妄想聖書

丸我利伊太

想生記 第一章 光あれ

遥か、遥か、遥か遠い昔。

現在から2の596兆乗秒ほど以前、そこにはまだ、神は存在しなかった。


たまたまの偶然が重なった。もしこの偶然が起こらなかったら? ほんの少しでも違う形だったとしたら? もし闇が世界を支配してしまったら、光が闇に負けてしまったら、悪が正義を駆逐してしまっていたなら。


初めての奇跡が起こったのだ。


まず無が生まれた、それとほとんど同時に有と時間が生まれた。無から有、有から無へとゆっくり振動をし始めた。

それは0次元から一次元への振動だった。

これが最初の初めての世界の誕生だった。


またたく間に次元が生まれては消えていった。一、十、百もの次元、そしてゆりかごが揺れるように、12次元で安定するようになった。 

無、点、線、面、立体。

次元は複雑にからみあっていた。

それは、運命なのか神がいない世界になぜそれは起こったのだ!


6次元だ、その6次元で光が発生したのだ。

この時、もし光が生まれなかったとしたら。誰も「光あれ」と叫んではいなかった。

それなのに光が、光が。

光はすべての次元を照らした。


無限大の光が発生した。一つの光が2つになり2つが4つ、8、16,32、64、指数関数で増えてゆく光。

小さな、小さな次元の中に無限大のエネルギーが蓄積されてゆく。生まれたての宇宙は爆発をした。

宇宙は光の速さで膨張をし始めた。


光の中に速度が遅くなるものが現れた、それが物質の始まりであり、速度が変わらないものが波の始まりだった。

物質は集まってゆき、波は広がっていった。


宇宙の始まりだった。それは4次元で起きたのだ、その4次元の影が照らし出されたのが3次元だったのだ。

4次元は波と物質に満たされていた。

物質の中に波が流れた。物質と波は複雑に絡み合ってゆく。


長い、長い、時が流れた。

複雑な物質と波、その中についに言葉が生まれたのだ、「ああ」という言葉「んん」という言葉。

言葉はあふれていった、そして運命の言葉の発生、その言葉とは「怖い」だった。


「寂しい」「つらい」など否定的な言葉が生まれていった。

「愛」という言葉も生まれた。


なぜ、この言葉が生まれたのだろう?


そして「悪」という言葉、「正義」という言葉、宇宙の流れを変えてゆく重要な言葉が現れ始めた。

そして、ついに、ついに、意識が生まれたのだ。それは、自分も他もないものだった。

つまり、複数の意識が混ざり合っていたのだ。混乱と混沌、これは統合失調症、精神分裂病、いわゆる精神疾患のようだった。


私は誰だ、

君は誰だ、

私の中に君がいる。

君の中に私がいる。

ここはどこ、

何故私がここにいるの、

君と僕、あなたと私、


彼らは、戦った、その戦いは続いた。


彼らは問題を解決する方法を導き出していった。

一つの意識ごとに一つの宇宙を与えればよかったのだ。


一つの宇宙に一つの心。


宇宙はいくつもに分かれていった。

ここに、平行宇宙が始まったのだ。

宇宙は幼かった。彼らは会話を楽しんでいた。平和な日々が続いた。

彼らは感じていた、ただただ幸せな時を過ごしていた。


年月は流れていった。


ある時、奇妙なことが起こった。

彼らが経験する初めての出来事。

宇宙の一つが消滅したのだ。物質と波が無となったのだ。

これが宇宙の死なのだ。


彼らはまだ気づいていない、自分が死ぬことを……。


「Aさん、どうしたのかな?」

「Aさんいなくなっちゃった」

「おかしいなー」

「Aさんに会いたいなー」


そしてまた一つ、宇宙が消滅した。

ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、


彼らは慌てだした。


「何が、起きているんだ」

「ああ、仲間が消えてゆく」

「次は誰だ、僕か、僕なのか」


一つ、一つ、宇宙は消えていった。


「恐ろしい、恐ろしいことだ」


宇宙は嘆き、苦しんだ。

最後の宇宙が消えた時、世界は沈黙に包まれた。

物質と波には寿命があったのだ。


これで終わりなのか?

これで世界は終わりなのか?


いや違う! 次元、空間、時間はまだ残されている。

次の奇跡が起こるために、まだ時間が進んでいたのだ。


奇跡は起こる。


確率的に起こるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る