第9話※

“社会科見学”と言う言葉に完全に釣られ、結局、匠馬の思い通りにラブホテルに行く羽目になってしまった。

ラブホテルは休日料金らしく、1泊31.500円という値段に智風は目が飛び出しそうになった。

なのに、匠馬はその部屋を躊躇せずに選び、再度、目が飛び出しそうに。

部屋を一時的に借りるだけなのに、何故こんな料金がかかってしまうのか。

そして、こんな値段を気にせずに選べる匠馬の金銭感覚が智風には理解出来ない。


部屋に入るなり上着とネクタイを椅子に掛けると天蓋付きのベッドに腰掛け“膝に座れ”と。

はっきり言って今の匠馬は、半年振りに孫に会ったお爺ちゃんだ。

先程からぐりぐりと頭を撫で、すりすりと頬ずりしまくり。

その上“可愛い”を連呼。

疲れて頭のネジが緩んでしまったのではなかろうか…と智風は少々心配になってきていた。


「あ、すっかり忘れてた。クリスマスプレゼント!ボクが持ってた紙袋持って来てくれる?」


「はいはい」


やっと解放され、匠馬の膝から降りると丸テーブルに向かって歩く。

そこの椅子に上着とネクタイを掛けており、上着の前にあった紙袋を持ち上げた。

そして、見えた紙袋のロゴ。

自分が手袋を買った店と一緒で、思わず目を丸くした。


「このお店で買ったの?実は、あたしもこのお店の手袋買ったの」


何だか嬉しくなり笑うと、匠馬は“以心伝心だね”と笑い返す。

しかし、格好良いのだが、何だかお爺ちゃんぽく見えてくるのがとても…残念だ。


「じゃあ、ちーの紙袋頂戴。ちーはこっちを2つとも開けてみて」


匠馬に自分の紙袋を渡し、智風は彼の紙袋を開けた。

ピンクともう1つ、ブルーの不織布で包まれた少し大きめの物が出て来た。

店のロゴが入ったピンクのリボンを解き、開けると中から自分が買った手袋の色とさほど変わりの無い色のマフラーと、ブルーのリボンを開けると藍色のマフラーが。

マフラーを持っていない、と言ったのを覚えていてくれたのだ。


「凄い!あたしが買った手袋と色がほとんど一緒!」


智風が目を輝かせると匠馬も本当に嬉しそうに笑う。


「じゃぁ、ボクも開けさせて貰うね。…あ、本当。偶然って凄い…」


「本当にお揃いだね。タクマ、ありがとう」


智風は手袋を着けてマフラーを巻いて、洗面台に向かって行った。

子どもの様に喜ぶ智風を微笑ましく見詰め、紙袋に箱などを直そうとして何か入ってるのに気づき


「あれ…………ちー!智風!ちょっと!」


先程とは打って変わり、強い口調で智風を呼んだ。


「何?」


「ここに座って」


洗面台から顔を出した智風はベッドの真ん中で正座をしている匠馬が目に入った。

どういう訳か、匠馬は…怒っている。

何時もの優しい目では無く、睨みつけるような目つき。


智風は慌てて洗面台からベッドへ移動し、恐る恐る上がると匠馬の前に正座をした。


「ちー、これは何?」


「はい?」


差し出された物を見て、智風は首を傾げる。

それは、あの店のロゴが入った細長の箱。

開けてみると中身はストラップ。

そして、それに付いていたメモに目を見張った。


『今日は一緒に手袋を探せて楽しかったです。もっと話がしたいので今度、食事にでも。電話ください。080-XXXX-XXXX』


何が何だか分からず思わず縮こまる。


しかし、何時こんな物を入れられたのだろう、と必死であの時の事を思い出そうと脳をフル回転させる。

…もしかすると、店を出る時に店員が見せたあの有りげな微笑みと、男性が言っていた『ストラップ買う事出来た』というのはこの事だったのかも。

向こうは気を使っただけかもしれないけれど、そのせいで匠馬が何故か怒っている。

知らない人に物をもらった事はいけないとは思うが、貰ったのは自分であって彼ではない。

なのに、そこまで怒る事なのか、智風には全く理解が出来ない。

けれど、理由がどうであれ、こんな事になるのなら連れて行って貰うのを考えればよかった。

だが、終わった事をどうこう言っても変えられるわけがない。

帰宅した時にでも一度確認すれば良かったのだ。


「大家さんと買いに行ったってボクは始めにそう聞きましたけど?でも、この字は男だよね?男と買い物に行ったとか聞いてません」


目の前では眉間に深く皺を寄せてメモを指で挟み目で文字を追い、何回かそれを繰り返した後、クシャリとメモを握り潰した。

あからさまに怒っている。

こんな匠馬を見るのは初めてで、どうしたらいいか分からずオロオロとしてしまう。


「弁解は?」


「…っと、あ、あの…ですね…」


「はっきりと喋って下さい」


「は、はい!あの、お、大家さんとはショッピングモールに着いたら別行動っていう事になって、…その、いや、それで…一人でお店に向かってたら…怖くなって、立ち眩みしちゃって…その時、男性に助けて貰って…、そ、そしたらその人が、行くお店が一緒だからって…連れて行ってくれるって言うから…、お願いして、連れて行って貰いました…」


