第4話 『虹の蝶』入団試験!


 翌日、マキナとアリアは『虹の蝶』のギルドへ向かった。


 ――『虹の蝶』。

 王国内でも最大クラスの団員数を誇る、今急成長中の駆け出しギルドだ。その勢いは、マキナのいた『白銀の翼』にも負けず劣らずだと言われている。


「デカいな……」


 目の前に立ちはだかる巨大な石造りの建造物、『白銀の翼』のギルドよりずっと大きい。


「ほら早く入ろ〜」


 アリアはそんなマキナの背中をぐいぐい押し、そのまま入り口を通る。


 ギルドホールには剣士、魔導士など様々な冒険者が所狭しと賑わっていた。


 すごいな……全員ここの冒険者か。

 すると軽装の鎧を纏った赤い長髪の美少女が出迎えてくれた。年はマキナと同じくらいだ。


「おはよーベローネさん!」


「おはようアリア、おや……君がアリアの言っていた入団希望者かな?」


「マキナといいます」


「私はベローネ、ここの冒険者だ。本日の入団審査を担当しよう」


「よろしくお願いします」


「そうか、君が噂のマー兄か」


「?」


「アリアから色々と聞いている。自分には自慢の幼馴染がいると、『白銀の翼』の鍛冶師をやっていた事も知っているぞ。事あるごとにその話をするんだ、相当懐かれているようだな」


「やめてよ、それ私がここに入りたての頃じゃん!」


「昨日も私に言ってたじゃないか、「マー兄が『虹の蝶』に入ったらもっと楽しくなる!」と、あのニヤニヤ顔は忘れるほうが難しいぞ」


「なあああああ!!!!」


 アリアはえんえん言いながらポコポコとベローネを叩く。


「だがアリアの友人といっても入団審査はちゃんと行う必要がある、こっちにきてくれ」

 

 マキナはギルドの屋外訓練場に案内された。

 ギルドホールにも冒険者はたくさんいたが、ここもなかなか賑わっている。


「お、入団希望者かな?」


「今月入って8人目だぜ!」


「『虹の蝶』も有名になったねぇ〜」


 団員達の会話から察するに、入団希望者が多いというのは本当らしい。


 中央まで足を運ぶとベローネがパチンと指を鳴らす。

 すると、マキナの目の前に光る球体のオブジェが現れた。


「このオブジェに攻撃をしてもらおう。威力によって光の色が変わる仕組みだ、モンスターを倒せるほどの実力を持つか試させてもらう」


「攻撃方法は何でもいいんですか?」


「ああ何でもいいぞ、少なくとも人間の放つことの出来る攻撃で壊れることはない。1番自信のある攻撃をしてくれ」


「わかりました」


「ちなみに最大の色は赤だよ、頑張れマー兄!」


 一撃の威力ならあれがピカイチだ。


「鍛冶スキル【収納】」


 鍛冶スキル【収納】。

 調達した素材や武器、道具を異空間に保存出来るスキル。マキナは所持している数百もの武器の中から1つを取り出した。


 ――破壊棍ダモクレス。

 身の丈を超える、獅子の意匠が施された巨大な棍棒だ。


「ダモクレスだ!」


「でも確か巨人族用の武器だよな?」


「人間に振り回せんのか……? ましてやあんな細身の奴に?」


 いつの間にかマキナ達の周りには『虹の蝶』の団員達が集まっていた。

 そんな周りの反応を意にも介さずダモクレスを片手で握り、軽々持ち上げる。


「な!?!?」


「まじかよ!?!?」


「持ち上げたぁ!?!?」


「ほう……!」


「やっちゃえマー兄!」


 そして勢いを乗せ、ダモクレスを振り下ろした。


 ――バギイイイイイイイイン!!!!

