2日目(月)

第3話 ナットといいんちょ

「おは」


 教室について後ろに座る悪友ナット、柏原直斗かしはらなおとに挨拶する。


「おは。昨日、見かけなかったけど、キャラクリだけで終わったの?」


「いや、ちゃんとインしたぞ」


「キャラ名プリーズ」


「ゆうた」


「殺すぞ」


 はぐらかしたところでチャイムが鳴り、担任が現れたので続きは休憩時間に持ち越しになった。


 ………

 ……

 …


「で、キャラ名何なんだよ」


「いつもと同じショウだよ」


「マジか。探しても見つからなかったんだよな……」


 あの無人島はプレイヤー検索の対象範囲外なのか。良いことを聞いた。

 あとでバレるとうるさいし、ナットには本当のことを話しておくか。


「いや、実はな……」


 かくかくしかじか……


「マジか。あの無人島発見とかいうワールドアナウンスお前か」


「マジ。それ俺」


「うーん、俺もキャラ作り直すか?」


 ナットが真剣に悩みはじめたので慌てて止める。

 てか、無人島発見はワールドアナウンスで流れてたのか。まあいいけど。


「やめとけ。つか、来んな。俺はIROでぼっちを楽しむんだ」


「ひねくれてんな。まあいいや。そのうち海にだって出れるから押しかけてやるからな」


 頑張れ。あの地図を見た限り、俺の島にたどり着くまでにサ終するから。


「伊勢君、ちょっといい?」


 ナットとだべっているところに急に声をかけられた。相手はクラス委員長の鹿島さん。


「ん、いいんちょ、どうしたの?」


「あなた、今日日直でしょ。おしゃべりしてたけど、ちゃんと授業報告出したの?」


「うわ、マジか。ごめんごめん」


 日直だと授業ごとにその内容を、担任に報告しないとなんだけど、すっかり忘れてた。

 どうせ学校で把握してるんだから、いちいち生徒を経由させるなよって思うんだけど、しきたり的なものだからしょうがない。


「あれ? 終わってる」


 っていうか、もう一人の日直、出雲さんがやってくれたっぽい。

 ちゃんと謝っとかないとと思ってクラスを見回すが姿が見えない。

 うーん、まあ、次の休憩時間に謝るか……


 ………

 ……

 …


 2限の授業が終わって速攻ダッシュ。一番前の席の出雲さんと対面できた。


「さっきはごめん。2限の授業報告は俺がやるから。交互でいいよね?」


 ぼさぼさの髪は梳かしてないのかな。気になる……


「ぁ、はぃ……」


 消え入るような声でそう答えた出雲さんは、そのままふいっとクラスを出ていく。


「あれ? 出雲さんは?」


「ああ、俺が授業報告出すって言ったら、どっか行ったけど?」


 通りがかったいいんちょから聞かれたので、あったことをそのまま言う。

 それを聞いたいいんちょはちょっと困ったような顔をした。


「なあ。出雲さん、なんかあったの?」


「なんかって何よ?」


「いや、ほら、イジメとかさ……」


「はあ? 私が委員長してるのにそんなことあるわけないでしょ! 彼女、まだクラスに馴染めてないから気になってるだけよ……」


 さすがいいんちょ。クラスの掌握に余念がない……


「とりあえず、いいんちょが友達になればいいじゃん」


「そう思ってるんだけど、なかなかタイミングが合わなくて。話しかけようと思ったらいないんだもの」


「へー、まあ、そのうち話せるでしょ」


 そう返すと、めちゃくちゃ大きなため息をつかれた。

 え、俺、なんか間違えたこと言ったっけ?


 ………

 ……

 …


「お前、今日の昼飯どうすんの?」


 4限が終わり昼休みに入った瞬間、ナットが聞いてくる。

 どうすると聞いてくると言うことは、ナットも未定なんだろう。


「んー、購買でいいんじゃね」


「おけ、行こうぜ」


「待て待て、俺は日直だから先行け」


 そう言ってナットを追い払う。

 3限の授業報告は出雲さんにやってもらったので、4限は俺の番になる。

 出雲さんの方を見て大丈夫とうなずくと、出雲さんはそれを見て安心したのか教室を出ていった。


 さっさと授業報告を提出して購買へと向かうと、そこには既に人だかりが出来ている。

 お、前の方にナットいるじゃん。まあ、ここから頼むのはルール違反だしやんないけど。

 この学校の購買は人気商品は売り切れるが、全商品完売になることはないのでまったりと待っていれば大丈夫だ。俺に好き嫌いはない。あんまり。


 前方の人集りがはけて、さて何を頼もうかなと見回すと、出雲さんがパンを持ってアウアウしているのが目に留まった。

 声が小さくて売り子のおばちゃんに気付いてもらえてないのか……


「出雲さん、これ買うの?」


「ぇ、ぁ、はぃ……」


「おばちゃん! この子、これ!」


「ああ、はいよ。ごめんね、気がつかなくて」


 無事に買えた出雲さんは、何度も何度も頭を下げてから去っていった。

 さて、俺は何にしようかな……


***


「ただま」


 その声に二階から妹の美姫が階段を駆け下りてくる。


「兄上よ。お腹が空いたのだ!」


 夕飯を作るのは俺の仕事だ。いや、仕事ってなんだ。

 うちの大黒柱である母さんの単身赴任に、専業主夫の親父がついていってしまったせいであって……深く考えるのはやめよう。


「それは了解なんだけどさ。……お前、来年受験じゃなかったっけ?」


「いかにも!」


 中二は過ぎたはずなので、中二病は卒業するべきなんじゃないかと、兄は愚考するわけだが……


「まあいいや。晩飯何がいいの?」


「カレーを所望する! 具材は購入済みだ!」


「はいはい。妹君のおっしゃるままに……」


 台所に行くと根菜各種と鳥もも肉が置いてあった。チキンカレーを御所望か、めんどくせえ……


 ………

 ……

 …


「お前、洗い物やるか風呂掃除するかどっちかはやれよ」


「心得た! 風呂掃除は任されよ!」


 おかしい。この愚妹が中学の全国トップの天才とは思えない。

 いや、やはり天才となんとかは紙一重という奴なのか……


「ところで兄上はIROを始めたのか?」


「ん、まー、始めたけど」


「我もプレイしたいのだが?」


「お前、限定オープンに当選してんの?」


 今、IROをプレイできるのはクローズドベータ組1万人と、限定オープンに当選した5万人。俺はそれに当選してるからプレイできてるんだけど……


「無論、当選しておるぞ」


「だよなあ」


 こいつのLUK=幸運値の高さからしたら当然だよな。


「なら、やればいいじゃん。お前、多少遊んでてもいい高校行けるだろ」


「高校は兄上と同じ高校にするのだが?」


「おい、待て。お前、美杜大附属は余裕すぎだろ? それ親父が納得してんの?」


「もちろん。言い負かしたが?」


 そうだった。親父はこいつにくっそ甘いし、弁論で勝てるはずもない。


「まあいいよ。俺のキャラ見つけたら一緒に遊んでやるから」


「クックック、言質とったどー!」


 いいから、はよ食い終われ……

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