手段その36 摘発

 義理の兄弟姉妹同士での婚姻は可能。

 そんな記事を見ながら眠りについた昨日の夜は、珍しく渚と何もせずに眠りについた。


 最近えっちのし過ぎでクタクタ、なんて言えば世の男性陣から羨まれるかもしれないが、どちらかといえばその中毒性に悩んでいる感じすらあるのだ。


 もしこのまま依存症になんてなったらどうしようかと、先日童貞を捨てたばかりでも心配になるレベルだ。


 それもこれももちろん渚が魅力的すぎるのがいけないのだが。


「お兄様。試験が終わりましたらもうすぐ夏休みになるわけですし、どこか旅行へでも行きませんか?」

「いいけど、お金大丈夫かな」

「近くに日帰りで、ですよ。でも、お兄様と色んな場所に行ってみたいと思いますので」


 日帰り旅行でも、俺にとっては新鮮なこと。

 それに渚と二人ともなれば楽しい一日になるに違いないと、そう思って少し朝からテンションがあがる。


 でも、やはり義兄妹での恋愛にはまだまだハードルが待ち受ける。


 学校では俺と渚の兄妹恋愛についての噂が広まっていた。


「なあ、お前と渚ちゃんのことすげー言われてるぞ」

「知ってるよ。でも、言い訳しても信じてくれないだろ」

「そりゃあな。でも、先生が結構問題視してるらしいから気をつけろ」

「それも知ってる。まあ、なんとかするよ」


 なんとかする術など持ってはいないが、しかしなんとかするしかない。

 また呼び出しを喰らうのだろうかと心配していると、案の定昼休みに職員室に呼ばれることとなる。


 しかも今回は渚と一緒に、だ。


 俺と合流した渚は嬉しそうにしていたが俺はとても喜べない。

 これから渚との関係について尋問が始まるのだろうが、どうやって誤魔化すかで頭がいっぱいだったから。

 もちろん正直に話すという案も考えはしたが、実際どれだけの大人が俺たちのことを理解して味方してくれるかなんて未知数で、リスクが高すぎるためやはり嘘を交えた言い訳で乗り切ろうと考えていた。


 ただ、そんな心配をよそに渚はいつにも増して嬉しそうだ。

 何かいいことでもあったのか?


「渚、随分ご機嫌だな」

「ええ。だってこの後先生たちにも私たちの事をご理解いただくわけですから。これからは堂々とお兄様にくっつくことができますし」

「い、いやそれはまだ言わないほうがいいと思うぞ。リスクが高いというか」

「リスク?私との交際がリスクなのですかお兄様にとっては」

「ち、違うそういう意味じゃなくて……ええと、先生に反対されたら一緒にも住めなくなるだろ?」

「そうですね。ええ、では様子を見るとします」


 二人で職員室に入ると、数人の先生がこっちをじろっと見てきた。

 そして、俺たちを呼びつけた教頭先生がやってきて、教頭室へと案内されることに。


「どうして今日呼ばれたかわかるか?」


 少し頭の薄くなった先生が、分厚い眼鏡の奥から鋭い眼光で俺たちを睨むようにしてそう切り出した。


「いえ、なんの用事でしょうか」

「君たちは親の都合で戸籍上の兄妹となっているだけで本当の家族ではない。しかし聞けば同じ屋根の下で暮らしているというではないか。それについて、どう思う?」


 どう思う、とは随分いじわるな質問だと思う。

 もちろん常識的に考えればそんなものは論外だ。俺だってずっとそう思っていた。

 でも、こうして恋仲になってしまった今では、それが俺にとっては幸せなことで、崩したくない日常でもある。


「兄妹なので、普通かと」

「そうか。君は話が分かる人間だと思っていたが。渚君、君はどう思う?」


 俺の答えに半ば呆れるように首をふった教頭は次に渚の方を見る。

 俺も、渚がどう答えるのか不安だった。

 しかし渚はフッと笑ったように見えた。


「先生、そこまで私たちの仲をお疑いになられるのでしたらはっきり言えばいいではありませんか。不純な行為をしていないのかと」

「そ、それは……まあプライベートなことはだな」

「今も十分プライベートなことを聞いてるように思えますが?それとも、家の中にも監視カメラでも設置します?」

「そ、そこまでいってるわけではない。しかし他の保護者の方たちにも示しが」

「それなら私たちは家庭の事情でこうなっていると説明すればよいのでは?何が言いたいのかわからない以上、私からお答えできることはありません」

「……」


 教頭が沈黙した。

 渚は頭がいい。それに口も達者で俺はいつもこいつの理攻めに苦しめられていたのだが、味方となればこれ以上頼もしいこともない。


 教頭はしばらく下を向いた後、俺たちを睨みながら「今日はここまでだ。くれぐれもおかしなことはしないように」と言い残して先に部屋を出ていってしまった。


 教頭室を出た後、渚は勝ち誇ったような顔で「髪の毛だけでなく考えまで薄いお方ですね」と、声高らかにそう言って笑った。


 ただ、うちの教頭はしつこいと有名でもある。

 問題児は徹底的につるし上げ、PTAや校長、他校の先生には嘘みたいにヘコヘコする二面性を持っているという。


 だからあいつに目をつけられたのはやはり不安しかない。

 ただ。


「お兄様との仲を裂こうとするものは誰であろうと渚が始末します」


 渚は完全にやる気だった。それが余計に不安だ。


「おい、先生に変なことするなよ。それこそ退学にでもなったら」

「ええ、わかっています。要するに文句を言う先生がいなくなればいいのですから」

「まあ、そうだけど。手荒なことはするな」

「はい、私はお兄様の指示に従います」



 俺の指示とは一体なんだったのか。

 そう思わされたのは呼び出しを喰らった翌朝の事である。


 朝、臨時の全校朝礼が行われ、教頭先生の自宅から大量のポルノ写真が見つかって逮捕されたという衝撃的なニュースを聞かされたのである。


 これは偶然なのか、それともそれを知っていて渚が強気に出ていたのか。

 はたまたそれすらも渚によって仕組まれた何かなのか。


 ただ、渚に訊いても「ロリコンのことなど私は知りません」というばかり。

 結果的に真相は闇の中。ただ、一つだけ言えるのは俺と渚の生活が守られたという、その一点だけは確かなことであるというだけだった。

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