地下鉄で通り魔から救ったクールで完璧な美少女生徒会長が俺だけに自信がなくて甘々なところ見せるのが最高にあざとい。〜おっぱいだけが完璧じゃない完璧美少女〜
第0話「プロローグ2:先輩は優しさで満ちている」
第0話「プロローグ2:先輩は優しさで満ちている」
あれは1年前、初めて先輩と出会った時のことだった。
雨ふりしきる真夏の夜。
俺は公園のブランコに一人座っていた。
時刻は確か、22時くらいだろうか。
街灯が公園を薄く照らし、ブランコに座る僕の足元には雨でできた水たまりが少し
まるで、俺が流した涙の様で少しだけ胸がキュッと締まる。
悔しい、悲しい、そして何より痛い。
気持ちの悪さが胸元を締め付けて、これからどうしていけばいいか分かっていなかった。
本当に酷い話だった。
あの時の俺にはあまりにも早すぎた。
齢14の中学生、子供や少年と表しても差し支えない。
そんな幼い俺にとって悲しく、辛く――いや、そんな言葉で表せられるほど簡単な話でもない。
俺の家庭は特段お金持ちでもなかった。
母親一人で俺と妹を養っていて、一日もやししか食べれない日もあった。
いつも頑張ってくれた母親に恩返しをしたい。
いい大学に行ってお金を実家に入れてあげたい。
その一心で勉強だけは頑張ろうと、中学生ながら独学で地元の進学校の入試に向けてしっかり対策だってしてきた。
完璧とは言えないまでも、それでも楽しい時間を過ごしてきたつもりだ。
しかし、現実は非情だった。
つい最近までだ。
最近までは、2週間前までは普通だったのに。
突如の母の失踪。
予兆はあった。
機嫌はいつも悪く、日に日に痩せていく姿。
もちろん、俺は助けようとしたさ。
でも、毎度のこと苦笑で返されて、挙句の果てには「関係ないから気にしないで」と言ってくる。
関係はあるに決まっている。
だって、血縁なのだから。
それでも、そう言われても助ければよかった。今なら確実にそう言える。
あんなにも笑顔が可愛くて優しい母があそこまで追い詰められていたのだから。
ただ、結局。
母は限界を迎えてある日、書き残しも残さず。
一つ残されていたのは200万円が入った通帳と印鑑だけ。
それ以外のすべてを消して、身一つで去っていった。
大好きだった母はある日を境に姿を消したのだ。
父をあまり知らない俺にとってはたった一人だけの親が消えたのだ。
あれから1週間、俺は学校にも行けず、妹を叔母さんの家に残して、なんとか間借りさせてもらっていた叔父のアパートの片隅に引き籠っていた。
信じたくなかった。
まだ生きている。迎えに来てくれる。
その希望を感じるために自分だけの世界に囚われたかった。
何度も何度も自問自答する日々。
答えは変わらない。
お前が悪い。
心の内側からそう聞こえてくる日々に辛くなっていた。
失踪から多分13日目だったと思う。
ふと窓を見たら、雨が降っていて俺はなぜだか外に出ていた。
きっと、雨にでもこの悪い現実を流して欲しかったのだろう。
外に出て、行くあてもなく彷徨っていた。
10分ほど歩いていると小さな時に遊びにきていた公園を見つけて特に理由もなく中に入る。
雨で夜。
もちろん、公園には誰もいない。
ベチョベチョになったブランコを見かけて、ふと幼い頃の記憶がフラッシュバックして泣きじゃくってしまった。
数分泣きじゃくって落ち着いた俺がブランコに座り込み、小一時間。
眩しい街灯がうざくて、雨に肩を叩かれているような気がして、なんとなく空を仰いだ時だった。
『ねぇ、大丈夫?』
――と声がした。
透き通るような優しい声で、それでいて芯があり、とても美しい女性の声音。
ついに幻聴まで聞こえたのか。あの時の僕はそう思った。
しかし、再び。
『あれ、聞こえてる? ねぇ、大丈夫?』
同じ声音が聞こえて、僕は視線を下ろした。
すると、そこには傘をさしている一人の女子高生が立っていた。
焦げ茶色の肩まで伸びる長髪に、碧色の二重で大きな瞳。
背の高さはそこまで高くなく、多分中2の俺よりも小さい。
そんなことを考えていると、彼女は心配そうにこちらを見つめ、挙句の果てにはブランコに座る僕を覆うように傘をかざしてくる。
まるで相合傘。
それでも反応しない僕に彼女は「むぅ」と頬を膨らませる。
そして、顔を覗き込み手を振りながらこう言った。
「あれ、見えてないのかな? もしかして幽霊っ?」
幽霊な訳がない。
だいたい、俺はそれどころではないって言うのに。
なんてデリカシーのない人だ、と思った。
ただ、これ以上声を返さないのも何か違う気がして口を開いた。
「あの、なんですか」
「うわっ、しゃべった!」