「………」


「でも!本当に連れて行って貰っただけで、買い物終わったらあたしは大家さんと喫茶店で待ち合わせしてたから、そこに行ったし、その男性もお店出たら何処かに行ってしまったから、……何でそんなのが入ってるのかは…分からないし…知りません…でした…」


父親に叱られる娘のように、智風は縮こまって喋る。

匠馬の眉間には更に深い縦皺が入り、人差し指が太ももをトントン、と苛立ちを表すように叩く。


「出来たらそういう話は1番先にして下さい」


「は、はい!」


「それに、“行く店が一緒”って言うのは100パーセント口実です。ナンパの手口です。君は自覚して無いから言っておきますが、そんな格好して一人で歩いてる美人さんが居たら誰だって声掛けます。一人なら尚更だし、少しは自覚して欲しんですけど」


匠馬は自分の何処をどう見てそんな言葉が言えるのだろうか、と思ってしまう。

以前、『美人』だの『可愛い』だの連呼されるので、『悲しくなるからお世辞は止めて』と言った。

『貞子』なのに、そんな事言わなくてもいいのに、と。

少し恥ずかしいのと、お世辞に浮ついてもいけない、という気持ちで口を固く結び、俯く。


「簡単に人に付いて行っては駄目です。店内とは言えど、気を付けないといけません。いい?何かあった後では遅いんですよ?」


「はい…」


「「………」」


暫く沈黙が続いていると、匠馬が何を思ったかストラップを指に掛け、それを少しの間、見詰めると箱にコトン…とワザと音を立てるように落とした。

そして、腕組みをすると大きくため息を吐いたので、驚いた智風は慌てて顔を上げた。


「た、タクマ?あ、あの、ごめん…ね?」


「何が“ごめん”なの?」


「え、あっと、…その…知らない人に、勝手に付いて行って…」


「それだけじゃないでしょ?」


「あ…、はい」


「反省してるの?」


「…ごめんなさい…」


「ボクさ、人一倍心が狭いんだよね…。今、すっごいはらわた煮え返ってる。黙ってた事もだけど、男の誘いに簡単に付いて行ったちーにもね」


「え!?ご、ごめんなさいっ、本当に反省してます!」


「本当に反省してるの?」


「反省してます!」


「………なら、どれだけ反省してるか態度で見せて?」


「え、あ、あの…態度って…何で…?」


謝っているのにそれ以上何を望むというのか。

全くもって理解できていない智風の発言に、あからさまに匠馬が苛立った顔をした。


「“何で?”……ちーはボクの気持ちなんてどうでもいいんだ」


「ちが、っ、そ、そんな、」


「わかった。ちーにはボクはその程度の存在なんだ。……なら、他の人に目がいかない様にしてあげるよ」


急に立ち上がると智風の腕を掴み、脱衣所に向かう。


「た、タクマ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」


何をされるのか分からず、怖くて謝る智風の言葉には耳を貸さずに服を剥ぎ取って行き、だだっ広い風呂に引っ張り込んだ。

下手に見える、というのは目のやり場に困る。

今迄、ぼんやりとしか見た事が無い匠馬の躰がはっきりと見えるのだ。

必死で顔を背けながら着いていくと、壁に埋め込まれたテレビの真正面の縁に匠馬は腰を下ろし、智風を膝の上に座らせ抱きしめ手元にあるボタンを押した。

膝の上に座らせられるとは思ってもいなかったので、驚いて顔を上げると急に大画面に24時間エンドレスに流れているアダルト番組が映し出され、慌てて画面から顔を逸らした。


