第10話「私ってかわいいのかな?」



 結局のところ、浴槽の中でも廊下でもなく先輩のベッドの隣の床に敷かれた布団で寝ることになった。


 俺が変なこと言った節はあるけど、なんだかんだ言って先輩は優しい。


 さすが、完璧で後輩の事もしっかりと考えられる皆の生徒会長だ。

 ただ、少しだけ顔を赤くしていたのは可愛かった。


「ねぇ、カケル」


 布団からはほんのりいい匂いがして思わず鼻を埋めようとしていると隣から声が聞こえてきた。

 

「あ、はいっ!」


 ギリギリのところで返事をすると、先輩が寝返りを打って怪訝な視線を向けてくる。


「どうしたのよ、そんな元気よく」

「あぁ~~別に、ちょっといい匂いだなと」

「変態ね」

「へへへ、それほどでもぉ」

「褒めてないけどね、もう。変態で手のかかる後輩は色々と大変ね」

「はははっ。あの時先輩が助けてくれたから生きてるところあるので」

「それはそうね」

「あの時の事は感謝してますよ、俺」

「ほんとに? 私の事散々弄ってくるしそうは思えないんだけど」

「あれは……ほら、先輩こそ俺の事いじってきたじゃないですか?」

「お返しってこと?」

「はいっ、俺ばっかりやられてるのは腑に落ちませんからね!」

「もう。なんか生意気になったよね」

「じゃあ、生意気な後輩は嫌ですか?」

「学校ではもっと静かなのにってね」

「学校じゃ影薄いですし、モブの一人的な! というか、先輩が輝きすぎなんですよ。歩いていれば黄色い声援じゃないですか」

「黄色い声援……ね」


 すると、先輩は声のトーンが落ちて悲しそうに呟いた。


 そういった反応をする理由は何となく分かっている。

 生徒会長伊丹真礼はとんでもなく凄いことは周知の事実だった。


 定期テストでは常に1位を取り、全国模試でも常に上から50番台には入っている。加えてスポーツにもたけていて体育の体力テストではすべてが満点。そして高校の顔でもある生徒会長をしていて教師からの信頼も厚い。


 非の打ち所がない超絶な成績を持っている彼女にはよく黄色い声援が飛び交うのだ。


 廊下を歩けば女子に「きゃぁ! あれが伊丹会長よ、凛々しい姿よね~~」とほめたたえられ、

 

 女子が落したハンカチを拾ってあげると「うわぁ、真礼様が私のハンカチを触ってくれたんだけどもう一緒洗わないわ!」とオタク発言をされ、


 生徒会長として壇上に上がって話しているときゃっきゃと女子が声援を送ってくる。


 ここまで聞いて分かっただろう。

 先輩に黄色い声援を送るのは全員が全員女子生徒なのだ。


 すれ違う度に視線を送るのは女生徒で、何か親切をしても振り向くのが女生徒で、男子生徒は凄いとは理解していても何か声を掛けたりすることがほとんどない。


 まぁ、実際のところ言うと先輩が好きな男子もいるんだけど。あまり口に出さないだけで。だって、貧乳好き扱いされちゃうし。ほんtの、貧乳に謝れってな。


 とはいえ、それはそれだ。


 つまりそこに先輩の自信のなさが窺える。


 俺と会った時はよく笑うし、よく話すし、性格も割と明るかった。


 多分それはまだ比べられる相手が少なかったから。今みたいに比べられるような場所に身を置いていなかったから自信気になれるほどの自尊心が培われていたからだ。


 でも、今は違う。


 巨乳で美少女でとにかくいろんな男子から人気を持つような女子がたくさんいる場所に身を置いているからこそ、どんなに可愛くてもどんなに魅力的な性格でもそれが物理的に隠れてしまって褒められない。


 だからこそ、表では正々堂々としていながらも裏では俺みたいななんてことない男と絡んでくれて、静かで秘かにアニメを楽しむような人になっているのだろう。


 ほんと、男の生理的な欲求のせいで酷いこっただけど別に需要がないわけでもないし、そこは前向きに考えてもらいたかったりもする。


 ものは言いようというけど、考えようでもある気がするよな。


「先輩、せっかくなんで悩みとかないですか?」


 そんなことを頭の中で勘絵がながら、胸の高鳴りを何とか抑えようとしていたが妙ソワソワするので俺は話題を見つけることにした。


「え、何急に」

「いや、なんか先輩の表情がさえなかったので

「別にいつもこうじゃない?」

「そんなことないですよ? ほら、学校ではいつもきりっとしてるじゃないですか」

「あれは……ほら、生徒会長だし」

「まぁそうですけど、俺と会った時の先輩はもっと自信気じゃなかったですか!」

「……人生、生きてれば辛いことあるの」

「俺よりも1年しか多く生きてないのに言わないでください」

「んぐ……」


 わざとらしく反応してきた先輩にジト目を向けると「ごほんっ」と咳払いをして誤魔化した。


「ま、まぁ……とにかく別に大丈夫だからね?」

「ほんとですか?」

「もちろん。ていうか、何でそんなこと言い出してるの?」

「それはさっきも言いましたけど……あ、いや、やっぱり、先輩にもらった恩を返したいからですね」

「恩? それは生徒会に入ってくれたことで返してくれたでしょ?」

「それだと返したことになってません。それに実際俺が入りたかっただけなんでそれはノーカンで」

「何よそれ……ま、まぁ、それならそうね」


 ベッドの方から悩んでいる声が聞こえる。

 数秒程考えて、返事は意外とすぐに返ってきた。


「私ってかわいいのかな?」


 それはいたって純粋な疑問だった。


 多分、この世界にいる女性のほとんどが気にしている事でもあり、誰もが通る道。そんな疑問をいつもクールで完璧な生徒会長が至極当然の如く抱いていた。


「いっつも凄いとか、かっこいいとか、恐れ多いとか。最近なんて御波先生からも恐れられるくらいで――女の子扱いされたことないし」

「先輩は自信ないのかもしれないですけど、俺はもう可愛いと思いますけどね」

「……そ、そう?」

「えぇ、もちろんですとも! 顔だって整っていますし、たまに見せる笑顔なんて最強ですよ? そりゃ皆先輩のクールなところしか見てないのでそう思うのも当然ですよ!」

「そうなの、かな?」

「もちのろんっ。自信なさすぎるんですよ」

「そ、そっか。ありがと……」

「いえいえ」

「それじゃ、おやすみっ」

「おやすみなさい、先輩」


 そうして、波瀾の一日が幕を閉じるのだった。






<あとがき>

 というわけでカクコン開催しましたね~~。

 ここまでは先輩との序章でしたが、ここからはどんどん新キャラが登場します!

 幼馴染が誰なのか? 生徒会メンバーがみんな巨乳なのか?

 このままぐんぐん話を展開させていきますよ~~!!


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