第6話 ポーションの監修をしてみよう


 さっそく今日から本格的な仕事だ。


 僕は早めにギルドへ行った。


「ヒナタくん、ちょっといいですか?」


「はい」


 ライラさんは真剣な顔でやってきた。


 なんだろう。


「こんどうちで、オリジナルブランドのポーションを作りたいんですが……その監修をお願いできませんか?」


「ポーションの監修……ですか」


 入ったばかりの僕に、責任重大な仕事だな。


 期待してくれてるってことなのかな。


「もちろん、僕でいいんでしたら……なんでもやりますよ?」


「よかった。じゃあお願いしますね」


 僕はライラさんから書類を受け取る。


 細かい説明なんかが書かれている。


 えーっと……ふむふむ。


「素材の予算はこれくらいで……このくらいの本数を用意したいんですけど……。大丈夫そうですか?」


「え!? これが予算ですか!?」


「あ、やっぱり……足りないですか?」


「違います違います! 逆ですよ。こんなに予算をいただいて、いいんですか!?」


「ええもちろん。ポーションは主力商品になりえる、重要なアイテムですから。それに、ヒナタくんの作るポーションに、私も興味があります」


「そうですか……。まあこれだけ予算をもらえれば、きっとご期待にそえると思いますよ!」


 僕は一人、倉庫に入る。


 オリジナルのポーションかぁ……。


 やっぱり普通のものを作ってもなぁ。


 なにか差別化が必要だね。


 普通の市販のポーションとは違うものができればいいんだけど。


 医術ギルドにいたときは、麻酔ポーションや解毒ポーション……。


 それから、魔法手術用の補助ポーションばっかりだったからなぁ。


 パッケージ品をデザインするのは、僕もこれが初めてだ。


「まずはベースとなる、普通のポーションから作ろうか」


 薬草(D)とスライムコア(C)を用意する。


 もちろん素材活性マテリアルブーストで活性化させた素材だ。


 予算や市場の需要を考えると、これが適切な状態だろうね。



 ――【薬品調合ポーションクリエイト



 下級回復ポーション(C)の完成だ。


 これをベースにしていくよ。


 次に、クモの目(C)と魔女ニンジン(B)を用意。



 ――【薬品調合ポーションクリエイト



 完成したのは、下級魔力ポーション(B)だ。


 飲むと魔力を回復してくれる。


 さあ、下級回復ポーション(C)と下級魔力ポーション(B)ができたね。


 これを混ぜてみよう。


「上手くいくといいけど……」


 ポーション同士を混ぜるのは、スキルを使わない。


 と、いうより僕のスキルではできないだけだけど……。


 ポーション調合は、スキルで時短もできるし、手作業でもできる。


 だからまあ……。


 そのせいで僕は。


 だれでも混ぜれる!


 ……って言われて、解雇されたわけだけど……。


「よし、これくらいかな……?」


 僕は火にかけてたポーションを、持ち上げる。


 この火加減が難しい。


 あまりやりすぎると、焦げてしまって台無しだ。


 でも実は、こういうのは得意なんだよね、僕。


 妹のために異国から取り寄せた、古今東西ここんとうざいのいろんなお茶や薬品をせんじてきたから。


 まあどれもそれほど効果はなかったんだけれど……。


 というわけで――


 ――『下級回復ポーション(B)』の完成だ!


 僕は一人ガッツポーズを決める。


 まあこれだけだと、まだ物足りないんだけど。


「へぇ……上手なもんですねぇ」


「うゎあ! っと……」


 振り向くと、ライラさんがいた。


 見られていたなんて、恥ずかしい。


「い、いつからいたんですか!?」


「うふふ、秘密です」


「どうかしたんですか?」


「いえ、ただヒナタくんがどうしてるかなって、思っただけですよ」


 ライラさんはそれだけ言うと、また忙しそうに消えていった。


 なんだったんだ……。


 でも本当にそれだけなのかな?


 まさかな……。


 ライラさんは忙しんだし、わざわざ僕を気にかけたりはしないだろう。


 顔を見に来ただけというのは方便で……。


 本当はちゃんと仕事してるのか見に来たに違いない!


 あくまで僕は新人だからね。


 頑張らないと!


