勇者が村長になりました ～リヨンの辺境開拓記～

第4話 ダークエルフがやって来た

　夏の暑苦しい明け方のことです。

　セレナは魔族が迫（せま）る気配で目を覚ました。同じ頃、リヨンはワラのベッドで気持ち良さそうに眠っています。腰に布を巻いただけのだらしない格好で。

「起きて！ 起きなさい」

「まだ眠たいんだ。ねさせてくれ」

「5人の魔族が村に近づいている。村のすぐそこまで来てる」

「何だと！　」

　リヨンはベッドから飛び起きました。大急ぎでズボンをはき、青いチュニックを着ます。片手にミスル銀の剣（つるぎ）を握ったまま、家を飛び出しました。セレナは慌てて後ろを追いかけます。

「ダークエルフが5人、男が3人と女が2人いる」

「彼らは魔王軍からやって来たのか？ 」

「わからない。敵意はなさそうに見えるけど」

「よーし。話をつけてくる」

　黒髪のダークエルフが村に向かって歩いてきました。リヨンは露骨に警戒心を露（あらわ）にします。セレナは杖をダークエルフに向けて構えました。二人とも臨戦態勢です。

「私はアーテル。この村にシャルル王国の騎士はいるか？ 」

「騎士などいない。戦士と魔法使いだけだ」

　黒髪のダークエルフが近づいてきます。エルフは胴には銀色の鎧をつけており、腰には細身の剣を差していました。

「我々5人に敵意はない。食料と水を分けろ」

「家に来てください。そこでじっくり話をしましょう」

　小さな農家にやってきたのは五人のダークエルフでした。エルフは一人を除いて全員が銀髪です。体格もしっかりしており、強そうに見えます。セレナは魔力量も相当なものだと分析してます。

「仲間を紹介しよう。右からストラーダ、ディオ、セピア、アストラだ」

「アーテルさん、黒パンでよければすぐに出せます」

「できれば、けが人の治療もしたいんができるか？ 」

「セレナは治癒魔法が使えますから」

「それはよかった」

　リーダーのアーテルが村に来た経緯を語りす。概略をまとめるとこんな感じで。

　村が騎士の集団に襲われ。男は片っ端から殺され、女は騎士に連れていかれた。森に逃げられたエルフは少ない。俺たちは騎士の追撃（ついげき）を逃れつつ、森を四日間もさまよったと。

　リヨンはダークエルフにエールを勧め、食卓に座らせました。エルフたちはエールを一気飲みで、ライ麦パンを口に運んでいます。

「スープを作るから待ってくれ」

「セレナ。先にけが人の治療を」

　セレナは治癒魔法でけが人を治療します。銀髪のダークエルフ、アストラがセレナに礼を言ってきました。

「まさか、女のハイエルフに助けられると思わなかった」

「ダークエルフが村に来るって。わっちは考えたこともなかった」

　族長代理のアーテルがリヨンに頭を下げました。

「状況が落ち着くまで休みたいが？ 」

「どうぞよしなに。そなた、異存はないか」

「大歓迎ですよ。元気な人が開拓を手伝ってくれるなら」

　セレナが「腹が減った。そろそろ朝ご飯にしよう」と言いました。

　エルフが火魔法を使って火をおこし、炭に火をつけます。脚つきの鍋に水とカブを入れ、こしょうと塩を適量加えます。

　それから三十分グツグツと煮込みました。リヨンは木のお椀にスープを入れて、五人のダークエルフに渡します。

褐色肌（かっしょくはだ）のダークエルフたちは、木製や角のスプーンでガツガツと野菜を食べ始めました。

「うまい麦酒（ビール）だ。次 注いでくれ」

「アーテルさん。まだまだありますから」

　暖かいスープは冷えた体を芯の底から暖めてくれます。野菜のスープは薄味だけど優しい味がしました。薄味ですが。燻製（くんせい）や塩漬けのベーコンがあれば格別に旨くなりましたが。そんなものはございません。

　長い銀髪をなびかせたエルフはリヨンに握手を求めました。

「私は弓使いのディオス。ディオと呼んでくれ。どんな獲物も貫いて見せるさ。そしてこいつが…… 」

「俺はセピア。剣の腕なら負けない」

　銀髪でオールドバックのセピアが自信げに言いきります。

「セピアはさぁ。いつも自信満々なんだよ」

「うるせぇ弓使いだ」

　昼寝の後、リヨンはセレナに夕食の相談をしました。

ダークエルフは食欲旺盛なんでしょうか。

セレナも困り果てています。

「夕食はカボシュポタージュにしよう。玉ねぎとキャベツ1玉を入れたい」

「そう」

「ヤギのミルクとハチミツを加えれば旨くなるのに」

「ぬしがヤギを飼わないから悪い」

あーだこーだしているうちに料理が始まりました。

　まず最初に、キャベツ1玉をナイフで四等分に切り分けます。次にネギをみじん切りにして、細かく刻み゙ます。

　次に、脚つきの鍋にスープを入れて加熱します。スープは昼食の残りを活用しました。キャベツ、タマネギ、ネギを入れ、柔らかくなるまでグツグツと煮ます。最後にニンニクやコショウを混ぜたソースを入れて、味を整えれば完成です。

　リヨンは食卓で待つ五人のダークエルフ達に声をかけました。脚つきの鍋から木のお椀にカボシュを移します。

「待たせましたね。カボシュです」

　カボシュが入った鍋はあっという間に空になりました。リヨンはダークエルフの旺盛な食欲に驚愕（きょうがく）していたのですが。

「ワタシは1杯しか食べてない」

「俺も1杯だけだよ。干し肉をやるからがまんしろ」

　リヨンとセレナは今後の食料事情を寝室で話し合います。

「人も増えたし。明日は森で角ウサギを捕まえよう。どうもパンだけでは足りないようだから」

「串焼きにシチュー、どう料理してもうまい」

　リヨンはセレナに対して呆（あき）れ返ってました。楽観的でご飯のことしか頭にないエルフに。

「そういうことじゃなくて。ほんとセレナは食いしん坊だな」

「飯が旨ければ辛くてもがんばれるから。私はそう信じてる」

「おやすみ。セレナ」

「おやすみ」