2.たたき売りと小芥子少女

「たのしい歌でちゅ。なんて曲でちゅか」


 二番を歌い始めた辺りで目の前を通った女の子だ。一度は過ぎ去り、また戻ってきたんだな。そしてオレっちのすぐ近くで立ち止まり、感想と質問をくれた。

 オレっちと同じくらい、十五歳前後かな。肩口まであるまっすぐの黒髪がよく似合う顔立ちのとても綺麗な子だ。

 背が低く、話し方は幼いけれど、視線に少しだけ強い感じがあるなあ。


「あ、ありがとう。聴いてくれたようですね、オレっちの新曲『たたき売り』を」

「ちゃちゃき売り。古い感じのちゅる言葉でちゅ」

「そうかなあ」

「そでちゅ。バナナのちゃちゃき売りとか、みちゃいな」


 彼女は目を細めながら微笑んでいる。


「そうでしょう。もってけぇどろぼぉ、みちゃいな」


 ちょっとおどけてみた。彼女の口調を真似たりして。オレっちらしくないかな。


「きゃははは」


 彼女は、さらに目を細め声を出して笑っている。

 笑ってもらえて、オレっちも嬉しい。おどけてみた甲斐があった。

 それにしても、細めた目の笑顔がとても可愛らしいな。

 光踊る白い肌。光眠る黒い髪。丸い輪郭。寿司天麩羅国の郷土人形、ああそうだ、小芥子こけしとか云うお人形のようだ。


「あ、でもオレっち、実際にバナナのたたき売りなんて、見たことなくてね」

「そでちゅね、あたちもないでちゅ」


 少しだけ話し方に親しみがこもってきたかな。

 だけどそう思った直後、彼女の視線に、最初見せていた少し強い感じが戻った。


「あなちゃ、地底人でちゅね」


 声音までもが強い感じに変化している。

 不意を突かれる形になったオレっちは、言葉に窮して彼女の顔を見つめる。

 決してきつい表情ではない。綺麗な透き通るような表情だ。視線は、やはり強いまま。こんな表情をしている小芥子もあるのだろうか。

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