「そういえば……、ポーションって、冒険者の人たちが買うんだよね……」


 僕はあることに気づく。


 いままでは医術ギルドにいたせいで、あたりまえのことに気づいてなかった。


 市販のポーションを使うのは、医師ではなく、冒険者・・・なんだ。


「冒険者ってことは、戦いの最中にも、飲んだりするわけだ」


 僕の脳にアイデアが降り注ぐ!


「じゃあ、飲みやすいほうがいいよな……」


 僕は、その辺にあった『スポンジプラム』の箱を開ける。


 スポンジのように水を吸いやすい、ふしぎな果物だ。


「これを、ちょうどいい大きさに切って……と」


 切り分けたスポンジプラムに、さっきのポーションをしみこませる。


 これなら、でかいポーションの入れ物を持ち歩かなくてもいい。


 片手で好きな時に取り出して、おやつ感覚で食べられるだろう。


「これはけっこう……いいんじゃないか……?」


 戦闘中の栄養補給もできて、おいしいなんて!


 下級のポーションには、痛み止めの効果や止血作用もあるから、バカ売れ間違いなしだ!


「さっそく誰かに試食してもらおう」


 僕は手ごろな人を探した。


 あ、ちょうど重い荷物を運んでいる、お兄さんがいるね。


 商品搬入はんにゅうのかかりの人だ。


 肉体労働で疲れているはずだから、きっと喜んでもらえるだろう。


「あのーもしよろければ、食べてみてください。新しいポーションです」


 僕は一つ手渡す。


「お、なんだこれ、美味そうじゃん! ……って新種のポーションだって!? どう見ても、ポーションなんかには見えないけどなぁ……?」


 ――パク。


「うおおおおお!? なんか身体の痛みがひいていくぞ!? さっきまで筋肉痛でつらかったのに……!」


 よし!


 ちゃんとポーションとしても機能しているね。


「それに味もうまい! ほんのりビターで、それがスポンジ食感と合わさって、何とも言えないハーモニーを作り出している!!!!」


 お兄さんが大きな声で叫ぶ!


「おいなんか美味そうだな? 俺にもくれよ!」


「いいですよ」


「あ、ずるい! 俺も俺も!」


「はいどうぞ!」


 周りにいた他の人たちも、作業をとめてやってくる。


 これは売り上げも期待できそうだね!


「おい、これはいつから買えるんだ!? 仕事中にこれがあれば、疲れもふっとぶぜ!?」


「ああ、売りだしたらすぐに教えてくれよな!」


「絶対に買うぜ!」


 みなさんいい人だ。


 僕は彼らの名前をきいて、またお知らせすると約束をした。


 さっそくライラさんにも見てもらおう。


「え……これをあの予算でできるのですか?」


「なにか問題があったでしょうか……?」


 ライラさんが困惑している。


 僕は恐る恐るきいた。


「いや違う、逆です! こんなに安くていいのですか? だって、ポーションっていったら……そこそこ値が張るものですよ?」


「まあそこは僕のスキルで浮いた分もありますし……。それに、スポンジプラムにちょっとずつしみ込ませてあるので、それほどポーションの成分は多くありません」


「だとしても、コレは異常ですよ!? 革命的なお値段で提供できてしまうじゃないですか!」


「まさにそこがポイントです! 冒険者だけでなく、肉体労働者のためのオヤツにもなるでしょうね」


「ちょっと待ってください。ポーションを果実にしみ込ませてあるのでしたよね? それでしたら、ポーションの効果が薄くなったりしないのですか?」


「スポンジプラムにはもともと、滋養強壮じようきょうそう効果もあるので、そこは問題になりません。それに、しみ込んだポーションを、ゆっくり噛みながら接種せっしゅすることになるので、十分な効果が期待できますよ!」


「へぇ、そうなんですね! ヒナタくんと話すと、勉強になります」


「いえいえ、そんなことないですよ」


「私も食べてみていいですか?」


「ええ、ぜひどうぞ」


「うん、おいっしいですねぇ!」


「……では……これで大丈夫ですか?」


「もちろんです! さっそく売り出しましょう」


「よかったぁ」





 そしてのちに莫大な利益をもたらすことになるそのポーションは――


 ――ギルド名にちなんで『世界樹ユグドラシルの果実』と名付けられた。


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