デニス ルヘイン『夜に生きる』

デニス ルヘインの『夜に生きる』は2013年のエドガー賞長編賞を受賞し、ベン アフレック監督主演、製作にレオナルド ディカプリオが名を連ねるなど話題に事欠かなイおもろ本だが、ウィキの映画の興行収入を見てみるとずっこけたようである。脚本もアフレックが担当しているという点が何故に原作のルヘインを起用しなかったのかと疑問に感じるのだがルヘインが多忙だったからなのだろうか?と勝手に推測。そこに映画がずっこけた理由があるような気がするのはあたくしだけだろうか?製作総指揮にはちゃっかりルヘインの名がクレジットされているのだが…映画は観てないのでノーコメント。この『夜に生きる』は、2008年『運命の日』2012年『夜に生きる』2015年『過ぎ去りし世界』とコグリン3部作となっているのだが、『運命の日』はジョーの兄ダニーを主人公として描いている作品なので先に『夜に生きる』を読んでも作品単体として楽しめるのだが『過ぎ去りし世界』は第二次世界大戦下でのジョーの後日談となっているので先に『夜に生きる』を読む事をお勧めする。ご存知の方も多いかもしれないが、エドガー賞とは近代推理小説の祖と言われているエドガー“アラン”ポーの名を冠しアメリカ探偵作家クラブが選出する長い歴史を持つ賞である。この年は『夜に生きる』が受賞したのだが、あたくし的にはこの年にノミネートされた作品の中で『夜に生きる』を超越していると思った超おもろ本があった。そこはアメリカ探偵作家クラブの選考者とあたくしとの感性の違いとご理解していただければと。その超おもろ本は次回で紹介。デニス ルヘインは日本での知名度はあたくし的にミステリーファンや洋画、海外ドラマに精通している人には浸透していると想われるがスティーヴン キングやジョン アーヴィング、ジョイス“キャロル”オーツのように超メジャーとは言えないのが此処、日本での現状だと思う。本国では文壇界では著名人などからも支持される超大物でエンターテイメント業界でも引く手数多の大活躍である。彼の名を一躍全国区にしたのは2003年公開のクリント イーストウッド監督の『ミスティック リバー』だろう。この原作がデニス ルヘインであり、2002年のアンソニー賞最優秀長編賞を受賞している。アンソニー賞はエドガー賞に比べると歴史は浅いがアメリカ探偵作家クラブの創設者の1人であるアントニー バウチャーに敬意を表して名付けられた賞であり権威あるミステリー作家の登竜門の一つである。『ミスティック リバー』は2004年のオスカーの作品賞にノミネートされ受賞は逃したものの、主演男優賞をショーン ペン、助演男優賞をティム ロビンスが念願のオスカーをゲットするという感動の一幕もあった。このコンビで思い出されるのが、ティム ロビンス監督で当時パートナー関係にあったスーザン サランドン、ショーン ペンのW主演と言ってもよい『デッドマン ウォーキング』も名作なので是非観て欲しい映画である。『夜に生きる』はこんなストーリー。禁酒法時代末期のボストン。市警幹部でアイルランド系の血筋を引く警視正トマス コグリンの息子でギャングの手下として悪事に手を染めているジョー(ジョセフ)は強盗に入った賭博場でエマ グールドと言う女性と出会う。二人はたちまち恋に落ちるが、彼女はアイルランド系ギャングの対立組織のボス、アルバート ホワイトの情婦だった。やがて勃発する抗争。ジョーはホワイトの画策により罠に嵌り刑務所に収監されてしまう。服役中にホワイトの対立するギャングのボス、トマソ ペスカトーレに見込まれ出所後にタンパで密造酒を作るように命じられる。その際のパートナーとなったエステバン スワレスと組んで密造酒の製造、流通を一手に担うようになりペスカトーレが仕切っていた頃よりも着実に純利益を伸ばしていき、その地位を確固たるものにしていく。密造酒はスラングで“Moonshiner”とも呼ばれる。これは“Moonshiner”は月光と言う意味もあり禁酒法時代に月明かりの下で密造酒が製造されていたところから由来したのが語源となっている。裏社会の人間はお天道様に背いて生きているというニュアンスや“Moonshiner”の持つ意味などから『夜に生きる』と言うタイトルを作者のルヘインはネーミングしたというのがあたくしの勝手な解釈。そんな裏社会を牛耳っていくジョーは活動家のグラシエラ コラレスと恋仲になりジョーとグラシエラは結婚する。まだまだストーリーを盛り上げる登場人物は個性豊かな人物設定で現れる。その登場人物達が起伏に富んだ展開を加味していくのだが多くを語ると、これから読まれる方の興味を削いでしまうのでストーリーのお話しはここでお終い。ミステリーのジャンルにカテゴライズされるのだが、ミステリー要素はアタクシ的には然程感じず裏社会に生きる男達の群像劇な作品といった印象。禁酒法時代のアル カポネやラッキー ルチアーノなどの伝説のマフィアの大物が幅を利かせていた頃の裏社会を彷彿とさせる覇権争いが瞼に浮かぶかのように描写されている。ジョーの人物設定は冷酷極まりないマフィアやギャングのボスというよりも、常識を備え人に寛大で自愛の精神も持ち合わせた男のように描かれている。そこに非情に徹しきれない心を持ち合わせ自ら窮地を招いてしまう場面もある。そこにジョーが辿る運命に愁嘆な情を抱いてしまう。ラストは余韻を残す切なくて、それでいてハートウォーミングな胸がキュンとする一文にほろりとさせられてしまう。ラストを読まれる際にはクリネックスの箱を片手に読んで欲しいおもろ本である。号泣まではいかないけど…

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