1,化け物運び屋の仲間は、実家を思い出す。




 太陽が最初に目を向けたのは、大きな神社だ。




 階段の先にある神社。その階段の麓では、さまざまな屋台が置かれている。


 その側にある駐車場に、バイクを止める高校性ぐらいと思われる少年の姿があった。




「屋台カア……」


 その少年の腰から、奇妙な声が聞こえてきた。

「ん? 屋台行きてえのか?」

 フルフェイスのヘルメットを外しながら、少年はズボンのポケットに話しかける。

「ウウン。タダ、実家ノコトヲ思イ出シタダケ」

 そのズボンのポケットには、よく見ると何かが入っている。声を出していることやモゾモゾと動いていることから、何かの小動物なのだろうか。

「実家って……ああ、確かあんたの家って、お寺だったよな」

「寺ジャナクテ、神社ヨ。ソレニシテモ、小サイコロカラ思ッテイタケド……」


 ポケットの中から、声の主が顔を出した。


 ティッシュに包まれた姿は、てるてるぼうずのようだ。頭にはキツネのような耳の形が見られ、顔にはのぞき穴と思われるふたつの穴が空いている。


「夏ナラ分カルケド、ドウシテ正月ニスルノカシラ?」

 顔を見上げるキツネの生き物に、少年は立ち並ぶ屋台に目を向ける。

「なんかよくわかんねえけどよお、俺は好きだったよなあ」

「来タコトアルノ?」

「ああ、よくオヤジに連れられてよお、何書いているかよくわかんねえおみくじなんかより、お面とかのほうがよかったんだよなあ」


 その時、少年のバイクの荷台に乗せてあるリアバッグから、爪を引っかく音が聞こえてきた。


「ん? ちょっと待っててくれよ」


 少年はリアバッグのふたを開けると、1冊の本を取り出した。


 その本は新聞紙に包まれているが、片方の面には8つの穴が空いていた。まるで、クモの足が生えていたような位置に。


「あんた、屋台に興味があるのか?」

 少年はその本に語りかけると、本はそれに応えるように針のような足を、穴から1本だけを、一瞬だけ出し入れした。

「やっぱりそうだよな! よし! お面を買って帰るか!」

「コラ! チャントオ参リシテカラヨ! アト依頼主ニ届ケルモノガアッタデショ!?」




 本を脇に挟んだ少年は、神社へと続く階段を見つめた。


「こういう神社に続く階段ってよお、意外ときついんだよなあ」

「ソレガイイノヨ。ワザワザ神様ニ会イニ行クンダカラ。ソレニ、上ッテイル内ニ願イ事ヲ考エルコトガ出来ルデショ?」

「願い事かあ……」


 少年はしばらく考えるように空を見上げていたが、「ここで突っ立ってても意味はないよな」とつぶやき、階段の一段目に足を乗せた。

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