第5話 ゴブリンから村を守るために戦おう

 リヨンは村の外れにある森に入りました。ディオとアーテルと一緒です。

 目的は肉を得ること。食料問題を解決するためには動物を捕えるのが一番ですから。

「ディオ、森には動物がいてね。友が鹿狩りに連れていってくれたことがあるんだ」

「今日はパンよりも肉が食べたい気分で」


 ディオが自分の長弓はイチイの木から作られたといいます。魔王領では、東の村で作られる長弓ロングボウは広く知られた名産品でした。今となっては過去の話ですが。

「すばらしい弓だ。遠くまで弓矢が飛ぶだろうね」

「立派な獲物を狩ってみせますよ。リヨンさん」


 三人は暗く不気味なトウヒの森を歩きました。

 足元が悪い道を倒木や木の枝を避けながら進みます。森には魔獣が出そうな雰囲気がだだよっています。リヨンは思わず腰の短剣に手を伸ばしました。


 針葉樹が風によって大きく揺れています。風の音が森に響き渡り、不気味な音を立てています。

 何だか不気味ですね。

「リヨンはどうして僻地へきちにいるんだ?」

「アーテルさん。ここは俺の故郷なんだ」

「故郷にしては村人がいないな」

「五年前ゴブリンに……」とリヨンが言いかけると。


 「鹿がいる。伏せて」とディオが小声でささやきます

 大きな赤毛の鹿が森の中をのんびりと歩いています。三本に分かれた角はかなり立派で。三人は音を立てないよう鹿にゆっくりと近づきました。


 ディオは背中の矢筒から矢を取り出します。

 右手の二本指で玄を引っぱると、半円をえがくように弓がたわみました。鋭い一撃は鹿にダメージを与えたようです。


 鹿は足を引きずって逃げていきました。アーテルは鹿が垂らした血痕と足跡を便たよりに追跡すしていますが。ディオは右手に矢を握ったまま鹿を追いかけています。

「ディオ、傷ついた鹿はそう遠くには行けないはずだ。追うぞ」

「感知して探そう。それが一番早い」

「そうだな。ディオ」


 銀髪のディオが走ります。どうやら鹿を見つけたようです。木の幹をったディオは空中で一本の矢を放ちました。

 リヨンとアーテルが駆けつけると、一匹の鹿が倒れていました。ディオが鹿の心臓にナイフを突き刺しました。肉が臭みを出す前に血抜きをする必要がありました。

「運ぶぞ。3・2・1」


 アーテルが鹿の後ろ足、リヨンが前足を持ちました。木のみきにつまずきそうになりながらも彼らは前に進み゙ます。緑色の怪物が近づいていることも知らずに。


 エルフは井戸からんだ水で体を洗い流し、鹿の解体を始めました。アーテルが内臓を取り出し皮をはぎ取ります。

「アーテルさん。肉が手に入りました。感謝します」

「感謝なんてとんでもない。リヨン殿」


 リヨンはナイフで鹿肉のかたまりを切りました。鹿肉を焼き網に載せて焼いていきます。セレナにソース作りを任せます。リヨンは"セレナのことだから味見ぐらいはしそうだ"と思いました。


 肉が焼けるいい匂いが部屋中に漂ってきます。炭火からモクモクと上がる煙が食欲をそそりますね。

「セレナ。ソースできたよ」

「ワタシが持っていく」

 焼き上がった鹿肉にソースをかければ完成です。立派な昼食の出来上がり。ダークエルフたちは、まだ食事が来ないなのかと心待ちにしているでしょう。


 折り畳み式のテーブルに五人のダークエルフが集まっていました。セレナが丸い小麦パンと鹿肉を渡します。パンは購入してからニ日経っています。ほどよい固さになっているはずで。

「助かった。部族を代表して感謝する」


 セレナとリヨンは手早く食事を済ませ、七人分の木製食器を井戸水で洗いました。突然、立ち上がって周囲を見渡すセレナ。尖った耳がピクピクと動きます。

「そなた、村に何が来る」

「何が来るんだ? セレナ」



 セレナに連れられてリヨンも走りました。リヨンはセレナの手をしっかりと握っています。

 農家に着いた頃にはダークエルフたちは臨戦態勢に入っていました。ディオとアストラは弓矢と矢筒を用意し、アーテルとセピアは腰に剣を帯びています。

「リヨン殿。逃げる時間はない。戦いましょう」

「わかりました。七人で力を合わせて戦います」


 ゴブリンがノワール村に押し寄せてきました。ゴブリンは顔には鋭い耳と長い鼻、細い子供のような体型の魔物です。

 ゴブリンは剣や弓をたずさえています。明確な敵対行為ですので自衛権を行使しましょう。


 杖をかざしたセレナが「フランマー ・スパエラ」と叫びました。先頭のゴブリンが炎に包まれます。戦いの火蓋ひぶたが今落とされました。


 ディオは農家の屋根に立ち、弓を構えます。

 ディオにはゴブリンを一匹ずつ確実に仕留める腕前がありました。ディオは弓を持った三匹のゴブリンに視線を集中させ、戦力の削ぎ落としを図っていた。

「狙いは女かな。思い通りにはさせないよ」


 リヨンとセピアは迫り来るゴブリンを斬って、斬って、斬りまくります。特にセピアは頭部への斬撃を好んでいました。容赦のない性格だと言えますね。

「貴様たちなど相手にもならん。ゴブリンなどいう下等生物が相手になるか! 」とセピアが言いました。


 リヨンは襲いかかってくるゴブリンをなぎ倒します。ゴブリンはひるむことなくリヨンに襲いかかってきましたが。そのたびに返り討ちにあいました。ゴブリンは反撃することできずに倒れていきます。

「残り四。そろそろ切れ味が」とリヨン。


 森の木が左右にざわめきます。倒れた木の向こうに緑色で筋肉質な怪物が現れました。その怪物は右手に大きな斧を握っています。それはゴブリンシャーマンでもなければ、ゴブリンソードでもありません。ゴブリンチャンピオンが姿を表しました。

「貴様ら何者だ? 」

「ただの村人だ! 」


 無数のゴブリンを従え、チャンピオンは村への再侵攻を開始しました。

 リヨンが指揮を取ります。

「俺とセピアが前衛を務めます。ストラーダとアーテルは着いてきて。アストラ、ディオ、セレナは援護」

「了解! 」



(6話に続く)

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