新たな産物

第27話 冬の始まり

 十二月になった早朝、村にも冬のきざしが来た。地面にどっさりと雪が積もっている。足首がうまるぐらいに。リヨンとターナーは毛皮を上半身にかぶりながら、スコップを使って雪かきを始めた。

「ターナー、そっちの雪を固めてくれ」

「わかった!今から雪を運ぶ」


 二人の大人は協力し合って道の端っこに雪を集めていた。スコップで広場の端に雪を山盛りにする。その様子を見ていたカインとアベルも雪かきを手伝い始めた。

「父さん、どこを手伝だったらいいの? 」

「まずは広場を片付けよう」


 子ども達も協力して雪かきをしている。あっという間に村の広場から雪はなくなった。

「大丈夫。カインとアベルもありがとう」

 リヨンが声をかけると二人の子ども達は嬉しそうな顔をして礼を言った。その様子はとても微笑ましい。

「じゃあ、今日は帰るね。村長」

「カイン。家まで競争だぁ」


 ターナーとリヨンは歩きながら話をする。

「いつもより早い冬が来ましたね。豚を買ってほふらないといけません」

「六匹だけでは足りないな。今日、猟に行こる人はいるかな」

「村人に任せますか。岩塩で塩漬けにして、猪肉のソーセージを作りましょう」

「保存食はターナーに任せる。俺は家畜小屋と居酒屋の建築をかしてくるから」

「羊とヤギ、牛は越冬させますね」

「そうだな。ターナー」


 二人はそんな話をしながら広場を出た。

 リヨンは思った。この村に戻って来て三ヶ月になる。本当に村は賑やかになった。最初は俺とセレナだけだったのに。今では村人も五十人を越えている。



 話が一段落してから、リヨンは酒屋を見に行った。すでに骨組みの組み立ては終わっている。大工のカーペンターは、シュタルクから応援に来た二人の大工と共に作業を行っていた。

「カーペンター 、作業はどうだ? 進んでるか」

「村長 、おかげさまで進んでいます」

「平屋の酒屋になるらしいね」

「はい。二十人は入るでしょう」

「それは凄いな。二階建てだったらよかったか」

「ええ。この辺りでは平屋が一般的な酒屋の造りで。仲間の大工もそう言っていました」


 リヨンが家に戻るとセレナが昼食を用意していた。玉ねぎスープと黒パンだけの質素な食事を終え、セレナと談笑する。

「今日は寒い。いっそう冷えるよ」

「ああ。薪でも足そうか」


 リヨンは雪かきで冷えた両足を暖炉の近くで暖めていた。びしょ濡れの革製の靴は乾かす必要がある。

 昼を食べながら外を見ていると、伝書鳩が窓から入ってきた。白い鳩は足に紙を巻き付けていた。

「どれどれ。手紙がついてるな」


 丸まった手紙を広げると、差出人は辺境伯と書いてある。リヨンは文面を読み上げた。

「翌日、ベルン村にて出陣の式典を行う。貴公にも参加していただきたい。尚、式典は昼から始める」

「セレナ 明日はベルン村で式典だって」

「ふーん」

「興味ないんだね。俺は岩塩を見に行ってくるから」


 リヨンは歩いて村の外れに向かった。伐採された木々をまたぎ、草花を手でかぎ分けると森に湯気の立つ温泉が現れた。

「村長、ターナーからお話が」村人が言う。

「わかった。今からいく」

 

 ターナーはスコップで塩分の濃い水をすくいだしていた。

「村長、今から塩を煮詰めます。時間がかかりますが」

「やってくれ。寒い日にすまない」


 ターナーは土器に温泉からくみ出した水を入れ、火を起こした。ターナーは簡易的な魔法は使えるそうだ。

「俺は魔法が使えないからうらやましいよ」

「近所に住んでいた人教わった魔法ですよ。村では一番の魔法使いでした。ゴブリンの集団にはやられましたが」

「すまない。悪いことを聞いたな」


 リヨンは小さく咳払いした。

「ターナー、俺には考えがある」

「考えですか? 」

「村に特産品を作って売りたいんだ。銀貨が手に入れば村が豊かになる。アウィスを何匹か買って、荷物や塩を運ばせて稼ぎたい」

「銀貨を稼げれば息子に豊かな暮らしをさせてやれますね。俺はやりますよ」とターナーは意気込む。


 ターナーは出来上がった岩塩を必ず売ると約束した。リヨンは満足して家に戻った。

「帰ったよ。セレナ」

「今 わっちはシチューを作ってる」


 リヨンが見に行くと、セレナはミルクを入れた鍋に古くなったパンを浮かべていた。にんにく、玉ねぎをまぜあわせ、豚の塩漬け肉を加える。

「シチューか」

「わっち 特製のシチューを待ちきれるかや」

「ああ 待ちきれないよ」


 シチューが出来上がるまでの間。リヨンは机に木製のスプーンや皿を並べたり、薄いエールが入った陶器製の瓶を置いたりしていた。

「帰ったぞ。リヨン」

「お帰り、ブレイ」


 陶器製の瓶からジョッキにエールを注ぐ。黒パンをナイフでうすく切り分け、豚脂の塩漬けをのせた。

「セレナ 用意できたよ」

「今 行く」


 リヨンは目前にあるジョッキにエールを注ぐ。ブレイは木製のジョッキを一気飲みした。

「一日の終わりには"これ"が効くな」

「ダークエルフとの修業はどうだった? 」

「修行は厳しいが強くなれる気がする。彼らは達人だ。特にセピアは強かった」

「ああ、彼は戦闘強で鬼教官だからな」

「だろうな。高みを目指す上でい刺激になった」


 セレナが小さな鍋をテーブルに置いた。湯気が立つ鍋からは良い匂いが漂っている。

「いい奥さんだな」

「ほめるなよ。恥ずかしいぞ」

「照れるなよ。村長」


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