第6話

 はい死ん……でない!! 生きてるぅぅうう!!  

 目の前にはアタシの部屋の天井。人の気配で横を向くと、真っ裸マッパのヤマトタケルが肘をついてアタシを見下ろしていた。

 真っ裸って、いくらなんでも舐めすぎじゃない? っていうかアタシも裸にバスタオル巻いてるだけじゃん! てか、身体が動かせない!

「すまん。ちょっと間違えた」

「ちょっと間違って失神させんのおかしくない!?」

「だからすまんって」

「なんで一思いにらないの?」

「色々と心の準備が必要だろう。段階を踏んでいかないと……それともなんだ? お前はもうやられたいのか?」

 んあー。はいはい。神話ネームクラスともなればね。すぐ殺せちゃうから、美学とかね殺り方とかにこだわっちゃう訳ね。あー。はいはい。

「殺られたいわけないでしょ!? さっきも言ったけどね? アタシはまだ恋もしたことないし、彼氏も作ったことないの!」

「さっきも聞いたな。まったく同じことを、だ。じゃあこうする。今から一年。おれと過ごす。それで決める。どうだ?」

「どうって……」

 決定事項のくせに! ボスにも大して覚えられてないペーペーだもの。もう選択肢なんかない。一年後、なんでか知らないけど、アタシはコイツに殺される。

 ……ん? ちょっと待てよ? 恋人同士のシチュエーション。一年も過ごせば、情が湧いて殺せなくなるんじゃない? 可愛い女になれば……。うん。ないな。

「ヤマトタケル」

「なんだ」

「アタシ、一年はアンタに殺られないんだよね?」

「まあ、そうだな。約束してやろう。ただし、あんまり煽られちゃ、おれだって我慢できるかわからない」

 やっべー。アタシ、リッキーさんのお店と今のでだいぶ煽っちゃった。もう実力の差は歴然だし、下手に抵抗したら寿命が縮む。

 あーでもなんで? なんで神話ネームクラスがくるの? アタシ、なにした? え? コイツに直接なんかした? あーヤダ。なんにも思い当たる節がない。

 しかもさっきからずっっと視線が遠慮ない。なに? ガン見。なんなの、ガン見。

「町田八重子。そう怯えるな」

 いや、無理でしょ。死神が真横にいてどうやって心安らかに過ごせんの?

「ヤマトタケル。約束して。一年はアタシに手を出さないって」

「お前次第だ」

「いい子にしてるから」

 ヤマトタケルの動きが止まった。わざとらしすぎたか? 半笑いっていうか、もっと表情筋使えや。皮肉たっぷりな微笑。ホントに微。すっごい強調したいほどの“微”。もうやだ。全然掴めないよこの男。

「ヤマトタケル」

「なんだ?」

「殺る時はひと思いに殺って。できれば痛くしないで」

「わかった。善処する」

 善処どころかできれば取り消しにしてほしい。だって本当に身に覚えがないんだもん。

「……町田八重子。お前からやりにくることはないのか?」

「は? アタシが? 無理でしょ」

「……そうか。じゃあ、やっぱりおれからやるしかないのか……。」

 ん? なに? 殺られる前に殺れってこと? さっきからずっと躱されてるのに?

 一年後殺されるなら、この一年でコイツの弱点とか癖とか探ったりすれば、もしかして、生き延びることができるかも!?

「わかったよ、ヤマトタケル……。アタシもアンタを殺れるように頑張る!」

「本気か? 町田八重子。お前、やったことないだろ?」

「そりゃ、神話ネームクラスは初めてだけど、アタシだってそれなりに場数は踏んでるんだから!」

「そうか……。それなりのことはやってきたってことか……」

「ふん。天国を見るのはアンタかもね。ヤマトタケル!」

「それは望むところだ」

 そういうと、ヤマトタケルは背中を向けてのっそりと起き上がった。

「どこ行くの?」

 アタシの声を無視して、ヤマトタケルはユニットバスに入っていった。なんだシャワーか。聞いて損した。

 とりあえず一年は殺られない。この間にヤマトタケルの弱点を見つけて返り討ちにしてやる。勝率は低いから、せめてヤマトタケルで恋人ごっこもしよう。利用してやる。ていうか、起き上がれないのなんなのマジで。シャワー浴びてる隙に背後狙いたかったのに!

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