34話 義理
「こちらで確認したところ、スピード、クオリティともに最高クラスであるため、文句なしにB級昇格となります」
「「「「「……」」」」」
俺は【時の回廊】のパーティーと一緒に冒険者ギルドに来ていたわけだが、受付嬢の台詞は想像以上のものだった。
まさか一気にB級まで行くとは。C級はありうると思っていたが。
というか自分たちの周りに野次馬たちが一杯いて、しかも歓声やら拍手やらが上がったので正直そっちのほうにもびっくりししている。どうしてこうなった……。
「び、び、B級だって……? これは夢か現か幻か……僕には到底、判断できそうにない……」
「お、おう、ラダン、じゃあ夢なのかどうか試してやるぜ。どうだ、痛いか?」
バルダーに頬を抓られたラダンが飛び出るほど目を見開いた。
「い……いだだだだぁっ……!」
「ってことはぁ、夢じゃないんだねっ!」
「夢なものか。これは紛れもなく現実だ……」
キールがしてやったりの顔でメルルのほうを見たあと、はっとした顔で不機嫌そうに視線を逸らした。
まだまだ氷解まで時間はかかるだろうけど、それでも嘘で塗りたくられた以前の状態よりはずっと進歩しているはずだ。
「よかったな、【時の回廊】のみんな。おめでとう」
「「「「……」」」」
俺の祝福の言葉に対して、ラダンたちがぽかんとした顔になってる。あれ、みんなどうしたんだ……?
「俺の顔に何かついてるかな?」
「い、いや、モンド君。そうじゃなくて、まるで他人事みたいな言いようだったから……」
「もしかしてモンド、まだ気にしてるのか? お前を犯人だって疑っちまったことをよ。それなら俺たちが悪かったし、あれから何度も謝ったじゃねえか」
「いやいや、バルダー、あれは疑われてもしょうがないし、もういいよ。ただ、俺はあくまでも臨時メンバーだから……」
「ふん、モンド、お前はそんなことを気にしていたのか。それなら、俺のパーティーに入ってくれ。お前の実力ならみんな歓迎する」
「そうそう、モンド君、是非僕のパーティーに――って、キール、何勝手に勧誘してるんだ。僕がリーダーなんだぞ!?」
「あれ、そうだったか?」
「おおいっ!」
「まあまあ、ラダン。この際いいじゃねえか、そんなちっぽけなことはよ。なあ、メルル?」
「う、うんっ。ねえ、モンドおにーちゃん、私たちの正式な仲間になろ……?」
「……」
正式な仲間、か……。今の俺には、なんとも魅力的な響きに思えた。
さすらいの黒魔導士も悪くないが、ラダンのあの熱い台詞を聞いてからパーティーが恋しくなったのも事実だ。
俺の手腕を発揮する場所としても、【時の回廊】パーティーは申し分ないと感じたし、何より居心地がいい。
けど、勿体ないとは思うけど俺は義理を通したいんだ。
「実は、とあるパーティーに誘われてるんだ。いずれ再会するかもしれないし、そのときにもし自分の枠がなかったら、是非そっちのお世話になりたい。都合がよすぎる話かもしれないが……」
忘れもしない。元G級パーティーの【深紅の絆】……。グロリアたちがもし、ジンとかいう黒魔導士と一緒にいることがわかれば、俺は潔く身を引こうと思う。
「いや、モンド君ほどの実力者なら、当然選ぶ権利がある。僕たちは気長に待つよ。ね、みんな」
「おう、モンド。そして俺はいつの日か、異次元の力を持つお前に依存するんじゃなく、頼られる存在になってやるぜ!」
「えぇ……?」
「バルダーね、私がモンドおにーちゃんのお嫁さんになって引き留めるって言ったら、じゃあ俺はモンドに頼られる兄貴になってやるとかいうの。もうわけわかんない……」
「あ、兄貴って……」
「いや待て、その枠は俺が貰おう。モンドに頼られるのはこの俺だ、バルダー……」
「キール、こいつ、横取りする気か!?」
「ん、俺とやろうっていうのか?」
「……」
一体なんの勝負をしてるんだか……。でもこれくらい向上心があるなら、【時の回廊】パーティーはただでさえ強いんだし、今後さらに成り上がっていきそうな気配がする。
それから、俺はラダンたちと別れ際に報酬を全部貰う格好になった。金貨5枚もだ。
みんなで分けようと何度も言ったんだが、絶対にダメと口を揃えて言われたので最後は快く受け取ることに。
これならもうちょっと稼げばしばらく依頼を受けなくても大丈夫そうだし、あと一組低級パーティーを成功に導くことができたら、グロリアたちのいる都に行ってみようかと思う。ラダンたちを待たせるのも悪いし、そうするか……。
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