今度はのけ反る様に声を上げる。
「聞こえてますよ、あと幽霊じゃないです」
「うわ、急にしゃべり始めたっ。お化けかと思ったぁ……」
「俺は人間ですけど……」
「え? あぁ、そんなのわかってるよ! 随分と無口だなと思って、その手の種族だと思ってね、あはは?」
何が種族だ。
ほんと何言ってんだこの人。
そう心で呟きながら、たははと笑みを浮かべるその女子高生を見つめる。
「そっちこそ、何しに来たんですか」
「あぁ、なんとなく?」
「深夜徘徊ですか?」
「うーん。まぁ、そうとも言う?」
「疑問形なのやめてください」
「あははっ、ごめんごめん! つい、ぶぶっ……真面目だなって……」
「……なんか、そうやって笑われるのも腹立つんですけど」
「まぁまぁ、怒るのはその辺にしてさ! それで、君はどうしたの?」
無視かよ。
俺の言葉に耳を傾けず、肩をドスっと叩きながら訊ねる彼女。
まったく、意味が分からない。そうは思いつつも、何があったかを彼女に話した。
名前も知らない謎の女子高生に僕は話した。
淡々と経緯を話していく。表情を窺いながら、話すたびに相槌や反応する。
優しい微笑みや苦笑を交え、親身になって聞いてくれる。
そんな姿を見て、俺はなぜか気が緩まっていった。
苦しかった心が晴れていき、唐突に失礼なことを言ってきた彼女がどうも心地よくて、包み込んでくれる感じがして。
しまいには「そっか」と言って、雨でべちょべちょになった手を握ってくれた。
☆★★
かれこれ、十分ほど。
話し終わると彼女は涙を流す。
「あ、あの……他人の話です、けど」
泣きたいのはこっちだったけど、もう枯れてしまって涙すら出ない。
そんな俺の代わりに泣いてくれている様でどうもほっとけなかった。
「……で、でぇもぉ!!! そ、そんなぁ、こじょぉ……あるぅ!?」
「あ、その……泣かないでくださいっ」
これじゃあまるで泣かしている感じじゃないか。
周りの目が怖くなったが、雨降る夜に誰かがいるわけではなかった。
ただ、女の子に泣かれるのは妹のあの表情がフラッシュバックするからやめてほしい。
しかし、それでも彼女の涙は否定できなかった。
「……うぅ」
だって、嬉しかったから。
今まで妹には絶対になくところは見せてこなかった。それこそ、叔母や親せきにだって見せなかった。
溢れて溢れて膨張していく感情に蓋をしてこの2週間を生きてきた。
そんな俺の思いをさっき会ったばっかりの一介の女子高生が。
やがて嗚咽がやみ、いっそ聞いてみることにした。
「あの……なんで、名前も知らない僕なんかのために泣いてくれるんですか?」
すると、彼女は傘を持っていない方の手で涙を拭って、立ち上がり、雨だまりをバシンと脚で激しく一度踏み潰しながらこう言い放った。
「だ、だって……誰かが泣いてると悲しいじゃん!!!」
「……っ」
その言葉に、なぜか胸打たれた。
まるで偽善者で、ヒーローものの主人公のような……お人好しな言葉。正解だけど、間違っている言葉に体がズキンと痛んだ。
「もうっ‼ こうするもんっ!!!」
痛んだ胸を包むかのように彼女は傘をその場に捨てて、僕に抱きついてきたのだ。
唐突過ぎて反応が出来なくて、一瞬何が起きているのか分からなくなる。
しかし、すぐに何をされているのかを理解した俺は固まった。女の人に抱きしめられるのは小さいとき以来で何を考えればいいか分からなかったんだ。
耳が胸にくっついて、心臓の鼓動がとくんとくんっと聞こえる。
片方の耳では雨の音がしているのに、反対側は落ち着く心音で。
その音に流されていくように僕も彼女の背中に手を回す。
「っ」
ぎゅっと込み上げてくる涙。
俺は知らない女子高生の胸を借りて、ひとしきり泣いた。
彼女の胸は暖かくて、それでいて柔らかさもあって——————だというのに小さかった。
暖かみがあるのに、何かが足りない。
そんなおかしな胸だった。
視界は良好。
東から西へ日は登る。
魔の渓谷はなく、平野が広がる大地に降り立つ俺の顔。
おかしなくらいに優しくて、見たこともないくらいに平坦な胸に俺は包まれながら夜中の公園で雨に打たれながら涙を流す。
それが、俺と先輩の。
先輩には優しさが満ちていて、おっぱいが足りていない。
今では懐かしい慣れ染めの話だ。
<あとがき>
次から本編です。長いプロローグ失礼しました。
シリアスだけど笑える? そしてエッチで、純愛な小さいラブコメを目指して見たので是非読んでみてください。
基本的には毎日0時3分公開です。
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