第12話「浮気者には鉄拳制裁!」

 美鈴を連れて生徒会室に行くと、先輩が生徒会長の席に座って待っていた。


 生徒会の中でもトップに君臨する生徒会長はこの部屋の中でも異彩を放つほどに華々しく、窓際の全体が一望できる場所に置かれている。


 俺や美鈴、他の役員が座る机よりも大きく、まるで企業の社長が座るような豪華な椅子で誰もが憧れる立場でもある。


 そんな大きな椅子に鎮座している先輩と言ったら風格もさることながらにあってはいるのだが、やや大きさが足りないのも否めない。


 って、変なこと分析している場合じゃないんだっけ。


「カケル……と、美鈴君か」

「美鈴君じゃないわよ、私のことを馴れ馴れしく名前で呼ばないでくれる?」

「そっちこそ、目上の人には敬語を使わないのかい?」


 こんな風にさっきの口調で分かった人も多いだろうが美鈴は先輩に対して当たりが強い。もともとつんけんした性格だったのでおかしくはないはずだが、それでも先輩だけにはなぜか当たりが強かったりしていて俺も苦労している部分がある。


 それに、美鈴は俺以外の人間に名前で呼ばれるのが嫌いだ。女子にも男子にも一律に苗字で呼ばそうとする。


 そして最後に、今の先輩は絶賛生徒会長モードである!

 うん、こういう先輩も非常に良いね! おれにだけギャップを見せてくれるのも最高にイイ!




 美鈴は先輩に向けて唾を吐き捨てるように言い放つ。


「はっ! 1年生で副会長の私の方が目上みたいなもんでしょうがっ」

「ふぅん、それは私もそうだったんだけれどもね。まぁいい」

「よくないわよ! 私はあんたに話があったきたの!」

「そうなのかい?」

「えぇ、まっくんとの関係についてね!! 色々と根掘り葉掘りしなきゃなって思って――ね?」


 ギロリ。

 獣のような鋭い瞳が隣でボーっとしていた俺に向けられる。

 慌てて気を付けの姿勢を取り、コクコクと頷いた。


「んぐっ――!?」

「どうした、翔琉君?」

「ん、あっ、なんでもぉおお!?」

「……お腹でも痛いのかい?」

「い、いえ、なんでもないですっ」

「そ、そうか。ならいいんだけれども」


 うん、痛い。

 俺の背中に回ってる美鈴の左手が皮膚をギギッと抓っている。


「それで、話って?」

「えぇ、まずはこの写真のことをね?」


 そう言って美鈴が取り出したのは俺と先輩が仲良く一緒に登校する写真だった。


「あ」

「う」

「へぇ、その反応じゃあなんか裏があるのよねぇ? 今まで一度も二人が二人だけで一緒に登校するところなんて見たことなかったのに、これはどういうわけかしらね?」

「そ、それは……さすがに盗撮するのはよくないし、副会長としての自覚が足りないんじゃないかな?」


 驚きつつも耐え凌ぎ反論する先輩。

 しかし、そんな反論も効かないどころか余計に苛立たせた。


「本人に許可は得ているわよ? ね、カケル?」

「ん……え、俺!?」

「本当なのかい? かk——翔琉君!?」


 視線を向けられてしどろもどろになっていると、足に激痛が走った。


 思わず視線を下に下げると美鈴の足が俺の足に乗っかっていた。どんどんと上がっていく圧に耐えられなくなり、首を縦に思いっきり振ってしまう。


「んぐ……は、はひっ!」

「……ん」


 めっちゃ睨んでくるんだけど先輩!

 さすがに生徒会長モード兼裏日常モードは感情がグッチャで怖い!!

 マジでごめんなさい! 脅されているんです!!


 どっちに転んでも死にそうな状況で苦しみに耐えていると、先輩は溜息を吐いて美鈴に言い放った。


「そうね、分かった」

「何が分かったのかしら?」

「その写真のこと。別に何か怪しいことをしているわけじゃないの。ただ、昨日の事件知ってるでしょ?」

「えぇ、もちろん。あんたがカケルを危ない目に合わせたんでしょ?」

「おい美鈴、それはいくら何でもこじつけって」

「でも、二人で買い物に行かなければあんなことに巻き込まれなかったでしょ?」

「それは——」

「いいから、翔琉君。その件は確かに私が原因だ。悪かったね」

「えぇ! それで、その件と今朝のはどういう関係が?」


 止まらない二人。

 仲の悪い我らが高校の二大巨頭のバトルは始まったらだれも止められないと、生徒会メンバーの中では誰もが知っていることだ。


 もちろん、一般生徒には知られていない。生徒会室の中だけの話だ。


「あぁ、私の家に泊まってもらったんだ」

「は? 何言ってんの?」

「そうだよね、翔琉君」


 馬鹿じゃないのと笑いながら否定する美鈴と確認を取ろうと俺に振ってくる先輩。二人の視線が一気に俺に向いて足が竦む。


「うん……」


 ただ、こんなところでうまい嘘など付けるわけもなくコクコクと頷くと見つめてくる美鈴の視線がだんだんと尖っていくのが分かった。


「え?」

「そう。私が通り魔に殺されそうになってちょっと寝れそうになかったからね。一緒に寝てもらったの」

「い、一緒……に?」


 だんだんと神々しく赤くなっていく美鈴の頬。そして視線は先輩からだんだんと俺に映っていく。


「え、いや、それだと語弊が⁉」

「語弊って、もしかしてそれ以上の事をしたの?」

「え、ちがっ――そんなこと断じて俺はっ」


 ニヤリと笑みを浮かべるその表情が視界の端に見えて、気もが冷えたと同時にどんなに否定しても美鈴のプルプル震える姿は変わらず。


 俺はその後、甲鉄の薔薇姫の鉄拳をもろに食らうのであった。



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