飯時にビービー騒ぐんじゃねぇバカ共が
「それでね、コルドがわざと怖がらせるようなことばかり言うの」
家に帰って来てもウルサい奴が言う。先程の話を要領悪く語った。
「ホンっト、コルドったらイジワル」
「そりゃ手前ぇが悪ぃんだろ。夜は物騒だから早く帰れってのは常識だバーカ。まあ、一応? チビやお節介野郎に比べると貧相な面してっけど、手前ぇも、一応は、オンナノコ? だからなぁ」
ニヤニヤと笑いながら言うのは二番目の兄、レイニー。ちなみに、雨の日に拾われたから……以下略。
そして、レイニーがいなかったら、オレの方がレインかレイニーになっていた可能性が高い。
「なによっ!? ホリィはともかく、コルドなんかと比べないでっ!」
ヒステリックな叫びが
スノウは顔が地味なのがコンプレックスのようで、オレと比較されるのを
つか、孤児で顔が良くてもいいことはあまり無いんだがな? むしろ、損することの方が多いだろう。特に、オレみたいに
「……五月蝿ぇんだよ。飯時にビービー騒ぐんじゃねぇバカ共が」
低い、不機嫌な声が吐き捨てる。
その声にビクッとしたスノウには構わず、ギロリとレイニーを睨み付ける険しい目。一番上の兄、ウェン。
水曜日に拾われたから……以下略。一応、ウェンズデイではなくてウェンだ。女ならウェンディになっていたかもしれないが。
おそらく、不機嫌そうに見える険しい目付きと声程には怒ってはいない筈だ。ウェンは、かなりの近眼なだけ。まあ、十年以上も針仕事してれば、そりゃあ普通に目も悪くなるだろう。
年齢は多分、十五歳くらいでレイニーとそう変わらないと思う。
生まれつき左足の膝から下が無い。多分、それで捨てられたのだろう。外へは働きに行けないが、うちで一番の稼ぎ頭だ。
まあ、地主のババアのお蔭でもあるが、ウェンの腕もいいからだと思う。
「ケケケっ、そう目くじら立てンなよ? 凶悪な面が更に凶悪ンなってるぜ?」
「知るか。この面は元からだ」
さすがに、元からではないだろう。
「近眼なだけだろ。針仕事ばっかで」
「あ? なら、ステラはどうなんだよ? 俺と同じくらい針持ってんぞ」
不機嫌そうに言うウェン。
「年季が違う。ウェンはもう、十年以上やってんだろ? 針仕事。ステラはここ三年くらいか? 夜に針使わなきゃ、ウェン程は目ぇ悪くはならねーだろ。多分」
「多分かよ」
「多分だな。ま、ステラは耳聴こえない分、視力落ちると困るだろうから、余計に気ぃつけてやんなきゃマズいだろ」
「わかった。気を付ける」
頷くウェン。
「よっ、ガリ勉チビ」
「相変わらず全方位だな? レイニー」
「ケケケっ」
「どこがよ? ステラにはいつもなんにも言わないじゃない」
不機嫌そうに割り込むスノウ。
「は? 言っても聴こえねー奴になに言っても意味ねーだろ。バっカじゃね?」
というのは建前で……レイニーは実は、ステラと会話をするのが苦手なだけだ。
ステラは、泣くと物凄い。
耳が聴こえないから、声の調整が自分で出来ない。力一杯で泣く。どんなに慰めても、聴こえないから届かない。だからステラを泣かすと、自分達にも騒音被害が及ぶのだ。
ま、レイニーがステラを苦手なのはそれだけでもないけど。
ツンツンとつつかれる肩。するりと取られた手に、パッと小さな手が走る。
『喧嘩?』
ステラの質問に首を振り、手を取り返してその手の平に返事を書く。
『いつもの言い合い。気にするな』
ステラとの会話は、手に手を取っての筆談だ。
レイニーはあれでいて……
『どうかした?』
『いや、ちょっとな。レイニーがステラとの会話が苦手な理由』
『ああ、レイニー。字汚いもんね。なに書いてるのか、偶にわからないし』
そう。レイニーは悪筆だ。字が汚くて、とても読み難い。だからステラには、レイニーの言葉が伝わり難い。
それに、スノウが言う程レイニーは悪い奴じゃない。口と態度の悪さを気にしなければ、むしろいい奴だ。悪態はまあ……必ず吐くが、なんだかんだで意外と面倒見はよかったりする。
誰も見てないときにステラのお喋りに付き合ってやったり……ステラが一方的に筆談するのを、レイニーは身振り手振りやイエス、ノーだけで返事する……とか、手先の器用さを生かしてウェンの松葉杖を調整したり、家の修繕などを細々と率先してやっている。
うちの勢力図としては、ウェンが家長。少々気難しい職人気質だが、年長者として頑張っている。
レイニーは全方位に悪態を吐くが、ホリィとは微妙に仲が悪い。そして、基本的にはウェンとステラの味方だ。
ホリィはオレにやたら構いたがり、スノウがそれを嫌がる。
ステラはウェンといる時間が一番長く、一番仲が良いのはオレ。
スノウは、ホリィ以外とはみんなと仲が良くない。特に、レイニーを天敵としていて、オレのことを嫌っている。
ホリィは、レイニー以外とは全員と友好関係にある。
オレも、スノウ以外とは割と友好関係。
で、オレとステラは割と傍観者気味だろうか。
まあ、ステラは仕方ないとしても、オレは言いたいことや言うべきこと以外はあまり口出ししないし、喧嘩もあまり止めない。筆談で会話を伝えたりし合っている。
「つか、手前ぇ知らねぇのか? 犬食う奴ぁ、拐ったガキも食い殺すって話があンだよ。奴ぁ、狼男なんだとよ」
いつの間にか話が戻っている。
「狼男なんて、いるワケないだろ」
「ンだよ、チビ。邪魔すンな」
水を差したオレを見やるレイニー。
「狼男だとか、ンな
「チッ……わーったよ。つか、高利貸しの
珍しく茶化す様子の無いレイニー。
『なんの話?』
『夜は危ないから出歩くなってさ』
『うん。わかった』
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