神の仕事スイッチは社畜に絶大なるパワーを与える~社畜は英雄となり伝説となる。その偉業は勘違いから。彼が勘違い気づくのは何時のことだろう~

喰寝丸太

第1話 初出社

均浪きんろう つとむ38歳、独身だな」


 個人情報が洩れている由々しき事態。

 でも、口は挟まない。

 目の前の人物はお偉いさんの気配があるからだ。

 上司には絶対服従。

 これ社畜の掟。


「はい」


 今いる所は執務室のようです。

 しかし、いつの間にここに来たのでしょう。

 覚えがとんとありません。

 持ち物もありません。

 寝ている間に連れて来られたのに違いない。


「悲しい人生だな」


 相手が悲痛な顔をする。

 それほど悲しい人生だとは思っていません。

 父親は飲んだくれの無職でしたが。

 私は大学も出てますし。

 職を転々としてますが、すぐに次の職は見つかります。

 ただ、すぐに労働基準局が出てきて大抵、会社が潰れます。


「履歴書を読まれたのですか」

「そうだな。履歴を読んだ」

「というとあなたが新しい雇用主ですか」

「そうとも言えるな。これから行く場所は私が管理している場所だ」

「新参者ですが、よろしくお願いします。必ずお役に立ちます。残業、徹夜どんと来いです」


「何か能力の希望はあるかね」

「一つ質問はいいでしょうか」

「なんだ」

「新しい職場はタイムレコーダーがありますでしょうか」


 タイムレコーダーとは出勤を管理する機械で、タイムカードという用紙をいれると出勤と退社の時間が印字される。


「ないな」


 ガーン、まさかのフレックスタイム制。

 これだと生活のリズムが計れないし、残業時間が分からない。

 なによりスイッチが入らない。

 これは困った。


「なんとかなりませんか」

「うむ、ならんかと言ったら、なるな。私達も出勤は管理されておる」


 おー、管理職は時間給なんだな。

 下っ端はフレックスと。


「私達が使っている出勤の管理をそなたにも適用してやろう」

「ありがとうございます。管理職待遇ですね」

「付与する能力はタイムレコーダー。他の能力と特典は何も無いがよいか」

「ええ、新しい職場に案内して下さい。今日から働けます」


 おや、視界が変わった。

 酒場みたいな建物の前にいる。

 ほへぇー、いつの間にやらワープが実用化されたのだな。

 ウエスタンドアを押して建物に入る。

 新しい職場では最初の挨拶が大事。


「キンロウ・ツトムです。今日からお世話になります。よろしくお願いします」

「なんだ。挨拶して入って来た冒険者なんて初めて見たよ。よくみたらおっさんだ。気に入ったぜ。こっちに来い」


 貫禄がある男に手招きしてます。

 私より若そうですが、腕っぷしは凄そうです。

 新しい職場は肉体労働ですか。

 これは骨が折れそうです。

 ですが、残業すれば問題ないはず。

 男に近づき会釈します。


「仕事の手順を教えて頂けるのですね」

「何だ。この歳で新人かよ。まあ良い。教えてやる。まずはカウンターで冒険者に加入だ。次に依頼掲示板で仕事を選ぶ。依頼書をカウンターに持って行くと依頼の始まりだ。後は仕事をこなすだけだ。そして仕事の報告。分からない事はカウンターのねえちゃんに聞けばいい」

「ご親切にどうも」

「良いって事よ。俺はガルダ。困った事があれば相談に乗ってやるぜ。金次第だがな。ガハハハッ」

「では、失礼します」


 この建物は銀行みたいなカウンターと受付嬢。

 そして、食堂が隣接されている。

 仕事に疲れたら食堂で休むのだな。

 ミーティングなども食堂で行うのかも。


 カウンターに行き声を掛ける。


「お嬢さん、加入したいので手続きをして下さい」

「この歳で新人なんて、変わっているわね。でも規約違反じゃないし、まあいいでしょう。これに記入して」


 記入用紙を出されたので見てみます。

 ホワッツ、知らない字なのに読める。

 睡眠学習ですかね。

 そう言えば皆さん外国人のようです。

 ワープといい睡眠学習といい、技術の進歩は早いものです。

 そうだ、タイムカード押さないと。


 そう思ったらタイムカードが手に現れました。

 おー、便利ですね。

 空気中にナノマシンが散布されているとみた。

 ここは現代技術の粋を集めた未来都市に違いありません。


 おっさんが技術の進歩に取り残される気持ちが分かります。

 タイムレコーダーで記録と思ったらタイムカードに出勤時間が押されました。

 初出勤です。


「仕事スイッチ入りましたぁ。みなぎるぅ」


 気分の持ちようでこんなに体調に変化があるとは。

 受付嬢が変態を見る目で私を見ます。

 こういう視線には慣れっこです。


 それより、用紙に早く記入しないと、仕事が遅い奴だと思われます。

 手早く現地語で記入して提出。


「いいみたいね。それじゃ、魔力を登録するから」


 指紋認証の機械が出てきました。

 魔力というから指紋ではなくオーラのような物かも知れません。

 テレビ番組でオーラを撮影しているのを見ました。

 あれの親戚の技術でしょう。

 機械に手を置くとタグみたいな物が出てきました。


「Fランクからよ。頑張って」


 そう言われてタグを渡されました。

 社員証のような物でしょうか。

 首から掛けてみます。

 これで私も社員です。


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