアサヒと比べると断然クオリティは下がる。決して美味しいとは言えないものだろう。

 けども、その味は噛み締める程に美味しくなっていく。

「酷いな。執事だとしてもそこまで価値に差がある食事とはな……」

 美味しさで小さく涙が溢れ出てきた。

 これから一人で食べていくんだろうな。と考えて塞ぎ込んでいた心が解放された途端に、涙袋も弛んでしまったみたいだ。

 誰かと一緒に食べるってこんなにも美味しいんだ。今度は今まで出会ったみんなと一緒に食べれたらいいな、と思った。

「急に……どうしたんだ?」

「美味しいな、って思ってね」

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