快速殺人電車 第3話
「そこの人!大丈夫ですか?」
大成はOLに向かって声を掛けた。
痴漢をこれから行おうとしている男性がこちらに気付き、こちらを向く。
近寄らせるのを阻止しつつ当たり障りのない言葉を選んだのが良かったのか、OLは俯いた顔をこちらに向けた。
その表情はどこか暗いが、大成の記憶にあるような狂気には満ちてはいなかった。
それに安堵したのか、大成はサラリーマンの方へチラリと視線をやってからOLに近寄った。
「どう・・・して・・・?」
「お具合が悪そうだったので」
嘘である、これから後ろの男が何を行おうとしているか何故か知ってしまった大成はそれを阻止したのだ。
OLに触れはしない、あの狂気に満ちた顔を思い出して大成は触れてはいけない気がしたのだ。
だが、大成の行動が功を成したのか、女性が豹変する事も、男性が殺されることも無くなったように感じられた。
「とりあえず座って下さい」
「ありがとう・・・ございます・・・」
OLを近くの座席に座るよう促す大成、それにゆっくりと答えるOLの生気の無い様な声に少しゾッとした。
何時の間にかサラリーマンの男性も離れた場所に座った様で既に近くには居らず、大成はチラリとその座った場所を確認する。
その時であった!
「うぅ・・・うぐぐ・・・がっ・・・」
突然座ったOLが苦しそうに喉を押さえ始めたのだ。
その呻き声に驚いた大成だったがそれを見て目を疑った!
彼女の喉に手が浮かんでいたのだ。
それはまさしく人の手、だがそれは実在しない・・・何故ならば首を絞めつけているその手は彼女の喉に浮かび上がっていたからだ。
喉の皮膚が人の手の形に浮かび上がり、まるで彼女の首を絞めつけている形になっていたのだ。
苦しそうに喉を搔き毟るOLだが、その爪が付けた傷からは血が出ない。
そこに何も無いかのように跡が何も残らないのだ。
「がっ・・・がぁぁ・・・」
苦しそうにOLが顔を上げた。
その目を見て大成は息を飲んだ。
目が見開かれ、眼球が出血したのか白い部分が真っ赤に染まっていたのだ。
助かろうと喉を掻き毟るがスポンジを引っ掻いている様に抵抗が無く、明らかに異様な様子に大成は一歩後ろに下がった。
その時であった。
「がふっ?!」
メキョッと何かが潰れる様な音、そしてOLの目がグルんっと裏返った。
白目な筈のOLの目は眼球が真っ赤に染まっており、開かれた口から唾液が漏れる。
痙攣するその体から突然始まる脱力、それは意識の喪失を意味していた。
「う・・・うわぁあああ!!!!」
思わず声を上げる大成、一歩下がったそのスペースにOLの体が崩れ落ちる。
事切れた様で、まるで荷物が崩れる様に落下するイメージそのもので倒れたOLはピクリとも動くことは無く、そのまま生物が物に変わったのを意味していた。
「そ・・・そんな・・・何故・・・」
OLが人を殺すのを止めた筈なのに結果はOLが死ぬ、意味が分からない目の前の光景・・・
だがそれ以上に不可思議な事がある・・・
車内に居る人が誰もこちらに興味が無いように感じたのだ。
「な・・・なんだ・・・これ・・・」
あり得ない不気味な雰囲気、無視ではない、こちらに気付いていないかのような雰囲気なのだ。
それも、あの痴漢をしようとした男性ですら全く視線を向けないのだ。
意味が分からない光景にただただ狼狽える大成、しかしそんな大成に更なる追い打ちが・・・
「ちょっと止めてよー」
少し離れた場所に立っていた女子高生3人組、その一人が上げた声に大成は恐る恐る視線を向ける。
そこには二人の女子高生が一人の女子高生の首にキスをしていたのだ。
いや、それはキスではない・・・
キスをされていると思われた女子高生の首からは血が垂れていたのだ。
「ねぇ・・・ちょっと・・・痛い・・・本当に・・・いた、いた・・・いたたたた・・・う・・・うわ・・・あいだだだだだだ・・・・」
段々とその声が大きくなり、嫌がる女子高生の抵抗が必死さを増していく・・・
そして・・・
「あっぐっがっぎぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」
双方から女子高生の顔が離れた。
上がる叫び声、噛み千切られた首から噴き出した血が周囲に飛び散り真っ赤に周囲が染まる。
非現実的な光景がそこに広がり訳が分からない大成はその場に立ち尽くすのであった・・・
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