§1軽率な行動

 千宙に裏切られたと思った七海は、彼からの連絡を無視して1週間が過ぎた。このままではいけないと気付いていたが、やるせない思いでいっぱいだった。

「梅枝さん、どうしたの?元気がないみたいだね。」と寮の先輩に声を掛けられた。

「実は彼氏とケンカして、最悪な気分なんです。」と言うのをきっかけに、私は経緯を説明した。千宙と再会して付き合うようになり、初体験を約束した日に裏切られた事、しかも私でない女の子の部屋に行った事、拠所ない理由があるのは理解できても簡単に許せない気持ちだと、余すことなく話した。先輩は黙って聞いていて、時折うなづいたりなだめたりしてくれた。話し終わると落ち込んでいた気分はいくらか楽になり、千宙の言い訳を聞いてやろうという気になり始めていた。


 熱心に話を聞いてくれた先輩は、七海をサークルのコンパに誘った。七海は千宙に対する仕返しと、うっぷん晴らしのために誘いに乗った。一次会は居酒屋の一室に、千里大の男子8名と聖海女子大の女子6名が集った。1年生には酒を飲ますなと言いながら、七海を含めた未成年の男女4名はアルコールを口にしていた。

「七海ちゃん、今日は雰囲気が違うね!こういう時は、思い切り羽目を外そうよ!」

「いいですよ!楽しまなくちゃね、先輩!わたしを口説こうと思ってるんでしょ!」

 私は言い寄って来る男子学生にからんで、うっ積した思いを吐き出していた。そんな私の行動を、以前話をした黄川田きかわださんが離れた場所からこちらをうかがっていた。


 七海は飲み慣れない酒にテンションが上がり、タクシーに乗って二次会の場所へ移動していた。そこは男子学生のマンションの一室で、男子4名と女子3名が来ていた。黄川田はじめは七海を心配して、行動を共にしていた。

「おい、黄川田、お前が二次会に来るのは珍しいな!気になる子でもいるのか?」

「いや、そんな事はないけど、何となく!」と言い逃れをしたが、皆にはお見通しだった。それぞれが好きな飲み物を手にし、男女入り混じっての宴会が始まった。

「七海ちゃんは、彼氏がいないの?俺で良かったら、付き合わない?」

「彼氏はいるけど、ただいまケンカ中です。先輩は彼女がいるじゃないですか!」

 私はそう言っていなしたつもりだったが、先輩に肩を抱かれて引き寄せられた。

「やめなよ、嫌がってるじゃん!」と口を挟んだのは、黄川田さんだった。

「おお、黄川田、お前やっぱり七海ちゃんが目的だったんだ。いいよ、譲るから好きにしたら!何ならベッドを使っても良いぜ!」と挑発され、「女の子はモノじゃないんだから」と彼は真剣に怒っていた。


 他の女子は男子といちゃつきながら、彼らのやり取りを白い目で見ていた。七海は黄川田に促されてその場を後にし、彼にタクシーで寮まで送ってもらった。

「何で?わたしはもっと遊んでいたかったのに。」と寮の前で、私は駄々をこねていた。彼は幼い子をなだめるように、私を支えながら頭をなでてくれた。ふと千宙の事が頭をよぎったが、彼の包容力に甘えていた。

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