「恥ずかしがる事無いでしょ?ボクとちーだってこんなHな事何時もしてるんだし」


智風の髪を掻き分け、項に舌を這わせちゅっと音を立てて吸い付く。


「あっ!」


逃げようとする智風の躰を引き寄せて耳朶にしゃぶり付くと、全身が一気に桜色に染る。


画面では女が男に跨り、腰を振っている。

目を背けたいのに他人の性行為に釘付けになってしまい、固まっていると匠馬が耳の輪郭を舌でなぞり、耳元で意地悪く囁いた。


「あの女の人がしてる事、ちーにして貰おうか。ねぇ?」


「や!やだ!」 


ぐっと両足の太股を掴かみ、其の儘大きく開かせる。

足を絡らみ閉じる事を許されず、逃げようとすれば腕に力を籠め、智風の手を掴むと彼を受け入れる場所に手を持って行った。


「じゃぁ、…ここに自分で指入れてシて見せて」


その言葉に智風の全身が強張る。


「た、タクっ、ん!」


少し強引にぐいっと顔を横に向られ、くちづけされる。

匠馬は荒々しく智風の口内に舌を這い回らせると、彼女の口端からどちらのモノか分からない唾液が顎を伝い、胸まで垂れて行く。

歯形を確かめる様に舌でなぞり、じゅるっと智風の舌を吸い上げると、その苦しさに思考は鈍りっておりされるが儘。導くように智風の手を彼女の秘部へと。

そこはすでに濡れていて、二人の指を濡らす。

彼女の指で何度か往復させゆっくりと侵入させていく。

突然の事に驚いてビクリ、と躰が弾む。


「ん!」


「Hな番組見たからかなぁ?もう濡れてる」


拒む事は許されないと悟り、智風は素直に従う。

くすくすっと耳元で囁くように笑われ、胎内ナカに水気が増していく。


「本当に素直な躰だね」


「あぁ…はぁ…んっ」


「自分が気持ち良い様に動かして」


肩や項にきつく吸い付き、きゅっと乳首を摘まれ気持ち良すぎて堪らずに声を上げる。


「あぁん!タクマァ…っ!ん、あ…ふ、ぅっ」


「ほら、もっと動かして」


手伝われその通りに指を動かしてみれ、信じられない程、躰が熱くなっていく。

初めての行為なのに、頭がおかしくなったのではないかと思う程、興奮している。


「や、んん!あっ…あん!」


「気持ちいい?」


そう問い掛けられ、智風は必死に縦に首を振った。


「なら、声に出して言わないと」


「は、…ぁん、っきもち…いいっ」


自分でヌチヌチといやらしい音を立てて指を抜き差し、恥ずかしいどころか信じられないくらい興奮している自分がいる。


「ん、ん!ぁ…やぁ、もうっ!」


智風は堪らず、ひくんっと躰を撓らせた。

躰を預け、小刻みに震える。


「はぁ…はぁ…」


「駄目じゃない。イク時は必ず言葉に出す約束だよ?」


智風を見下ろして髪にくちづけると、放心状態でいる智風の埋め込んだままの指をと引き抜いた。


「っ!」


その指にはねっとりと蜜が絡みついており、その指を見て恥ずかしくなり顔を赤らめる。

すると、匠馬はその指の根元まで咥え、音を立ててしゃぶりはじめた。


「あっ…」


切なそうに声を上げ、智風はその行動を真っ赤になりながら見つめてしまう。

一度引いたはずの熱が、またぶり返して来る。


匠馬はちゅっと指の先を音を立てて口を放すと、ゆっくりと智風の唇に触れてからキスを深くする。


「んっ……ン、ちゅっ…ふ、んぁ…はぁ」


両手で胸を揉み、更に硬くなった乳首を転がされて思わず腰が浮く。

逃げられないように左腕が腰に回り、右手が外股から膝、内股へかけゆっくりと撫でていく。

そして、割れ目を確かめる様につつっ…と指先で触れると、ピクリと智風の躰が跳ねた。

ゆっくりと指を差し込むと、一瞬、躰が強張った。

分かっていた行為なのに、その先の快楽を考えると少しだけ怖い。


「やぁ…んぅっ」


「凄いね、ここ。目茶苦茶熱い。それに、本当に美味しそうにボクの指食べてるよ?ほら。目、逸らさないでちゃんと見て」


圧し掛かる様な形で躰をほんの少し前に丸めさせられ、下を見させられれば自分の胎内から溢れ出す蜜が匠馬の指だけではなく、手首まで濡らし照明のせいでテラテラと光っている。


「も、やめ、んん!はぁ、…タ、クマァ…っご、めん、なさっ、ん!」


「智風が誰のモノか分からせないとね。智風自身にも。じゃないとまた同じ事繰り返す可能性もあるからさ」


「やぁぁぁん!駄目!激しくしな、いでぇ!ひゃあッ、イッちゃうぅ!!」


激しく頭かぶりを振り腕から逃げ出そうとするが、力ずくで抑え込まれる。


「だめ!だめだから!放して!おねがいっ!!やぁぁぁぁぁ!!!」


その瞬間、ぷしゃぁ……と。


「あ…ぁ…」


智風は何が起こったか理解できずに身を縮め、ガタガタと震えていた。


「あ〜ぁ。ボクの手がびちょびちょになっちゃった。そんなに気持ち良かった?潮まで吹いて。ちーはどんどんHになってくね〜?全く、こんなHな姿。他の人が見たら驚いちゃうよ?」


こんなあられもない姿を他の人に見せるなんて、できるはずもない。

頭の片隅でそんな事を思うが、躰が気怠さで動かない。


放心状態といった方がいい智風はいつの間にか匠馬にお姫様だっこをされ、湯船に浸かっていた。

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