蛇の道は蛇

 日は既にとっぷりと暮れて宵闇も色濃い午後七時。


 場所は依頼者である高校教師、渕上が勤務する市の東側の学校、県立柳沢高校である。


「ここか──」

「『ここか──』じゃないわよなんでアンタがいるのよ⁉︎」

「当然だ。これは僕の事務所が請け負った僕の仕事だ」

が請け負ったです!!!」

 忠孝は不思議そうな顔で

「? ……同じことじゃないか」

「違う!!!」


「あの……生徒は見つけて頂けるんですよね?」

「これは失礼。勿論です渕上先生」

 即座に忠孝は自信たっぷりに答える。

「これが私どものやり方でして。活発なブレインストーミングは豊かな発想の苗床です。そして豊かな発想は事件の真相、対応、付随するリスクの可能性など様々なことを広く深く我々に教えてくれる」

「はぁ……」

「ご案内はここまでで結構です。ここから先は危険があるかもしれない。渕上先生は駐車場の車でお待ちください。何かあれば鈴川の方から電話させます」

「分かりました」

 渕上はぺこりとお辞儀をすると、背を向けて来た道に戻り、その背中もやがて宵闇に消えた。


「……あなたねえ!」

「シッ」


 文句を言おうとしたタエを、忠孝が緊張した様子で遮った。


「え、……なに?」

「静かに」


 忠孝がスッと屈み込んで姿勢を低くする。タエも慌ててそれにならった。


「あれを見たまえ」

「……?」


 校舎の壁に直接固定された水銀灯が、荒れたアスファルトの地面を照らして光域の三角形を作っている。しかし、タエにはその場所に何か異常があるようには見えなかった。


「何も見えない」

「……仕方ない。僕が行く。君はここで待て」

「待って、一等級のおふだがある」

「必要ない。まあ見ていたまえ」


 忠孝は低い姿勢のまま猫のように足音もなく水銀灯に照らされたアスファルトに忍び寄ると、そのまま折り返して帰って来た。


「見てみろ」

 忠孝は手にしたものをタエに示した。

「ミヤマクワガタだ。こんな低地の、しかも街中にいるとは珍しい。サイズも大きい。これは拾い物だぞ」

「……お札じゃなくてバットかハンマーがあれば良かったのに」

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