姫君降臨

 おひめさまは目覚めざま時計どけいをあえてませんでしたが、じられた遮光しゃこうカーテンとレースカーテンの隙間すきまからわずかにえるそらは、もうすっかりとくらくなっていました。


 いろいろと納得なっとくがいかないおひめさまは、とうとうはらててしまい、トイレやお風呂ふろ以外いがい目的もくてき自室じしつのドアをけることにしました。



 ガチャ……漫画マンガみたいな擬音ぎおんみみとどきます。自宅じたくでしたが、おひめさまは用心深ようじんぶか廊下ろうか見渡みわたすと、ドアをしずかにうしじました。それはまるで、だれかにわれている逃亡者とうぼうしゃのようです。


 2階にかい薄暗うすぐら廊下ろうかは、不気味ぶきみなほどしずかでした。したからひと気配けはいやテレビのおとかんじられません。やっぱり、おかあさんは、ものかなにかの用事ようじ外出がいしゅつをしているのでしょうか?

 おひめさまはおそおそる、すりをつたいながら階段かいだんります。



 階段かいだんすぐよこ台所だいどころへとつづいていて、ながしの真下ましたでは愛犬あいけんのモモがえさべていました。モモはとても利口りこうメスのトイプードルで、おとうさんがおひめさまの10歳じゅっさい誕生日たんじょうびプレゼントとしてれてきてくれた、あたらしい家族かぞくでした。


 やっぱり、どこにもひと気配けはいはありません。おひめさまは仕方しかたなく自分じぶん冷蔵庫れいぞうこけると、すぐにべれそうなものさがしてみました。けれども、なかにあったのは、調理ちょうりしないといけない食材しょくざいばかりです。家事かじがまったく出来できないおひめさまは、おおきなためいきいてから冷蔵庫れいぞうこのドアをちからなくめました。


 インスタント食品しょくひんたぐいもさがしてみましたが、台所だいどころのどこになにがあるのかさえ検討けんとうもつきません。おひめさまはただ、食事中しょくじちゅう愛犬あいけんながめているのがやっとでした。


 ふたたびふかいためいきいてから冷蔵庫れいぞうこをまたけると、おひめさまは青白あおじろゆびでオレンジジュースのかみパックをし、おりのマグカップへとそそいでジュースをしました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る