試着(前)

「玲依ちゃん、お仕事終わったの?」

「うん。終わった」

「あのね、これ見て欲しくて……」


 書斎で資料作りをしていた玲依ちゃんがリビングに来たから、終わったのかな、と声をかけてみた。

 玲依ちゃんには内緒で、フォトウエディングの資料請求をして、まとめ終わったから見てもらいたいなって。


「これ……」

「色々調べてみて、良さそうなところの資料請求してみたんだ」

「調べてくれてたんだ……ありがとう」

「うん。玲依ちゃんのウエディングドレス姿が早く見たいです! では、ご説明させていただきますっ!!」

「ふふ、よろしくお願いします」


 分かりやすいように纏めたつもりだけど玲依ちゃんに見せるのは緊張する。仕事じゃないから大目に見てくれると思うんだけど……


「こんな感じなんだけど、気に入ったところあった? 少しでも気になるところがあったら、なんでも言ってね」

「凄く分かりやすい。これ、時間かかったでしょ」


 良かった……! 分かりやすいって言って貰えたのは嬉しいな。


「へへ、玲依ちゃんの帰りを待ってる間に作ってみた」

「忙しいのに、ありがとう」

「ううん。で、どうかな?」

「この中なら、この写真が好きかな」

「分かる。このカメラマンさんの写真、どれも良いよね。ちなみに、指名できるって」


 玲依ちゃんが選んだのは、海で撮影された写真たち。私もいいなって思ってたから指名できるかも確認してある。


「侑が良ければ、ここにお願いしたいかな」

「OK。連絡取ってみるね」

「ありがとう」


 打ち合わせと、ドレス選びと、当日までの体調管理と……? あとは何が必要なんだろう?? とりあえず相談してみよう。


 *****

 玲依視点


「うわぁぁ、すっごい数!! えぇ、これ何が違うんですか……? 形? 素材? へぇー!! こんなに……あ、本当だ。色も確かに違いますね。玲依ちゃんは鎖骨が綺麗なので、見せたくて……オフショルダー? 良いですね。玲依ちゃんに似合いそう。玲依ちゃん、オフショルダーって言うんだって。どう?」

「ふふ、侑、少し落ち着いて?」

「むり!!」


 フォトウエディングの打ち合わせと同時に衣装も選べるように調整してくれて、朝からフォトスタジオにやって来ている。

 撮影日とロケ地と大体のスケジュールが決まって、侑が楽しみにしていたドレス選び。


 スタッフさんに案内されて、色々説明をしてもらいながら、私に似合いそうなドレスを見つけたのかキラキラした目で差し出してきた。テンションが上がっていて落ち着くのは無理らしい。


「玲依ちゃん背中も綺麗だからせっかくならこういうのもいいよね。絶対似合うと思う」


 これもいいよね、とまた違うドレスを手に取った侑は両手に持ったドレスと私を見て頷いている。

 自分のドレスのことは全く気にしてないけど、後から決めるつもりなのかな?


「侑のは?」

「私の? 私はパンツスタイルがいいなって思ってるからそんなにかからないだろうし、後ででいいの」

「侑のは私が選んでいい?」

「選んでー! でもまずは玲依ちゃんのね。気になるのあった? 玲依ちゃんは色々見なくてもいいの?」

「うん。侑に選んで欲しい」

「……っ!! 任せて!! 似合うの選ぶから!!」


 あ、もっと気合い入っちゃったみたい。


「よろしくね。ちなみに、デザインはこっちの方が好きかな」

「こっちか。すみません、このドレスに近いものを見せていただきたくて……え、この辺全部ですか? これは決めるの時間かかりますよね? 何回か来る方もいるんですか? うわ、今日で決まるかな……?」

「彼女さん、熱心ですね」

「なんかテンション上がっちゃってるみたいで」


 スタッフさんと話しながらドレスを手に取っては戻している侑を見ていれば、別のスタッフさんが近寄ってきて声をかけてくれた。


「まだしばらくかかりそうですし、良ければお使い下さい」

「あ、すみません。ありがとうございます」


 椅子を用意してくれたし、せっかくだし使わせて頂こうかな。



「玲依ちゃん、候補見てもらってもいい? 3着まで絞ったんだけど」

「うん。……って、侑、これ背中開きすぎじゃない?」

「ちょっと開きすぎかなって思ったんだけど、せっかくなら綺麗な背中を出してもいいのかなって。でも玲依ちゃんが嫌だったら諦める」


 背中か……侑が選んだってことは痕も付けてないんだろうし、大丈夫かな。


「とりあえず試着してみるね」

「えっ、いいの?」

「うん。すみません、こちらの3着試着させて頂いても大丈夫ですか?」

「もちろん大丈夫です」


 時間が許す限り何着でも着ていいって聞いていたし、侑がどれだけ選ぶか心配だったけど3着まで絞ってくれてホッとした。


「まずはこのドレスからでいい?」

「うん。すみません、写真って撮っても大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、待っててね」

「うん」


 スタッフさんと試着室に入り、ドレスを着せてもらう。試着室を出れば、落ち着かなそうにウロウロしていた侑と目が合った。


「どうかな?」

「玲依ちゃん、綺麗……うわ、どうしよ……」


 あれ、もしかして泣きそうになってる?


「ちなみに、背中はこんな感じなんだけど、ちょっと開きすぎだよねぇ」

「……っ、ヤバ……これは、私が落ち着かないです……」


 視線をさまよわせて、顔を赤くする侑をからかいたくなったけどスタッフさんも周りにいるしやめておこうかな。


「じゃあ脱いじゃっていい?」

「あっ、待って!! 写真っ!! 玲依ちゃん、こっち向いて? あー、本当に綺麗。少し下見てもらえる? 伏し目がちなのもヤバ……次は横向いて? 横顔キレー。最後は後ろ……そのまま顔だけこっち見れる? うん。綺麗。ありがとう、このドレスは大丈夫」

「じゃあ次のに着替えてくるね」

「行ってらっしゃい。……ヘアメイクまだなのにこんなに綺麗でどうしよ……」


 カーテンが閉まる直前に侑を見れば、写真を眺めながら呟いた侑にスタッフさんから微笑ましげな視線が向けられているけれど全く気づいていなかった。



「次はどちらにしますか?」

「そうですね……こちらでお願いします」

「こちらですね。どれも良くお似合いになると思います」

「似合うのを選ぶ、と気合が入っていたので心配はしていなかったのですが、そう言っていただけると嬉しいです」

「お二人を見ていると幸せな気持ちになります。ありがとうございます。予約の受付をしたのが私なのですが、電話越しでもお相手のことが大切なんだなって伝わってきて……私には勿体ないくらいの人なんです、と仰っていて、素敵な方なんだろうなと思っていたので今日お会い出来て嬉しいです」

「そんなことを……ありがとうございます」


 試着室に戻って、スタッフさんが侑との会話を教えてくれた。侑が私の事を大切にしてくれているのは日頃から感じているけれど、他の人からこうして聞くと何だか照れる。

 こうして試着をしているだけであんなに幸せそうに笑ってくれるなら、当日はもっと綺麗な私を見てもらいたい。


 当日までに侑と一緒にエステに通おうかな。侑は行かないって言いそうだけど、私が頼めば渋々了解してくれると思うから。

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