第二部A面 ギターとお化けとお抹茶4

 その日から毎日、俺は夕方になると駅前広場で歌った。

 俺が歌いだすとどこからともなくいつものメンツがやってくる。

 二十歳過ぎの男が一人。女子高生が二人。

 中年の男女が一組。小学生くらいのボウズが一人の計五人。

 だいたい同じ時間にやってるからおかしいこともないだろう。

 ただ、俺の歌を聴きに来てるのかどうかは微妙だった。

 こいつらは俺の歌を聴いても悲しい顔を崩さない。

 こっちが必死で盛り上げようとしても全然ノってこない。

 毎日毎日歌い続けていたが、一週間目にして俺はブチギレた。

「いい加減にしろてめぇら!」

 足下に置いたギターケースを蹴り跳ばした。

 ケースは五人の間を擦り抜けるようにしてバスターミナルの方へと飛んでいく。

 だというのに、そいつらは眉一つ動かさなかった。

「言いたいことがあるんだったらハッキリ言え!」

 なんだこいつら。

「悲しい顔ばっかりしやがって!湿っぽいんだよ!」

 なんだこの手応えのなさは……。

「俺の歌を聴きたいのか、それとも俺のことを嘲笑ってんのか!」

 まるで壁に向かって話している気分だ。

「いつまでそうやって突っ立ってるつもりだよ!」

 言葉にしているのに、なんで届かないんだよ。

「答えやがれ! てめぇらは一体なにがしてぇんだ!」

 空しい。息が詰まるくらい空しい。

「てめぇらなにがしてぇんだあぁ!」

 絶叫。それと同時に一番下の弦が切れてはじけ飛んだ。

 そのベンッという情けない音に我に返えり、周囲を見渡す。

 すでに日は落ちていて、そこにはもう誰もいなかった。

「なんだってんだよ……チキショー……」

 俺はその場に力無く崩れ落ちた。

 アスファルトの冷たさが下から込み上げてくる。

 このまま闇に溶けてしまうんじゃないかという錯覚に囚われた。

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