第2話 見知らぬ女性を助ける


 追放された翌日、僕は仕事を探して、とりあえず街に出てきた。


 やっぱりポーション師として働くなら、薬品を売っているお店とかかな?


 医術ギルドはもうごめんだ。


 ギルド長のお父さんの頼みだから続けてたけど、今度はポーションの研究もできる仕事がいいな。


「むむむ」


 お店の前で、商品の薬草類とにらめっこしている女性がいるね。


 綺麗な人だ……。


 なにか困っているのかな?


「どうしたんですか?」


「……?」


 僕が声をかけると、女の人はびっくりした顔で振り向いた。


 正面から見ると、本当に綺麗な人だね。


 僕もびっくりした。


「ああ、素材アイテムの仕入れに来たんですけど……あまり詳しくなくて……」


「それでしたら、僕が選びましょうか?」


「え、いいんですか?」


「実はポーション師なんですけど……そんな僕でよければ!」


「ありがとうございます! ぜひお願いします」


「……っち」


 彼女がそう言った瞬間、店主のおじさんが舌打ちをした気がするんだけど。


 僕の気のせいかな……?


 お店にはいろんな種類の薬草が並んでいて、中には高すぎる値段のものもあった。


 こりゃあ店主はとんだ狸オヤジだな……。


 素人じゃあ悩みもするわけだ。


 ――【素材マテリアル鑑定《アプリ―ザル》】


 薬草(F)10G……これはだめだ。


 薬草(B)30G……お! これは使える。


 僕はスキルを使って、値段の割に質の高いものを選んだよ。


 彼女に手渡すと、喜んでくれたみたいだね。


「すごいですね! 素材マテリアル鑑定《アプリ―ザル》が使えるんですか!」


「ええまあ、その代わり、戦闘スキルはぜんぜんですけどね」


「鑑定系のスキルを持ってるだけですごい才能ですよ! うらやましいくらいです」


「いやあ、まあ……それでもクビになっちゃったんですけどねぇ……アハハ」



「え? だったら、うちで働きませんか……?」



「へ?」


 僕は一瞬、彼女が何を言ったのかわからなかった。


 もしかして僕、めちゃめちゃラッキーなんじゃないかな?


「実は私、新しくできた商業ギルドを任されているんですが、正直人手不足でして……」


「いいんですか!? 僕、ただのポーション師ですけど……」


「ええ、あなたさえよければ!」


 うーん、すぐにでも飛びつきたい話だけれど……。


 商業ギルドかぁ。


 あまり詳しくはないけど、僕に向いているのかな?


「たしかに、僕には仕事が必要です。でも妹の病気を治すために、ポーションの研究もする必要があるんです……」


「それならちょうどいいですよ! 商業ギルドにはいろんな素材アイテムが入ってくるから、研究するのにも向いてますよ!」


 こうして、僕は彼女――ライラ・レオンハートさんがギルド長を務める商業ギルド【世界樹ユグドラシル】で働くことになった!





「それにしても、その若さでギルド長とは……すごいですね」


 僕は改めて、ライラさんをすごいと思う。


 それに、この人には感謝をしてもしきれない。


 こんなにすぐに仕事が見つかるなんてね。


「いえいえ、私もまだわからないことだらけで……。荷が重いですよ……」


 僕とライラさんは、雑談をしながら【世界樹ユグドラシル】へ向かう。


 ふと、ライラさんが持っている袋が気になった。


 さっき買ったのとは別の商品だ。


「ライラさん、それは?」


「え、これですか? これは……」


 彼女が袋を開けるとそこには、使いものにならないクズ素材が入っていた。


 素材鑑定のスキルを使わなくてもわかる。


 どれもこれも状態が(F)の粗悪品だ。


「いいように騙されて、買わされてしまったんですよね……。どうしましょうか、これ」


 ライラさんは笑っているけど、どこかやっぱり残念そうだ。


 なんとかしてあげたいな。


「僕に貸してください」


「え? こんなクズ素材を?」


 ――【素材活性マテリアルブースト


 僕がスキルを使うと、状態(F)の素材が……状態(D)に変化した!


「これで、なんとか使い物になりますかね?」


「ヒナタくん……」


「は、はい?」


「あなた……すごいわ……!」


「へ?」


 たしかに、自分でも便利なスキルだとは思うけど……。


 こんなふうに褒められたのは初めてだ。


「こんなスキル初めて見ましたよ……!?」


「いやまあ……一応、僕のユニークスキルなんですよ、コレ。逆に言えば、これくらいしか取り柄がないんですけどね……」


「これだけ……って、十分ですよ? コレ……。だって捨てるしかないような素材を、生まれ変わらせてしまうなんて……!」


 なんだかわからないけど、とりあえず役に立てたならよかったな。


 せっかくライラさんの厚意で雇ってもらったんだから、できるだけのことはしたい。

 


「ちょっとそこのポーション師、止まりなさい!」



 僕たちが歩いていると、後ろから急に声がした。


 聞き覚えがある女の子の声、のような気がするけど……誰だろうか。


 振り向くと……僕が追放された医術ギルドの、制服を着た女性がいた。


 顔は知っている。


 ギルド長のとりまきの一人だ。


 たしか名前は……レナさんだったかな?


「どなたですか?」


 ライラさんが訊く。


「ああ、前の職場の人ですよ」


 僕はめんどくさそうに答えた。


「なんのようですか? 僕は追放されたので、もう関わりはないはずですが」


「倉庫のカギをよこしなさい」


「はい? 倉庫のカギ?」


「あなた、カギを返さずに行ったでしょう……?」


 何をおかしなことを言っているんだ、この人は。


 僕は本気でわからない。


「とりあえずいっしょに来て。死にそうな患者がいるから、倉庫まで行ってたら間に合わない」


「はぁ、僕が行っても何もできないと思いますが。それに……僕の力はいらないんじゃなかったんですか? ポーションは自分で混ぜれるんでしょ?」


 僕はあえて挑発するように言ってやった。


「うるさい。いいから早く! 倉庫までポーションを取りに行ってたら間に合わない」


「……っち。わかりましたよ。死にそうな人がいるのなら仕方がないです」


 本当はもう二度とギルド長の顔なんて見たくもなかったけど、患者さんに罪はないからね。


 それに……ちょうど手元に、さっきライラさんと買った素材もあるわけだし。


「いいですか? ライラさん」


「もちろんいいですよ。気になるので私も行きます」


「すみません、巻き込んでしまって……」


「いえいえ、ヒナタくんはもう私の大切な仲間ですから。付き合いますよ」


 へ?


「つ……付き合う!?」


 思わず大きな声が出てしまった。


「え!? いやいや、そういう意味の付き合う、じゃありませんよ!」


 ライラさんは顔を赤らめて否定する。


「で、ですよねー! 僕、今わかってて動揺したところがあります……!」


 僕はあわててとりつくろう。


「ま、まあ……そういうことになっても……私は構いませんけど……ね……?」


 ライラさんは小声で言った。


「へ……?」


 僕の聞き間違いだろうか。


 きっとそうに決まってるよね!


 会ったばかりの女性が、そんなこと言うはずないし!


 僕もどうかしてるなぁ……。


 自分の願望が、幻聴として現れるなんて……!


「で、では……行きましょうか!」


「は、はい!」


 ライラさんはそう言って僕に笑顔を向けてくれる。


 本当にいい人だな。


 きっと……僕が前の職場に、嫌な思い出がある。


 というのを、表情から察して、ついて来てくれると行ってくれたんだろうな。


 気の利く、優しい女性だね。


 ――こうして、僕たちは医術ギルドへ向かうことになった。

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