7.お迎え

 また1週間が始まって、社内で玲依さんに会えないかな、と思ったけれど今まで会うことがなかったのに急に会えるなんてことがあるはずもなく、会うことは無かった。


 遊び相手の連絡先を消していき、全員と会う予定も決まって最後の1人は来週土曜日の夜になった。玲依さん日曜日暇かな……?



「玲依さん、今日もお疲れ様です」

『ゆうちゃんもお疲れ』


 恒例になった帰り道での電話をすれば、玲依さんの優しい声に癒される。


「玲依さん、来週の日曜日って予定ありますか?」

『午前中だけ出勤だけど、午後からは空いてるよ』

「あ、出勤なんですね。もし良ければ、ランチ行きませんか?」

『行く!』

「良かった。お店、私が決めてもいいですか?」

『うん。任せる』

「あの、会社まで迎えに行ったら迷惑ですよね……?」


 何人で休日出勤をするか分からないし、私と一緒の所を見られたくないかもしれない。


『来てくれるの? じゃあ、お願いしようかな』

「え、いいんですか?」

『うん』

「じゃあ、迎えに行きますね」


 すんなりOKしてもらって聞き返してしまった。私は休みだし、車で迎えに行こうかな。



 土曜日に最後の1人と会って話をして、連絡先を消した。これで明日玲依さんに会いに行ける。待ってて欲しい、と言ってから2週間、玲依さんは態度を変えることなく接してくれた。


 明日玲依さんと会えるけれど、2週間ぶりに会うし、自分から告白なんてした事ないし、物凄く緊張する……

 今まで私に告白してくれた子達も、こんな思いをして気持ちを伝えてくれていたのかなって思うと、改めて最低なことをしてきたんだなって気分が落ち込む。寝てしまおうと思ったけれど、なかなか寝付けなかった。



 朝起きてスマホを見れば玲依さんから仕事が終わる時間の連絡が来ていた。起きて1番に見るのが玲依さんからの連絡で、一気に目が覚めた。


 洗車をするのに早く起きようと思っていたのに、家を出るまであと2時間半くらいしかない。急いで準備しないと。


 何とか間に合って会社の前で待っていれば、私より少し歳上と思われる女の人と玲依さんが出てきた。


「ゆうちゃん、迎えありがとう!」

「玲依さん、お疲れ様です」

「えっ!? お迎えって山崎さんだったんですか!? うわぁ……近くで見ると更にイケメン……!!」

「あれ、川上さんゆうちゃんのこと知ってたの?」

「係長同様、有名人ですからね?? もちろん知ってます! お2人に接点があったなんて知りませんでした」


 玲依さんと私を交互に見ながら、目を輝かせる川上さん。


「ゆうちゃん、同じチームの川上 美亜みあさん」

「山崎です。よろしくお願いします」


 玲依さんが私の隣に来て、川上さんを紹介してくれる。


「なんて贅沢なツーショット……!! 今すぐ自慢したい!!」

「え? 誰に?」

「社員いないし、通行人?」

「いや、おかしいでしょ」

「なんで今日は会社休みなんですかね?」

「日曜日だからね……」


 川上さんと話す玲依さんは雰囲気が違くて新鮮だし、今日も綺麗。

 見すぎたのか、川上さんと話していた玲依さんと目が合ってじっと見つめられる。身長差で自然と上目遣いになるし、ただただ可愛い。


「ごめんね、ゆうちゃん暇だった?」

「いや、全然。川上さんとお話の続きしてください」

「いやいやいや!! これ以上お二人の邪魔できないのでっ! 私は失礼します。お疲れ様でした!」

「お疲れ様。ゆうちゃん、お待たせ。行こ?」


 川上さん、なんだか面白い人だなぁ。何度も振り返りながら去っていく背中を見送って、玲依さんが駅に向かって歩き出すのを引き止める。


「玲依さん、今日はこっちです」

「あれ、こっち?」

「はい」


 玲依さんがこの辺にお店あったかな、と呟くのは聞こえないふりをして近くのコインパーキングに向かう。


「玲依さん、どうぞ」

「え?? これ、ゆうちゃんの車??」

「はい」


 助手席のドアを開けて促せば、驚いたように見上げられた。


「ちょっと待っててくださいね」


 先に車に乗ってもらい、駐車料金を支払いに行く。会社に駐車場があれば車通勤するんだけどな。


「お待たせしました」

「駐車料金、いくらだった?」

「私が迎えに来たかったのでいいんですよ。はい、戻して」


 お財布を取り出そうとする玲依さんの手を上からそっと押さえちゃったけど、この後どうしよ……

 手を繋ぐ? いや、この後運転だし。撫でる? 変態か私……


「あ、えーっと、出発しますね」


 パッと手を離して出た言葉がこれって……もっとなんか言うこと無かったのか……恥ず……


「ゆうちゃん、車持ってたんだね」

「はい。車を買ってから、趣味は洗車とドライブです」

「そうなんだ……」


 なんか玲依さん、テンション低い? さっきまでは普通だったのに。車酔いするとかかな?


「玲依さん、車苦手でした??」

「ううん。……色んな人を乗せたのかなぁって」

「え?」

「ごめん、なんでもない」


 色んな人、って遊んでた人達のこと? これはもしかして、やきもち?? え、可愛すぎない??

 やきもちなんて面倒だと思っていたのに、玲依さんからだと凄く嬉しい。


「乗せたのは同期くらいですね。遊んでた人達は私が車を持ってることも知らないですよ」

「そうなんだ」


 お、ちょっと嬉しそう。やっぱりやきもちだったみたい。可愛い。好き。

 可愛い反応に浮かれすぎて顔大丈夫かな、って心配になる。


 道も混んでないし、予約した時間に間に合いそうで良かった。玲依さんからの視線を感じてなんだか恥ずかしいけれど、安全運転しないと。

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