 ダモクレスでの渾身の一振り、大地を震わせる轟音と共にオブジェは粉々に砕け散った。


 オブジェの破壊。 

 つまりマキナの一撃は人間が繰り出すことの出来る許容を超えたということだ。


「よし、今日も絶好調だ」


「うんうん、流石マー兄。私の目に狂いはないね」


 腕を組み、しきりに頷くアリア。

 マキナ以上に得意げな顔をしていた。

 唖然とする『虹の蝶』の団員、

 そして。


 ただ1人拳を震わせたベローネが提案をした。


「素晴らしい……次は私と手合わせ願おう!」


「ここでですか?」


「ああ、入団審査は文句なしの合格だ。だがこれだけの力を見せられて血が滾らないものはいない、私の我儘に付き合って貰うぞ」


 ベローネは腰のロングソードを抜き取ると、切先きっさきをマキナに向けた。


「ベローネがやる気だぞ!」


「壮麗のベローネの本気、マズいんじゃないのか……」


「『虹の蝶』内で1、2を争う実力者だぞ、一体どうなるんだ!?」


 壮麗のベローネ、マキナも名前だけは聞いたことがあった。

 その剣の腕前は見惚れる程の美しさ、その実力は王都騎士団にも引けを取らないと。

 二つ名で憶えていたので、最初に聞いたときは分からなかった。


「貴女があの壮麗のベローネだったんですね」


「周りが勝手に付けただけだ」


「それだけ皆実力を認めてるんですよ、羨ましいです」


「そう言ってくれるのは嬉しいな」


 マキナはダモクレス、ベローネはロングソードを握り睨み合う。


「――いざ!!」


 次の瞬間、

 ベローネはたった一歩でマキナとの距離を詰めた。

 ロングソードが眼前に迫る。

 それをダモクレスで受け止め、弾き返す。


「やはりできるな!」


 ベローネは空中で一回転すると、着地と同時に足を踏み込む。

 そして更にロングソードによる攻撃を繰り出す。


「はあああああ!!!!」


 正確な剣戟だ、大振りなダモクレスの隙を狙うように襲いかかる。

 この人、相当強いな。

 気を抜いたら腕を持っていかれそうだ。


「私の攻撃がここまで通らんとはな……! マキナ、君は何故ここまで強い!!」


「俺じゃなくて武器が強いんですよ」


「いや、剣を交えれば分かる。並大抵の鍛錬では身に付かない動きだ、武器の理解があるだけでここまでは出来ない」


 マキナのダモクレスとベローネのロングソードがかち合い、鍔迫り合いになる。


「どんな武器でもちゃんと使えるかどうかは確認する必要があります。なので強力なモンスターがいるエリアに潜って性能をチェックするのが日課だったんでその影響かもしれません。最近までは煉獄の庭で確かめてました」


「……高ランクのモンスターの蔓延るあの煉獄の庭に!?」


「あと素材調達で虚空の渓谷にも行きました、純度Sの金剛石が奥地にしかないから大変ですけどね」


「一体何が君をそうさせる、何が君をそこまで突き動かす!?」


 戦いの最中、ベローネは問いかける。


「冒険者は常に危険と隣り合わせ、命が脅かされる危機だっていつ訪れるか分からない。それを打開するために武器があります。ですから半端なことは出来ないししたくない。鍛冶師の、俺にとっての戦いなんです」


 マキナの真っ直ぐ、偽りない言葉をベローネは受け止める。


「なるほど、な」


「すみません、元鍛冶師が生意気なことを言いました」


「謝る必要はない」


 途端に剣戟が止む。

 ベローネは剣を納めると、右手を差し出した。


「私の負けだ、どうやら勝ち目はなさそうだ」


 その一言にギャラリーがどよめく。


「嘘だろ、ベローネが負けたのか!?」


 マキナも右手を出し、握手を交わす。

 とりあえず認めてもらえたようだ。


「その精神も、心意気も、君は立派な冒険者だ。ようこそ『虹の蝶』へ!」


「これからよろしくお願いします」


「ふふ、敬語じゃなくていい。見たところ私達は同い年くらいだ、遠慮する必要はない」


「わかった、これからよろしく頼む」


「明日から忙しくなるよ〜、私が冒険者の先輩としてビシバシ教えるからねマー兄!」


「アリア、彼は君よりもずっと強い。教えてもらうことの方が多いだろうな」


「ふええ!?」


 こうしてマキナは晴れて『虹の蝶』に入団する事ができたのだった。

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