第2話

あったかい車内にいたせいか、外はかなり寒かった。

まぁ、冬だしな。


寒さに弱いミナトは体を震わせながら後部座席にあるコートを羽織り、方向音痴のオオダの為に先頭を歩き出す。


とりあえず、むかわ町の中心に店が固まっているのでそこを歩きまわった。

駐車場の近くにある店たちは特に多いわけでもないため探索は、すぐに終わり一軒の店の前で止まる。


生ししゃもの販売も行っている港にある市場を彷彿とさせる店だった。



「ここでえぇんでね?」



オオダはそういいながら店の中に入る。

それに続くようにミナトも店の中に入ると入ってすぐの場所に食券機が設置されていた。


ししゃも寿司やししゃもの刺身と色々とメニューがあったが、2人が目についたのは定食。


生ししゃもを使った寿司とお吸い物、フライに昆布巻きというラインナップ。

まさにこれを食べてくださいといわんばかりものだった。




「ミナトは決まった?」


「目的が目的だから答えなんてほぼ一択でしょ。」



ミナトのその答えにですよねーと言いながら、券売機にお金をいれるオオダ。

彼が押したボタンは勿論定食。


…を2枚。



「昼飯はおねーさんが奢ったる、この旅の交通費代わりだ。」


「まじか、ありがと。」



男前な台詞にドヤ顔、胸を張りそこに拳を作った右手を置く。

そんな、ベタなポーズを決めるオオダを両手で拝むミナト。


後ろに人がいるのに気がついた二人は、軽く謝罪して食券をとってソソクサと席に向かう。


席について、温和な笑みを浮かべるおばちゃんに食券を渡して待つと、おぼんに乗った定食が運ばれてきた。



メニューは…


【生ししゃもの寿司】


【生ししゃものお吸い物】


【生ししゃもの昆布巻き】


【生ししゃもフライ】


【漬物】



この5種類だ。


漬物は普通のものの為に説明は省くが、こうも…ししゃもづくしだと圧感である。


特に目を引くのはお吸い物。

透き通ったスープの中にししゃもが丸ごと入っている。


泳いでいる…!

ミナトはそう考えながら、お吸い物に口をつけた。



あっさり薄味。

雑味もない上品な味だ。


濃いめの味が好みの人なら物足りないないだろうが…。

チラリとオオダを見るが、オオダは幸せそうな表情を浮かべている。



ぁあ、この女は自他共に認める薄味派だったな。



次は寿司。

一見、普通の白身魚の普通のお寿司は見えるが…シャリの上になっているのは一枚の身。

普段見ているししゃもを考えると、お寿司に使っているししゃもがどれだけ大きいか分かる。


大きく、身も厚いそんな立派なものをつかった贅沢なお寿司だ。




昆布巻きは、甘めの出汁で味付けしたししゃもを昆布で巻いたもの。

見た目の安直な感想だとお正月で食べるおせちに入っていそうだった。


中までしっかりと出汁が染みていて、やや冷えた状態で出ていたが…個人的には温めて白米で食べても美味いかもしれない。




最後は、フライだ。

これはどこでも食べれるから後で。

そんなことを考えながら食べていたために、彼が最後に食べるものになった。


向かいで食べているオオダも同じ気持ちだったのだろう、最後に残っていたのはフライ。


2人はほぼ同時にフライを口にする。

たい焼きと同じように、頭から食べる派か尻尾から食べる派か聞こうかと考えていたのだが…その思考は全て吹き飛んだ。



「うまっ!」


「うまっ!」


良い意味で予想外だった為に、思わず口にしてしまった。

フライはソースとかが欲しくなったりするが、これはいらない。

ししゃもの肉の旨味や脂身が衣の中に全て閉じ込めてあり、まるで肉を食べているような満足感がある。


これは、つけても塩だな。



オオダの視線は無意識に冷蔵のショーケースに入っている。

そう、ビールだ。


何を隠そうこの女は酒豪だ。

このフライは、ビールとの相性は抜群にいいだろう。



「別にビール飲んでもいいよ、運転するの私だし。


1人で心許ないなら、私はノンアル飲むし。」


「いいや…、この後は温泉も控えてるから我慢する。」



グググと名残惜しそうに、ショーケースから視線を外したオオダは定食を食べ切るべく箸をすすめた。


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